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プロフィール
嵐田大志
フォトグラファー 1977年生まれ、大阪府出身。東京を拠点に、家族写真やスナップなどを中心に撮影。国内のみならず、海外のメディアにも写真を提供。著書に『デジタルでフィルムを再現したい』、『カメラじゃなく、写真の話をしよう』(ともに玄光社)。
新たな表現手法「Photographic motion」
Photographic motionとは、写真を撮るときと同じ感覚でカメラを構え、ほんの一瞬を数秒の動画として記録する表現方法です。特別なカメラワークや演出に頼ることなく、光や空気、その場に流れる時間を残すことを大切にした映像です。写真からほんの少しだけ踏み込んだPhotographic motionはシンプルで、あえて作り込まないからこその素直な美しさが映し出されます。
嵐田大志の「Photographic motion」
「日常の機微を写真に撮ることが多いです。そのなかで、木漏れ日や水面の揺らめきといった静かな動きを伴うシーンでは、あとになって動画でも撮っておきたかったと思うことがあります。僕は幾度となく動画に挫折してきたのですが、今回Photographic motionという手法で、静かな動きをすくいあげる、『動く写真』を残すことができました」。
「漁港の夜」
嵐田大志1
カメラ:EOS R6 Mark III レンズ:RF45mm F1.2 STM フィルター:NiSi True Color ND VARIO fps:30fps シャッタースピード:1/30 Log撮影:なし
「日が暮れて少し経ったころの、伊豆半島の漁港で。内海のため波は穏やかで、満月の光が水面で揺らいでいました。ほんのりと絶妙ともいえるその揺らめきを見て『少しだけこの動きを表現したいな』と思いました。まさに“写真以上、動画未満”のPhotographic motionの撮影にうってつけでした。静かな夜の漁村の穏やかな波音まで伝えられたらと思い、環境音をそのまま採用しました」。
「風のとおり道」
嵐田大志2
カメラ:EOS R6 Mark III レンズ:RF45mm F1.2 STM フィルター:NiSi True Color ND VARIO fps:30fps シャッタースピード:1/30 Log撮影:なし
「昼下がり、近所の道で見かけた柑橘系の実と道路標識。手前の柑橘系の木とうしろの木々が風に揺れる様子を表現したいと思い、Photographic motionで撮影しました。ふだん写真撮影でもよくやる表現技法を用い、絞りを開けて奥にある木々を効果的にボケさせることで手前の木と標識を際立たせました。このときは風が強く、マイクの風切り音を防ぐためのウィンドジャマーを持っていなかったため、風がおさまった時間に環境音を撮り直しました。また、この光景に合わせて妻にピアノを合わせてもらっています」。
「きらめき」
嵐田大志3
カメラ:EOS R6 Mark III レンズ:RF45mm F1.2 STM フィルター:NiSi True Color ND VARIO + NiSi ブラックミスト fps:30fps シャッタースピード:1/30 Log撮影:なし
「木が風に揺られて、午後の日差しがチカチカと差し込んでいました。写真で撮っても美しいシチュエーションではありましたが、葉と葉の隙間から光が差し込んだり消えたりする白昼夢のような光景を残したいと思い、Photographic motionにしました。三脚だと機動性が下がると思い、一脚を使って撮影しています。また、『風のとおり道』同様、風が強くノイジーになってしまったので、別の時間に環境音を撮り直すとともに、光景に合わせて、あとからポロンポロンと弾いたギター音をつけています」。
写真と同様に手軽にできる「編集のプロセス」を公開
「上に紹介した作品のいずれもが、動画を特別意識することなく、ほぼ写真と同じ要領で撮影し、編集しています。『漁港の夜』は、少しでも明るいうちに撮りたいと思っていたのですが、駐車場を見つけるのに苦労して、あたりはどんどん暗くなっていきました。この場所に着いたときには三脚をセッティングする時間も惜しまれて、手持ちで撮影。フレームがブレないよう、息を止めての撮影でしたが、Photographic motionならそれで十分でした。また、ふだん静止画撮影が中心の自分にとって、カラーコレクション/グレーディングはハードルが高く感じられました。そのためLog撮影はせずに撮影し、スマートフォンでLightroom編集という、写真と同様のフローで編集しています」。
<編集STEP>スマートフォンのLightroomで写真と同じようにお手軽編集
1. 動画をLightroomに取り込む(写真と同様にスマホで作業)
2. コントラストを下げ、黒レベルを上げる
