葵
21世紀生まれの写真家 2001年生まれ、埼玉県出身。高校一年生の冬にフィルムカメラで学校生活を撮り始め、TwitterをはじめとするSNSで発信。プールで撮影した青の写真が話題となり、米原康正氏のグループ展に参加。2021年3月、高校生活の集大成となる個展『未完成な青』を開催。
愛用カメラ:PENTAX SP、CONTAX 137MA QUARTZ、Nikon FT、Canon Autoboy Luna 85、OLYMPUS PEN EE-3、京セラサムライ
愛用レンズ:PENTAX Super Takumar 35mm F3.5/50mm F1.8、NIKKOR 35mm F2.8
写真の「色」で自分らしい世界を確立する
色をレタッチするのは自分の“好き”を投影するため
フィルムカメラで写真を撮り始める前から、写真の色味を変えることにハマっていたという葵さん。
「スマホで撮った学校生活の写真を、自分の好きな青色の世界に加工するのがただただ好きでした。普段レタッチをするのは、スマホアプリのVSCOやLightroomです」。
葵さんにとって写真とは?
「自分が愛おしいと思うものの保存方法のひとつでもあるし、自分または自分以外の誰かに何かを伝える表現方法の一つでもあると思います。そして作品は、誰かとのコミュニケーションやその結果だと考えています。私とその相手だからこそできる写真にすることを一番意識しています。私が創る世界と、その人らしさを違和感なく融合させて、お互いを尊重しながら表現するようにしています」。
一枚の写真を、<BLUE系>と<WARM系>にレタッチしてみる
<BEFORE>
「香川の海で撮影した写真です。沈んでいく夕日に手を伸ばした様子は、明日を自らの手で切り開こうとしていることをイメージしています」。
→<BLUE系にレタッチ>自分のアイデンティティである、青い世界を求めて
「私の中でレタッチは自分の写真であるということを確立させるものと、写真そのものの魅力をさらに引き出すものというふたつの意味を持ちます。このレタッチは前者にあたります。私のアイデンティティは青なので、自分らしい青い世界を求めてレタッチを施しました。全体の雰囲気もそうですが、とくにシャドウの色にこだわりました。理想とする冷たい空気感と、その中にたしかにある力強さを表現できたと思います」。
使用アプリVSCO
●色温度 -6.0
●ティント -3.0
●スプリットトーン シャドウティント グリーン +3.5
●HSL BLUE 彩度 +1.0 明るさ +1.0
●露出 +0.5
→<WARM系にレタッチ>写真の魅力をさらに引き出すレタッチ
「私にとってのレタッチのふたつめの意味である、写真そのものの魅力をさらに引き出すようにレタッチしています。夕方の世界を写したものなので、日の入り特有のオレンジ色の光をよりきれいに強調することを意識しました。次第に薄れていく実際の記憶を、忘れないように装飾するイメージです」。
使用アプリVSCO
●色温度 +2.0
●ティント -0.5
● 彩度 +0.5
●HSL オレンジ 明るさ +4.0
●HSL イエロー 明るさ +4.0
●露出 +0.5
葵さんへ質問
Q1.ブルー系のレタッチはどんな写真との相性がいいのでしょうか?
「青色って爽やかなイメージだったり、なんだか心地のいい印象を受けるものだと思うんです。見ていると落ち着きが得られ思考が整理されるような、青色のそういうところが私はとても好きで、私の写真も見てくれた人に同じような印象を与えることができたらと思っています。水や空などを写した、もともと青色の要素を持った写真は言うまでもなく、人や風景などどんな写真にも合わせやすいです」。
<BEFORE>
「友達が家に泊まりにきた朝、窓を開けて外の冷たい空気に触れたときに撮影しました」。
→<BLUE系にレタッチ>黄色の光と冷たい青の影。色合いの調和がお気に入り
「レタッチは冬の朝の冷たく澄んだ空気感の再現を意識し、青色の暗さにこだわりました。ホワイトバランスを調節し全体に冷たい雰囲気に、シャドウの部分には青味を持たせるためにさらにティントの緑色の加工を施しました。オレンジ色の太陽の光を黄色に寄らせて、光の暖かみを抑えています」。
●色温度 -2.0
●ティント -2.0
●HSL ブルー 色合い -1.0 明るさ +2.0
●露出 +2.5
●コントラスト +0.5
Q2.ブルー系のレタッチをするときに、肌の色が壊れないようにどのように処理するのでしょうか。
「主に人物以外の周りの空気感などを重点的に、青みをかけるレタッチをすることで、肌に出る影響を少なくなるようにしています。VSCOのスプリットトーンでシャドウに寒色系の色味を持たせたり、HSLで色ごとに彩度や明るさを調節したり。ホワイトバランスの色温度を下げて写真全体に青みを持たせた影響で血色悪く見えてしまうときは、HSLで赤やオレンジ、ときには黄色の彩度や明るさを調節することも」。
Q3.ウォーム系のレタッチはどのようなときにしますか?
「VSCOでノスタルジーな雰囲気の色味に仕上がるE3やG8などのフィルターを使用したり、ホワイトバランスで色温度を上げて写真全体をオレンジの世界観にしたり、HSLで暖色系の色の彩度を上げることが多いです。暖かみのある加工を施した写真を見ると、どこか懐かしい気がしたり、自分の記憶の中のシーンを想起したりすることもあるかと思うんです。ウォーム系のレタッチをするときは、見てくれた人が不思議と心が温かくなったり、何かに思いを馳せるきっかけになったらいいなと思いながら写真と向き合っています」。
<BEFORE>
「夕方の水際で撮影した一枚です」。
→<WARM系にレタッチ>人のシルエットと光の透け感にこだわって
「夕方の暖かな日差しが今にも伝わってくるような世界観を表現するために、色温度を最大限に上げ、写真全体にオレンジの色味を足しました」。
●色温度 +6.0
●ティント -1.0
●HSL イエロー 明るさ +3.0
●露出 +1.0
●コントラスト +0.5
Q4.レタッチするときのこだわり、ポイントを教えてください。
「私のレタッチする写真のほとんどは青色の世界に仕上げていますが、固定のレシピや自分のプリセットがあるわけではないので、写真一枚一枚に違うレタッチを施すことがこだわりです。写真によって異なる光の表情や空気感を大事にしたいので、それぞれに合った青色の調節をしています。また、基本的にフィルムカメラで撮影を行なっているため色味の設定をカメラの方ですることはありません」。
Information
21世紀生まれの写真家・葵 個展「drop」開催中
2021年9月7日(火)〜12日(日)
12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
開催場所: 同時代ギャラリー 展示室B「ギャラリービス」
(京都市中京区三条通御幸町東入弁慶石町56 1928ビル2F)
※入場料無料
GENIC VOL.59 【あの人の表現に近づく! ポートレート撮影Q&A】
Edit: izumi hashimoto
GENIC VOL.59
特集は「だから、人を撮る」。
最も身近にして最も難しい、変化する被写体「人」。撮り手と被写体の化学反応が、思ってもないシーンを生み出し、二度と撮れないそのときだけの一枚になる。かけがえのない一瞬を切り取るからこそ、“人"を撮った写真には、たくさんの想いが詰まっています。泣けて、笑えて、共感できる、たくさんの物語に出会ってください。普段、人を撮らない人も必ず人を撮りたくなる、人を撮る魅力に気づく、そんな特集を32ページ増でお届けします。