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プロフィール

村上賀子
写真家 1986年生まれ、宮城県出身。2012年、武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程デザイン専攻写真コース修了。2022年、「Known Unknown」で第23回三木淳賞を受賞。2024年、写真集『Known Unknown』(ふげん社)を出版。コンセプチュアル・フォトのパイオニアとして知られる写真家・山崎博氏に師事。記憶やアイデンティティーを社会的出来事や生活環境と相関的に捉えながら、可視と不可視のイメージを交錯させる写真プロジェクトに取り組む。主な個展「Anonymous Danes」(2024)、「Known Unknown」(2021/2022/2024)、「HOME works 2015」(2015)など。
Q. テーマは必要?自分が撮りたいテーマを見つけるには?
A. 私は必要。「写真」で反応しなきゃ、「表現」しなきゃ──。すべてはそこから。
テーマ「Known Unknown」

テーマ「Untitled Origami」


テーマ「Anonymous Danes」


作家として活動していこうと思ったら、作品をつくらなきゃならない。そして作品は、自立できるものでなければならない
「私の場合、『何かを表現しなきゃ』という気持ちがまずあって、その上で、それについてどういうアプローチができるんだろうと考えていきます。“表現しなきゃ”こそがテーマとなり、アプローチしていくなかでコンセプト、ルールができていくんです。例えば、“知らないということを知っている”という認知の状態をテーマにした『Known Unknown』は、撮影のきっかけに東日本大震災がありました。私は仙台出身で、あのとき自分の根っこにつながる部分が揺らぐような日々を過ごしていました。テレビで流れる被災地の映像に恐怖を抱き、自粛ムードのなか家からも出られずただ独り。言語化できないつらさとか、感情がたくさんありました。だからこそ、『今のこの状態を残さなきゃ』『何か写真で反応しなきゃ』という気持ちがあり、それがテーマの原石でした。とはいえ、具体的なアプローチの方法はまだわからなかったから、まずは自宅で、セルフポートレートを撮ってみたんです。撮った写真を見ると、薄暗いし逆光で、自分の顔があまり見えていませんでした。でも、自分だってすごくよくわかる。だけど、なんか自分じゃない気もする。『これは自分だ』って、何で言えるんだろう?という思考が生まれました。もうちょっとこの写真を撮っていこうと撮影していくうちに、自分だけではなく他の人はどうなんだろう、どう自分の状態を表現するんだろうと興味が広がり、他者も撮っていくようになりました。そうしたなかで、私が探求したいのはその人の“状態”であり、そこをぶらさないために、顔は写さない、というルールが確立されていきました。探りながら撮っては見返して理解をし、どんどん固めていくというやり方だったので、テーマ自体を確定できたのは、撮影をはじめて数カ月が経ってからでした」。
「写真が好きで始めると、最初は何を撮っても楽しい状態だと思うんです。いろいろなものを撮って、いい写真が撮れた、あれもいい、これもいいなという時期・段階が私自身にもあって、撮りまくっていました。でも結局、そうして撮った写真を集めたときに、そこには何もなかったんです。テーマもコンセプトも存在せず、作品としてこれは結局なんなのだろう、一枚、一枚いい写真なのはわかるけど、じゃあこれで人は何を読み取るんだろうって。大学院生の頃がまさにそうで、制作に煮詰まっていました。これを機に、作家として活動していくのなら、“作品そのものが自立できるものでないといけない”との考えに至りました。以来、テーマは必須だと考えています」。
GENIC vol.73【Portrait Q&A】Q. テーマは必要?自分が撮りたいテーマを見つけるには?
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.73

2025年1月号の特集は「Portrait Q&A」。ポートレートの答えはここにある
人にカメラを向けるからこそ、迷いはなくしたい。自分の写真をちゃんと好きでいたい。そのためにどうするか?「答え」はここにあります。写真家や俳優、モデルなど41名が答えた、全45問のQ&A特集です。