松波佐知子
和菓子フォトグラファー、写真家、翻訳家 神奈川県出身。和菓子、料理、ポートレート、舞台イベントの撮影等を手がける。茶室での和菓子写真教室「写菓の会」も主宰。
愛用カメラ:Nikon D610、FUJIFILM X-T3
愛用レンズ:NIKKOR Micro 60mm f/2.8、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8、XF35mmF1.4。
いま 、この瞬間/Be Present
「八重桜/double cherry blossoms」
八重桜のころんとした丸さ、かわいらしさを表すために、お菓子全体を大きく入れました。柔らかい春の光を表しながらも、花びらの形がわかるぐらいの絞りに調整しています。
写真を撮ることは一種の瞑想。自分の感情や感覚と繋がり、表現できる
長年翻訳家として活動する松波さん。自分でも表現活動がしたいと思った時に選んだのは、文章ではなく写真でした。 すぐに外国人のストリートフォトグループに飛び込み、街撮りにのめり込むように。「そのうちに、写真は一種の瞑想だと気が付きました。集中して撮っているとヨガや瞑想のように感覚が冴えてくるんです。瞑想ではよくBe Present (いま、この瞬間にいる)と言いますが、まさに私は目の前の被写体と、心の動きとそれを取り巻くすべての世界が一つになる瞬間にシャッターボタンを押すことが多いです。それは街撮りでも和菓子を撮る時でも同じですね」。
「桜襲 さくらかさね/kasane」
お菓子を着物に見立て、 桜の花と一緒に絵のように。逆光で生地の柔らかさや桜の花びらの形を引き立たせました。白とアカバナ色の取り合わせに、暗めの背景を合わせ、しっとりとした春の宵をイメージ。
「繋がり/unity」
あらゆる人種や国籍、 ジェンダーの違いを色で表したお菓子。色が偏って見えないよう3つの和菓子の向きを変えて。互いの違いを受け入れ、尊重し合う世界への祈りを表現しました。
和菓子を撮ることに、 無限の可能性を感じる
松波さんの撮影する和菓子はほとんどが自作のもの。「ほんの数センチで壮大な季節や自然を表現できることに驚き、 夢中になりました。自分の感情や感覚を表現する上で、和菓子を作って撮影することに無限の可能性を感じます」。
「青い影/a whiter shade of pale」
海の煌めきや光と影が美しいハワイの写真からインスピレーションを受けて作った、琥珀糖のお菓子。透明感のある青い影が写るように、朝の光で撮影しました。
「雨のステイション/rainy evening」
松任谷由実さんの『雨のステイション』に着想。雨の中に信号や車のヘッドライトが浮かぶ風景を表しました。寒天に含ませた空気が雨に見えるようピントを合わせています。
「波/waves」
波が立ってきらめく様子や水面の広がりをイメージ。お菓子の波の筋がきれいに見える角度を選び、波しぶきの部分に光が入り、まさにこれから崩れていく瞬間を表しました。
乾きやすく繊細な和菓子を撮影するために、気をつけていることも多いそう。「スピーディに撮影するために、先にイメージを膨らませて背景や器などの準備をします。和菓子の素材や意匠は様々なので、それを活かす光の使い方も重要なポイント。和菓子それぞれの魅力や世界観を最大限表現できるようにストーリーやセッティングを考えています。 食べてお茶を飲んだらさっと消え去る儚いものだからこそ、 心を動かす一瞬の煌めきを残してあげたいんです」。
「蓮/lotus flower」
蓮の花がこれから咲き始める早朝を表現したお菓子を、茶室『鵠沼 吉松庵』様で撮影。 蓮の花の位置がバランスよく見えるように、 庭の緑と漆器で画面を二分割しました。
「紫陽花/hydrangea」
鎌倉の明月院を訪れ、見渡す限りの青い紫陽花に癒されて作ったもの。雨上がりに花がキラキラと輝く様子を表したくて、寒天が輝くように光の向きや角度を調整しました。
「吉松/kissho」
私の主宰する写菓の会のために、茶室を貸して下さる『鵠沼 吉松庵』様への感謝を込めて。障子をひいて背景に奥行きを持たせ、 伝統ある茶室の広がりを表しました。
GENIC VOL.58 【いと、おいしくて。】
Edit:Yoko Abe
GENIC VOL.58
テーマは「おいしい写真」。
口福を感じる料理やスイーツとの出会い、オリジナリティ溢れるフードの創作、こんなシーンには二度とお目にかかれないかもと思った瞬間。様々な表現者たちが繰り広げる “おいしい” の世界を召し上がれ。