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【Feel, and then think.】嶌村吉祥丸(KISSHOMARU SHIMAMURA)

ピュアな気持ちでシャッターを切り、思考することに時間をかける、という嶌村吉祥丸さん。あくまでもアーティストとして写真に向き合う理由とは?スペシャルインタビューをお届けします。

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嶌村吉祥丸

アーティスト 国内外を問わず活動し、ギャラリーのキュレーターも務める。ギャラリー「same gallery」(東京・品川)主宰。2021年、渋谷にあるギャラリーカフェ「JINNAN HOUSE」にて、ヴィーガンラーメンを提供する「ラーメン吉祥丸」をオープン。現在は不定期の月曜にオープンしている。主な個展に「Unusual Usual」(Portland, 2014)、「Inside Out」(Warsaw, 2016)、「photosynthesis」(Tokyo, 2020)など 。
愛用カメラ:Leica M6、Makina67、iPhone

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場所にも時間にもとらわれず、どれだけフラットでいられるか

「理由がないがゆえに撮ってしまう。ピュアな直観にもとづいて、シャッターを切っています」。

「心が動く、撮らざるを得ないタイミングに、自分が素直に撮れる準備をしておきたいと思っています。パリであっても日本の生活圏内であっても、どこにいても同じマインドで、世界をフラットに捉えていく。場所や時間にとらわれず、そういう自分でいられることが、目の前に確かにある美のトリガーを感じとることに必要だと考えています」。

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写真に写るのは、撮る人の思想と哲学。自分の"美"に正直でいること

「いい写真の根源を見ていくと美の概念にたどり着く。何に惹かれ何を美とするか。僕の中のグッドネスが誰かの美と共鳴できたら嬉しい」。

「いろいろな作品を見て、こんな写真を撮れたらいいなと思うことがあったとしても、いざ同じものを撮る視点を持ったときに心からそれを美しいと思っているかどうかというのは重要だと思います。ビジュアルではなく、大切なのは自分の中のグッドネス。写真は、撮る人が持つ思想や信念、哲学などが勝手に反映されて、昇華していくものですから」。

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写真にとらわれない大きな概念を持ち、新しい視点を与えていく

「戦争はなぜ起きるのか、そのヒントは共生にあるのではないか、今やるべきこと、向き合うべきは教育なのではないか――。何をしてもそこでしかなく、そこにしか帰らない、すべてのことが包括されるような観念を僕は持っています。アートの役割って視点を与えることだと思っていて、僕はアーティストとして、それをしていきたい」。

「撮ることはコミュニケーション。僕という存在以外の万物、すなわちこの世界とやりとりをしているということ」。

感じることで写真を生み、思考によって意味を授ける

「人間であるがゆえ意味を求めてしまいがちですが、僕にとって写真を撮る行為というのは、撮らざるを得ないから撮っているに過ぎません。歩いていて見つけてしまったから、撮らざるを得ないから、理由がないがゆえに撮ってしまうのです。ではなぜ撮らざるを得ないのか考えはじめると、それは異なる意味のレイヤーを掘り返すことでしかできず、実際には気になったり好奇心を持ったり、そういうピュアな直観にもとづいて、肉体の反射的行為として撮ってしまっているのだと思います。撮った写真に意味が生まれるのは、展示などアウトプットをするとき。展示は、その受け皿、すなわちテーマを決める段階にすごく時間をかけています」。

昨年春に嶌村さんが展示したインスタレーションは「Symbiosis」がテーマだった。Symbiosisは「共生」「共に生きる」という意味で、嶌村さんはそのときの社会において、理想的な共生のカタチについて自身の視点を込めて発信した。

