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TEMPO TROPICAL 熱帯的時間 西山勲

数多くの旅撮影や取材を経験してきた写真家 西山勲が選んだ最高の旅先は、いつか故郷と呼びたいという“ブラジル”。「多感な高校生のときにサッカー留学していて、そこで体験したことが今も鮮明に記憶に焼き付いています。ブラジルの強烈な光と色彩のもと、陽気さと切なさが共存する感受性の強い国民性を肌で感じることができました」。旅とは、「世界と関係すること」であり、「旅先で自分だけの景色を見つけることができたら、それは良い旅になる」と語る、気づきがたくさんあるインタビューです。

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目次

プロフィール

西山勲

写真家 1977年生まれ、福岡県出身。グラフィックデザイナーから写真家に転向し、世界各地の芸術家を訪ねるインディペンデントマガジン『Studio Journal Knock』を創刊。2025年に写真集『Papa, You’re Crazy(クジラと天体、父の島)』を刊行。
愛用カメラ:Hasselblad 500C/M、PENTAX 67II
愛用レンズ:Hasselblad Planar C80mm f2.8、SMC PENTAX 67 90mm F2.8、SMC TAKUMAR 105mm F2.8

TEMPO TROPICAL 熱帯的時間

人が、街が、今を楽しむことを肯定して、自由な感覚に溢れる特別な場所。

「写真のテーマは、“Tempo Tropical” 熱帯的時間。時計の針に従うのではなく、ブラジルという土地のリズムに従うマインドをイメージして選びました」。

フォズ・ド・イグアス「パラグアイから国境を越え、ブラジルへ。その途上、かの有名なイグアスの滝を観光するために泊まったホテルにて。目的地と目的地の間にある、こうした景色の方が記憶に残るのはなんでだろう」。

リオデジャネイロ「サンバやショーロといったブラジル音楽に欠かせない弦楽器であるカヴァキーニョ作家、ロジェリオ・サントスさんのアトリエの窓から見えたリオデジャネイロ旧大聖堂」。

リオデジャネイロ「陽が落ちて、空も海も彩度の低いピンクに染まったイパネマビーチ。あちこちから波の音に混じって音楽が聞こえてくる」。

ブラジルという国が放つおおらかさと陽気さ、そして人生を謳歌している人々からエネルギーをもらえる。

リオデジャネイロ郊外「サンバの取材で、名も知らない郊外の町へ。ボールさえあればどんな場所でも観客が集まり、そこはスタジアムになる」。

「リオデジャネイロへ向かう長距離バスの休憩地点から見えた風景」。

リオデジャネイロ「ポン・ジ・アスーカルという奇岩の麓にある、ブラジル音楽・ショーロの専門学校。若者たちが熱心に楽器を奏で、語り合っていた」。

リオデジャネイロ「灼熱の昼下がり。熱気から日陰の路地に逃げ込んだら、彼と目が合った」。

旅先で自分だけの景色を見つけることができたら、それは良い旅になる。

「リオデジャネイロに向かう長距離バスからの眺め。腰の痛みとともに目覚めると、車窓から遙か遠くの地平線に朝日が見えた。13年ぶりのブラジルの地を目前に、疲労と不安と高揚が入り混じる朦朧とした様子がそのまま写真になったように思う」。

サンパウロ「巨大な集合住宅に真っ青なネットが被さり、空の一部になっていた」。

「長距離バスが2、3時間おきに停留する休憩地点にて。きっと二度と来ることのない偶然見つけた風景は、刹那的な出会いと別れを感じてずっと心に残る」。

一歩だけ近く、深く足を踏み入れて、まだ見ぬ景色や人々に遭遇したい。

リオデジャネイロ「医者から転向し、ギター職人となったテルシオさん。転職のきっかけは、奥さんの誕生日に送るギターを自作したことだそう。時代を経た工房の雰囲気も美しかった」。

