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【素の私を愛するために:2】SAKI OTSUKA

「素の私」って、どういうことだろう。メイクをしている「私」は?写真に写る「私」は?すっぴんの「私」に心底うんざりする日だってあるんだけれど...。「素」の自分自身を愛するということは、シンプルだけれど、とても難しい。ボディ・ニュートラルのムーブメントが注目を浴びている今、ありのままの自分を愛するために様々なアプローチをする3名の写真家に、その想いを伺いました。
2人目は、写真家、画家、美術家のSAKI OTSUKAさんです。

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SAKI OTSUKA

写真家、画家、美術家 東京都出身。幼少期から絵を描き、2006年より画家としてのキャリアをスタート。2011年より写真を撮り始め、写真家としての活動を開始。作品を自分の分身と捉え、セルフポートレートを中心に撮影する。女性をテーマにした作品も多数発表している。
愛用カメラ:RICOH GR III、Nikon COOLPIX A1000

裸の魂と出会うために

「いっとき着飾って外に出ることが怖く、目立たず歩いていた方が安全なんじゃないかと思ってしまう時期があって。そんな自分を、ペイントでデコレーションすることで解放してあげようという、『decorate』というシリーズの作品。だから王冠がついています(笑)」。

セルフポートレートは存在証明のため。表現の可能性に満ちているから

OTSUKAさんは被写体として活動している時に、自分の体がただ消費されてしまうことに違和感を覚え、自身も写真家として活動するようになったそう。
「私にとって、自分の表現は全て自分自身の存在証明なんです。だから、商品としてただ消費されてしまうのが辛くて。だったらいっそ自分のことは自分で作品にしようと思って。だから、セルフポートレートは私の原点。素の自分の魂を表現する手段です」。

「このシリーズは私と同じくセルフポートレートをテーマに作品を制作している、写真家のキム・ドゥハさんとコラボした新作です。命や魂の強さを表すため、コンテンポラリーダンスのようなイメージでポージングし、インターバル撮影で五秒おきにシャッターを切り撮影しました。今までしたことないポーズだったので、自分でもよく体幹大丈夫だったなと(笑)。未知の身体表現ができるのは、写真の魔法かもしれません」。

セルフポートレートは魂の表現、そして治療

OTSUKAさんが強く自分の感情を表現したいと思うようになったのには、過去の壮絶な経験の影響が。
「15歳の時に、性犯罪の被害にあいました。その時に、女性の体って社会に消費されているという認識を持ったんです。罪を犯してしまう人たちの生贄のような存在に、自分自身がたまたまなってしまった。平和に何事もなく生きていればそんなことを考えることなくいられるんだと思うんですが、そうもいかなくなってしまって。考えているうちに、私と同じような被害にあった人が、私と同じことを考えて生きているのではないかと思ったんですね。だったら、私の声を作品に収めることで、同じ思いを抱える人にエネルギーが伝わったらいいなと」。

居ても立っても居られず、作品作りに没頭したそう。
「衝動的で、どうしてもやってしまうという感覚なんです。草間彌生やフリーダ・カーロもそうだと思うのですが、心の傷や、自分の中にある正体不明の感情ってどこか表現してしまうものなんじゃないかな」。

「自分自身が沈んでいるように感じていた時期に撮影した『溺水』というシリーズから。胎児の頃の無垢な状態を表現するため、水に墨を入れて真っ黒にし、体が浮き上がるように」。

「写真を撮り始めた10年ほど前に、身体表現やそれを自分で収められることが面白くて、いろいろ撮っていた時の一枚。試しに撮った感じはありますが、ポップで気に入っています」。

写真は自分をなぞる作業

OTSUKAさんの作品は、シビアなテーマ性を持ちながらポップな要素も魅力。
「考えていることと出てくる表現のバランスを見ると、暗いんだか暗くないんだかわからないですよね(笑)。ダークな中に、どこか笑えちゃうところを入れたり、色味はポップだったりするのが好きです。セルフポートレートは私にとって治療としての意味合いも大きくて。自分の心の整理になるし、自分をなぞっていく作業だから。でも、生の感情を出されると受け取る人もちょっと戸惑ってしまうと思うし、このぐらいのバランスがちょうどいいのかな」。

「女性がこの世は男性社会なんだって気がついた時って、それぞれそれなりにショックや反発心を持ったと思うんですよね。男性社会に生まれてしまった女性の一人としての感情と、自分の身に起きたことへの感情を表すのに、ずっと頭の中にこの絵が浮かんでいて。いつか作ろうと思っていて、やっとこさ作れた『me』という作品です。男性の脚を、セルフポートレートにコラージュ。『あなた達にはどうせ私が見えてないんでしょ?』というちょっと挑発的な目線です」。

「私の作品の中ではやや陽気な雰囲気ですが、『Monster』というタイトル(笑)。シーツに針金を通し自立できるようにし、その中に入って撮影。私は過去の出来事で生まれた復讐心に突き動かされ、ここまで来たという実感があって、その力の強さへの戸惑いや怖さを含めた感情を表現しています」。

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