嶌村吉祥丸
アーティスト 東京都出身。国内外を問わず活動し、ギャラリーのキュレーターも務める。ギャラリー「same gallery」(東京・品川)主宰。2021年、渋谷にあるギャラリーカフェ「JINNAN HOUSE」にて、ヴィーガンラーメンを提供する「ラーメン吉祥丸」をオープン。現在は不定期の月曜にオープンしている。主な個展に「Unusual Usual」(Portland,2014)、「Inside Out」(Warsaw, 2016)、「photosynthesis」(Tokyo, 2020)など。
愛用カメラ:Leica M6、makina67、iPhone
Q.展示がもたらすものって何ですか?
A1.見る人にとっては、新しい視点の発見と自己との対話。
アートの役割は、新しい視点を与えること
「最近見た展示では、2019年のヴェネツィア・ビエンナーレで観た『Sun&Sea(Marina)』と、2022年にアムステルダム市立美術館で見たANNE IMHOFによる『YOUTH』が印象に残っています。前者は、ビーチで海水浴をする人々が環境破壊や絶滅種について語り、歌うパフォーマンスをオペラの様式で発表したもので、観客はビーチを見下ろして鑑賞する形式でした。観ていたら『水着を用意してあるので下で寝ませんか?』と声をかけられたことをよく覚えています。後者のANNE IMHOFは、パフォーマンス、絵画、彫刻、サウンドなどさまざまなメディアを用いるアーティストです。美術館がベルリンの街並みに見えるほどに、音や光にもこだわった空間でした。作品を構成する要素が映像作品やパフォーマンスであっても、鑑賞者自身が存在することを前提としている点では、空間そのものも作品の一部であるということをより強く意識した展示でした。アートの役割は視点を与えることだと思っていて、僕はアーティストとして、これから先も思考をアップデートし続けて、皆が少しでも幸せに生きるための新しい概念を提示していきたいと思っています。今興味があるのは、自分の撮影した写真を用いない展示です」。
A2.自身にとっては、その時々の思想の整理と拡張。
アプローチの仕方をリサーチし、再構築していく
「2014年にアメリカのポートランドで行った『Unusual Usual』が初めての展示でした。ポートランドは多様なジャンルのアートギャラリーが多く、絵画だけではなく、インスタレーションや写真作品にもオープンな雰囲気がありました。よく展示を見に行っていたギャラリーの一つから展示をしないかと誘われたことがきっかけです。もともと誰も知り合いのいない土地でしたが、街のコーヒー屋さんや古着屋さんにDMを置かせていただいたりと、さまざまな方の協力があって展示をすることができたと思っています。展示をする際、僕は展示写真を決定する前に、その地点で考えていることを整理します。気になっている言葉やテーマからそれらに関係する文献や資料を集め、過去の研究論文を読んだりしながら美術や他の領域においてのアプローチをリサーチしています。そこからコンセプトを再構築して作り上げ、展示場所やその時の気分に合わせて展示方法を考えるようにしています。展示がもたらすものとは、自身にとっては”その時々の思想の整理と拡張”だと思っています」。
Q.なぜ「same gallery」を作ろうと思ったのですか?
A.資本主義に依存しない、より実験的で自由な余白のある場所がアーティストたちにとっても、それ以外の人にとっても必要だと感じたからです。常に何か面白いことが起こり続けていて、誰かにとっての居場所であり、インスピレーションを得られる場所であり、振り返った時にこの場所があってよかったと思えるようにしたいと思っています。
GENIC vol.67【撮影と表現のQ&A】嶌村吉祥丸/Q.展示がもたらすものって何ですか?
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.67
7月号の特集は「知ることは次の扉を開くこと ~撮影と表現のQ&A~」。表現において、“感覚”は大切。“自己流”も大切。でも「知る」ことは、前に進むためにすごく重要です。これまで知らずにいたことに目を向けて、“なんとなく”で過ぎてきた日々に終止符を打って。インプットから始まる、次の世界へ!
GENIC初のQ&A特集、写真家と表現者が答える81問、完全保存版です。