3. 色かぶり補正で、ややグリーン寄りにすることでマゼンタを引く
4. コントラストを下げた分、彩度を上げる
5. カラーミキサーで青の色相をグリーン寄りに。青を強調するために彩度を上げる
6. ブレや環境音のノイズが少ない4秒間をトリミングで切り出す
「写真と共通して、青の発色にこだわりました。あまり紫っぽい、マゼンタ寄りの青は好みではないので、色かぶり補正やカラーミキサーで調整しています。4秒とはいえ、写真とまったく同じ編集だと見る人が疲れてしまうと考え、写真よりやや控え目の彩度に仕上げました。この行程も、写真と変わりません。動画に詳しくなくても目指す表現にたどり着くことができることもまた、Photographic motionの大きな魅力だと感じます」。
嵐田大志「写真を撮るのと同じやり方で、写真の限界を超えていく」
「僕は写真がメインで、ふだん動画はめったに撮りません。10年くらい前に初めて一眼レフカメラを使った動画にチャレンジしたのですが、当時は電子式スタビライザーがほとんどなく、物理式のスタビライザーで肘を怪我して挫折してしまいました。その後もカラーグレーディングやカット編集といった写真にはない作業に面くらい、挑戦しては挫折することを繰り返してきました。自分のなかにある動画の概念が、VLOGや、アクションカムのダイナミックな映像などに引っ張られていたことも続かない原因だった気がします。ところが、Photographic motionは、動画を意識せず、写真と同じ撮影・編集方法でできます。『どんどん場面転換をして飽きない映像を目指さないと』とか、『スタビライザーなどを駆使したヌルヌルの映像こそ正義』といった先入観から離れることができ、心理的ハードルはかなり下がりました。写真はどうしても、画を動かせないところに限界があります。それがまた好きなところではありつつも、一方で、打ち寄せる波や木漏れ日など、動きを撮りたいという欲もあります。その点、Photographic motionは『写真+α=少し動かしたい』というシーンにぴったりハマるものでした。機材もワークフローもほぼ写真と同じでありながら、得たい表現を実現できるPhotographic motionを、これからも楽しんでいきたいと思います」。
Photographic motion撮影で使いたいレンズフィルター
色かぶりがない可変NDフィルター「NiSi True Color ND VARIO」
動画の撮影では、被写体の動きが不自然に変わってしまわないよう、基本的にシャッタースピードを固定して撮影します。そこから、ISO感度や絞りの調整で露出を調整し、さらに絞りでボケ感などを調整していきます。ところが、写真と同じ感覚でこれを行おうとすると、動画は明るすぎてしまうことがほとんどです。そこで活躍するのが、ゴーストやフレアを抑えるコーティングや高い耐久性も備えたNDフィルター「NiSi True Color ND VARIO」。レンズに装着することで、光量を抑え、明るい屋外でも適正露出を保った状態で、被写体の動きを自然に撮影することが可能になります。可変式のためフィルターを回転するだけで1〜5段分の濃度調整ができ、また、NDフィルターでありながら色かぶりを抑え、写真と同じ感覚で色づくりができるのも特長です。
「1枚で5段分の減光に対応できるとても便利なフィルターです。そして、付けていることを忘れるほどに色味がニュートラル。可変NDによっては、フィルターを回したときにムラや色かぶりが起きたりしますが、NiSi True Color ND VARIOはそういったことがまったくなく、撮影に集中できました。撮影中は移動も多く、それだけ光の状況も目まぐるしく変わっていたのですが、そんな状況でもシャッタースピードと絞りは固定したままで、フィルターを回転させるだけで露出調整でき、とても便利でした」。
柔らかな余韻を生み出す「NiSi ブラックミスト」
動画撮影では、光源がハードすぎると、肌やハイライト部分が強調されて不自然に見えることがあります。そんなときに活躍するのが「NiSi ブラックミスト」です。光を柔らかくしつつ、ハイライトをほどよく滲ませ、被写体の質感を自然に引き立てます。写真でも動画でも使える高品質なフィルターで、光のエッジを和らげつつも濃すぎない、柔らかな余韻を生み出すのが特長です。心地よい空気感や雰囲気を演出したいシーンで表現の幅を広げてくれます。フィルター効果の強さに応じて、「1/2」、「1/4」、「1/8」の3種類をそろえています。
「光の動きとブラックミストの組み合わせは、写真とは異なる面白さが生まれると感じました。なかでも、『きらめき』のように逆光で光がキラキラと動いているシーンは、光がやさしく穏やかになり、相性がとてもよいと感じました。また、順光で画が硬くなるシーンでも、少し柔らかくなると感じました」。