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プロフィール
熊谷勇樹
写真家 1988年生まれ、静岡県出身。横浪修氏への師事を経て2016年に独立し、フリーランスとしてファッション誌や広告、アーティストのポートレートなど幅広い分野で活動中。
愛用カメラ:PENTAX 67 II
愛用レンズ:SMC Pentax 67 90mm F2.8 / 105mm F2.4
My World, My Essence 私の写真世界
不確かなものを写して、新しい世界を見る視点を探したい。
「僕の写真に対して、“膜がかかっているよう”と言われることがよくあります。はっきり写しすぎない、ということを意識している結果かもしれません。すごく客観視した無機質な写真に憧れたりもするけど、結局、情緒的な部分があるのが僕らしい写真だと思っています」。
写真とは、物事を捉え直して希望を発見する装置。
「写真集を出して良かったのは、いつもはファッション誌など見ないような人から、僕の写真が好きだと言ってもらえたこと。とても幸せなことだと思いました。自分は、普段はとても狭い世界で生きているけど、もっと広い視野で、長い目で写真というものを捉えて形に残していきたい」。
写真で切り取った四角の外を想像してもらいたい。
「作品撮りを大切にしているのは、師匠である横浪修さんの影響が大きいです。写真集などの作品で蒔いた種は、10年後に認知されて結果が出ると思ってやった方がいい、と言われました。発信することで、写真の純粋さや新鮮さを保てます。仕事を得ることだけが目的ではないけれど、結果的に、新しいアプローチとして仕事へもリンクします」。
「いつも思っているのは、“不確かなもの”を写真に撮りたい、ということ。写真では対象を四角に切り取ります。取捨選択をして、見たいものを明らかにさせるけれど、その結果、切り取られた部分以外はどこに消えてしまうのだろう。見る人に写真の四角の外を想像させて、そこからイメージを広げてもらうことに、とても興味があります。自分の肉体的な目で見ているものが、きっと全てではない。イメージを切り取ることで、そんな事象を想起させることを写真で残したいと思っています。この気持ちは、写真を始めた頃から今に至るまでずっと変わっていません。言葉にできることであれば、言葉で伝えます。でも、不確かなものに対してはそれが難しい。だから、写真を撮っています。ただ、見てくれる人に対しては、自分の感情やエゴを押し付けるつもりはありません。自由に解釈して、そこで何かを想像してもらえれば、それで良いと思っています」。
自分ならではの軸で作品を撮ることは写真家として豊かなこと。
「今回掲載しているのは、全て写真集『Interlude』に収めている写真。どんなにクライアントワークが忙しくても、作品を撮って発信することを大切にしたいと思っています。仕事ばかりになると、他人からの評価に捉われて、結果的に消費されてしまいがち。仕事以外の拠り所として、自分ならではの軸を持ちながら作品を撮ることは、単純に写真家として豊かなことだと思います。その結果、写真に対する純粋な気持ちを保ち続けることができる気がします。写真を撮っていて嬉しいのは、『撮れた』と思えた時。思っていたものが撮れた時、思ってもいないものが撮れた時の両方がありますが、より嬉しいのは、想像を超える一枚に出会えた瞬間。撮る時はコントロールしすぎず、ハプニングが起こる余地を残すようにしています。僕の写真は、セットアップ(演出)とドキュメントが混じり合っている状態。現実をありのまま撮るわけではないけど、100%の計算はしない。不確定要素や他人が関わることで生じる面白さが入り込む余地を残し、緊張感を大切にしています。不確かなものを写すことは、新しい世界を見る視点を探すこと。僕にとって写真とは、物事を捉え直して希望を発見する装置です」。
GENIC vol.71【My World, My Essence 私の写真世界】
GENIC vol.71
2024年7月号の特集は「私の写真世界」。
写真は生き様が反映されるアート。何を感じ、何を受け取って生きてきたのか。写真に投影されるのは、自分自身です。自分らしさとはいったい何なのか?その回答が見つかる「作品」特集。私の写真世界へようこそ。