「普段から僕は、気になった言葉や友達に聞いた面白い話、見た夢などをメモしていて、その中に『Symbiosis』という言葉がありました。2022年2月にウクライナ侵攻がはじまり、寄付やデモなど、皆が今よりずっとこの争いに対して感心を持っていたころで、僕自身も無視できない状況にありました。『戦争』の対義語はといえば『平和』が思いつくと思いますが、もっと新しい概念が必要なのではないかと考え、『戦争』の対義語として『共生』を選んだのです。生物学における共生について調べてみると、互いに助け合う共生だけでなく、ある種の搾取構造にあっても共生といえるものがある。人間社会にも共通する部分があるように感じ、理想的な共生のカタチを模索し、提示したのが『Symbiosis』でした」。

Symbiosisというひとつの言葉から知識や思考をどんどん広げていき、最終的にコンセプトへと回収して密度を高めていく。そのときに感じている感覚や匂いを言語化し、それらを再構築した上で、そこに写真を落とし込んでいっているのだそうだ。

「自分の思考が強固なものになると、このテーマにはこの写真、この写真は自分の思考の匂いを纏っているという感覚を明解に得ることができ、躊躇なく選ぶことができるものなのです」。

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ピュアな気持ちでシャッターを切り、思考することに時間をかける

「撮った写真はとりあえず眠らせておき、きっかけをもって見直すことになる。そのときどきにある、自分が無視できないことや興味を惹かれていることについて、知識を深めながら思考を巡らせ、抽象的なことを言語的に理解していくことに時間をかけています。コンセプトが決まってはじめて、意味づけられていない写真たちに意味が生まれていくのです」。

「僕の興味は、普通なものを、どれだけ普通なものに見せられるかにあります」。

自分の概念や視点を使って世界を、人と人をつないでいく

「アートの役割って視点を与えることだと思っていて、僕はアーティストとして、これから先も思考をアップデートし続けて、皆が少しでも幸せに生きるための新しい概念を世の中に提示していきたい。その考えの入口にあったのが、まさに写真でした。10代の終わりに写真を撮りはじめるようなってから、何気ないことにも気づけるようになり、社会通念的なものとは異なる視点を持てるようになりました。その発見、視点はすべて、僕の中のグッドネス、美です。いろいろなことを学んだり、さまざまな景色を見たりすることで、自分の中の美を強固にしていく。たとえまったく対極にあるものでも、その双方に良い側面を見つけることのできる自分でいたいと思っています。とはいえ、そのときどきの自分の年代や精神的状態などによって、自分がよしとするものは変わっていきます。またどこに美の軸足を置くかによって、いい写真と感じるものはみんな違うもの。だからこそ、100人に対するいい写真を提示するよりも、そのときの自分が直観的に向き合ったものが、誰かに届いて共感してもらえたらハッピーだなと思いますね」。

ここ数年は「教育分野」や「公共性」そのものについてなど、嶌村さんはさまざまなことに思考を巡らせ、自身ならではの大きな社会概念を持っているという。そしていま、アウトプットの方法は写真とはまったく別の手段でもいいと考えているそうだ。

「学生のときに写真を撮っていたころは、せっかく写真を撮っているのだから、それで何かをしたいという思いがありました。でも何をしてもそこでしかない、何をしてもそこにしか帰ってくることのできない観念を持つようになってからは何でもできると思うようになりました。むしろ、写真という固定概念にこだわることで可能性を狭めることはしたくない。だから僕は、あくまでアーティストとして活動をしているのです。では自分にとって写真は何であるかと聞かれると、『わからないもの』なのだと感じています。絵と違って、自分たちが生きている世界であると無意識に認識できるのが写真ですが、でもそれが、すごくわからない。生きている延長線上にある明解なものを写真は捉えているけれど、その意図や写真が発している言語ってやっぱりわからないですよね。その矛盾が面白くて、写真をやっているのかもしれません」。

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GENIC vol.66【Feel, and then think.】

GENIC vol.66

GENIC4月号のテーマは「撮らずにはいられない」。
撮らずにはいられないものがある。なぜ? 答えはきっと単純。それが好きで好きで好きだから。“好き”という気持ちは、あたたかくて、美しくて、力強い。だからその写真は、誰かのことも前向きにできるパワーを持っています。こぼれる愛を大切に、自分らしい表現を。

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