高校生という多感な時期に初めて訪れた、いつか故郷と呼びたい国

「僕が選ぶ最高の旅先は、ブラジル。理由は、高校2年から1年間サンパウロにサッカー留学した経験が大きいように思います。毎週末ブラジル各地をバスに乗って遠征したこと、寮の食堂の女の子に恋したこと、寂しくて日本の友人に手紙を書きまくったこと…。当時はインターネットもなかった時代だったからこそ、ブラジルで体験したさまざまなことが今も鮮明に記憶に焼き付いています。ブラジルの強烈な光と色彩のもと、陽気さと切なさが共存する感受性の強い国民性を肌で感じることができました。人が、街が、今を楽しむことを肯定してくれます。他の南米諸国とも異なる多彩さや多様さ、そして自由な感覚に溢れる特別な場所。高校生という多感な時期に初めて訪れ、個人的な思い出もたくさんあります。2度目に訪れた時には街の陽気な雰囲気が肌に馴染み、不思議な懐かしさを感じました。ブラジルは僕にとって、いつか故郷と呼びたい場所です。
今回の写真は10年前に世界一周旅行中、雑誌の仕事でブラジルに1ヶ月くらい滞在して撮影したもの。リオデジャネイロとサルヴァドールを旅しながら、サッカー、音楽(ボサノヴァ)、宗教(カンドンブレ)、武術(カポエラ)について取材しました。特に多く写真におさめたのは、ブラジルの人々。人生を謳歌するとはこのことか、と目に飛び込んでくる眩しさのようなものに惹かれました。こうありたい、と思うと同時に、こうはなれない、という思い。だからこその眩しさ。ブラジルを旅している間、自分自身の振る舞いやマインドが、この土地の人々のように明るくなっていく気がしました。陽気でフレンドリーな国民性と、あちこちから聞こえる音楽、暖かな気候、光と色…そんなものに包まれていると、それが自然のことのように思えます。『今後、また訪れたい場所は?』と聞かれるたび、僕はいつもブラジルと答えます。もちろん写真も撮りたいですが、純粋にこの土地の空気に触れたい。日本から最も遠い国の一つであるという実質的な距離の遠さが、遥かな土地への憧れや好奇心につながっている気もします。自分が生活する日本という国から遠く離れ、さまざまなしがらみやルールから解放される心地よさ。ブラジルという国が放つおおらかさと陽気さ、そして“楽しむために生きる”を実践している人々からエネルギーをもらえます。
僕は旅で、目的(プロジェクト)を明確にして撮影や取材を行います。プロジェクトを理由に普通の旅では見ることのできない世界を見て、その体験や感動をコンテンツという形にし、他の人と共有する楽しみを得ることができます。また、その土地を深く、あるいは異なる側面を知ることにより、自分の言葉でその土地を語ることができるようになると思っています。プロジェクトを通じて、人々とより深い交流ができることも魅力です。僕が旅先で撮る写真に一貫性があるとすれば、それは被写体に対する好奇心。もっと言えば、その被写体がどのようなことに興味を抱いているか。人が抱く好奇心が気になります。そして、旅先で自分自身が見たもの、立ち会ったものに価値を見出して、シャッターを切ります。旅先で自分だけの景色を見つけることができたら、それは良い旅になる。自分だけが知る経緯を持った一枚を撮影できた時には、喜びを感じます。僕にとって旅とは、世界と関係すること。旅は楽しいけど、準備は面倒だし、飛行機は窮屈だし、行った先でもリスクがある。それでも旅に出ようと思うのは、その先に知りたいこと、出会いたい人、体験したいことがあるから。遠くから眺めるのもいいけれど、一歩だけ近く、深く足を踏み入れて、まだ見ぬ景色や人々に遭遇したい」。

GENIC vol.77【TEMPO TROPICAL 熱帯的時間】
Edit:Satoko Takeda

GENIC vol.77

2026年1月号のテーマは「写真家が選んだ、最高の旅先」

どんな旅をしたらいい?
その答えは、As you like. お好きなように、自分らしく。ルートを持たない余白たっぷりの旅でも。行先を詰め込んだ時間割びっしりな旅でも。
だって、旅は表現だから。
さて、旅人でもある写真家たちが選んだ「最高の旅先」はどこでしょうか?何かがあなたの心を撫でたなら、そこは次の目的地かもしれません。
永久保存版、GENICらしい、新しい旅のガイドブックの登場です。

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