大畑陽子
フォトグラファー 1983年生まれ 埼玉県出身。「ときどき写真館」主宰。スタジオアシスタント、フリーアシスタントを経て独立。人物写真を中心に雑誌や広告、web等で活動中。2022年、18年追い続けた近所に住むナナちゃんの作品をまとめた写真集『Nana』(イニュブック)出版、個展も同時開催。被写体のエネルギーが写るような写真を得意とする。
愛用カメラ:Canon EOS R5
愛用レンズ:SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM、SIGMA 35mm F1.4 DG DN SE
花盛友里
フォトグラファー 1983年生まれ、大阪府出身。「花盛写真館」主宰。中学時代から写真の楽しさに目覚め、2009年よりフリーランスとして活動開始。女性誌や音楽誌、広告などで主にポートレートの撮影を手掛ける。モデル選考はせず、一般の女の子たちのヌードを先着で撮影している「脱いでみた。」プロジェクト主宰。2023年、7年ぶりとなる個展「脱いでみた。」開催。写真集に『寝起き女子』(宝島社)他多数。
愛用カメラ:Nikon D4S
愛用レンズ:AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G
Q.話してみたい写真家は誰ですか?
A.大畑陽子「花盛友里さんと話してみたいと思っていました!」
花盛友里「うわあ嬉しい!光栄です!」
写真を通して自分を肯定したい。そして、すべての人を肯定したい
大畑
花盛さん、初めまして。すっごく緊張していますが、今日はお願いします!
花盛
こちらこそよろしくお願いします!ご指名光栄です。
GENIC
お二人は同じ年で二児の母、一般の方の撮影など、共通点が多いですね。
大畑
そうなんです。私は大学卒業後にスタジオに勤務していて。
花盛
わぁ!スタジオ勤務も同じぐらいの時期にやっていたってことだ。
大畑
その後専属アシスタントにもつくんですけど、私、勝手にプレッシャーを感じちゃって。当時、10日間ぐらい一睡もできないとかありました。
花盛
えー!!そんなに寝なくて、生きられるの!?
大畑
目をつむって横にはなってはいるから、生きられはする……。でも結局辞めることにして、一度埼玉の実家に帰ったんです。
花盛
それで、写真集のナナちゃんと再会したんですね。
大畑
そうなんです!その後また東京に出たんですが、今はまた埼玉の実家に戻り、最近は地元に写真館を作る計画を立てています。
花盛
ということは、東京での仕事には毎回埼玉から?
大畑
そうなんです、通っているんです。2人目が今1歳で、産後半年で復帰したんですが、東京は渋滞がすごいから家を出る時間が読めなくて、ちょっと大変。
花盛
だから地元で写真館をやりたいって思ったんですか?
大畑
それもあるんですけど、最近、私は何で写真を撮っているかっていうのがだんだん見えてきて、それは何かというと、"人を肯定したい"ということなんだなって。そう思いはじめていた矢先、「脱いでみた。」の、「生まれてきてくれてありがとうを言いたくて、みんなにも、自分にも」という花盛さんのメッセージを見て、はっとしたんです。そうか、私が人を肯定したいのは、自分も肯定されたいからなんだって。
花盛
私は、自分を肯定したいというのが大前提にありますね。その過程で、他の人も一緒に持ち上げていけるのなら、こんなにいい仕事はないなって思う。何をするにも、やっぱりまずは自分の幸せが大前提であるべきだから。誰かを幸せにすることだけに突き進むと、搾取されていくばっかりで、不幸になっちゃうと思う。
大畑
そもそも私の写真の原動力って、”羨ましい”っていう感情だったんです。
高校生のときに初めてカメラを向けたのは、ティーン雑誌で読者モデルをしている同級生。その子のことが羨ましくて仕方がなかった。
カメラマンになったのも、キラキラして見える世界の人たちが羨ましくて、私自身はなれないけど、近くに行きたいって思って……。
それが、『Nana』を作っている過程で、どんな子でもみんなかわいくて、みんなきれいなんだと気づいたんです。あのときは他人を羨んでばかりだったけど、今の私から見たら、私だってきれいだったって思うことができたんですよね。それに気づいて、私が撮りたいのは有名人じゃないかもしれないって思ったのが始まりでした。
花盛
そうだったんですね。
大畑
同じ電車に乗り合わせた人も、みんなそれぞれ悩みや抱えているものがあって。でも命をかけて産んでくれた親がいて、愛されるべき存在だって考えていたら、普段はスポットライトのあたらないような、一般の方たちを撮りたい、撮って肯定したいって思ったんです。
それで、やっぱり私がやりたいのは写真館だって思いました。
GENIC
花盛さんがご自身を肯定したいと思ったきっかけは何だったんですか?
花盛
妊娠ですね。私、家事がまったくできなくて。家事力ゼロなのに、子どもが生まれたらやらないといけないんだって強く思っていて。
私の母はフルタイムで働いていたのに、家事も全部やっていたんですよ。
お母さんってそういうものだと思って育っちゃったから。でも、いざ子どもを授かって、24時間見なさいと言われても、全然できそうにない。それでもやらないといけないんだっていうある種の強迫観念みたいのに駆られて、考えただけでつらすぎて。
多分、ちょっと鬱になっていました。そういう状況から脱却したくて、妊娠中に「脱いでみた。」の撮影を始めたんです。
撮っていく過程で、女の人ってすごい!っていう気持ちがどんどん芽生えていきました。妊娠中の人を褒めたいし、ママたちのこともすごく褒めたいなって思って。
結局、それって自分が言われたかったことなんですよね。
大畑
すごく納得。そういうことですよね。私最近、心理カウンセラーの資格を取ったんですけど。
花盛
え!すごくない!?
大畑
それで、肯定したい、つまり自分が肯定されたいっていう感情をたどってみると、幼少期まで遡るんですよね。
私の親は教師で、厳しくて、なかなか私のことを褒めてくれたり、肯定してくれたりすることがなかったんです。愛されていることや大事にしてくれていることはよくわかっていたけど、親はもっと頑張ってほしいから、褒めるよりも叩いて伸ばすみたいな。
でも私はそれで伸びるタイプではなくて、ずっと肯定してほしかったんだろうなって。
花盛
子どものときどうだったかって絶対ありますよね。
自分のことを最低最悪だって思うことがあっても、私は常にどこかでは、「でも私は幸せになるから」って思って生きてきたような気がするんです。それってやっぱり、親がくれた愛なんですよ。私はすごく肯定されて育ったかな。なので自分の子育てでも、それだけはやろうと思ってます。
ご飯はレンチンだけど、肯定することだけは絶対。どんな絵を描いてきても、「かわいい!」「天才!」って。
GENIC
最後の踏ん張りみたいなところって、「自分はそれでも大丈夫」と思えるかどうかな気、しますね。
花盛
そう思います。最後の砦としてそれがあれば、何でも超えられる。今朝も息子とそういう話をしてました。
「仕事なくなったら母ちゃんどうするの、お金なくなったらどうする?」って聞かれて、そんなんいくらでもバイトがあるから大丈夫だって。私はそういうマインドがずっとあるかな。
「私が写真を通してやりたいことって、"人を肯定する"ことなんだなって。それは、自分を肯定することでもあると気づいた」。
大畑陽子
女性は妊娠して、子どもができたら仕事がなくなる?
花盛
あと私、妊娠したのがちょうど写真で食べられるようになった頃だったので、妊娠検査薬の陽性反応を見たとき、泣きました。仕事なくなる!って。
大畑
それすごくわかります。しかも、自分がそう思ってしまったことにまた、罪悪感を感じません?
花盛
そう!ほんとそれ!あと、ぐずぐず泣いてる自分も嫌だった。それもあって、学生時代のような、枠にはまらない、何か激しいことをしようと思って、よしヌードだ!っていうのも「脱いでみた。」にはありましたね。
大畑さんはどんな感じだったんですか?
大畑
私もやっぱり、子どもができたうれしさと仕事への不安とで、心が定まっていなかった感じでした。実際お子さんが生まれてから、お仕事はどうだったんですか?
花盛
産んだ後、全部なくなった!うわー暇だなって感じで。でも「脱いでみた。」とか、作品撮りをどんどん進めていましたね。産前産後、休まざるを得ない期間があったから、その反動で写真欲がすごく高まってもいて。絶対に取り返しやるぞって、営業も行きまくりました。
あ、でも妊娠中も、自分のプロジェクトの営業には行ってましたね。絶対にこれを写真集にせねばならないと思って。そうじゃないと子育てしているうちに忘れ去られると思って。でも「脱いでみた。」は全然、どこにも引っかかりませんでした(笑)。だから今、こうやって認められていることが本当にうれしい。
大畑
時代が、すごく変わりましたよね。
花盛
変わった!すごく変わった!!
女性をエンパワーメントするっていうメディアなんか、ひと昔前はなかったですよね。今はむしろ、そんなのばっかりじゃないですか。
大畑
それはあるな~。
花盛
私のプロジェクトもちょっとずつ話題になってきて、そっち方面で仕事をくれる人が増えていったのは、時代もあると思う。出産前の仕事は食事もとらずに24時間働くみたいな勢いでしたけど、そうじゃなくなっていったのを感じましたね。
「妊娠中の人を褒めたいし、ママたちのこともすごく褒めたい。結局、それって自分が言われたかったことなんですよね」。
花盛友里
自分の得意なこと、やりたいことがわかると、道が開けていく
大畑
出産前はどんな仕事をやってたんですか。
花盛
青文字系の雑誌をやっていました。1日に100体とか撮ってた。もう無敵ですよ(笑)。ほんとに鍛えられた。
出産後は自分と同じようにお子さんがいる方たちと働くことが多くなって、その時間は難しいですとかもお互い言いやすくなったし、やりやすくなりました。
大畑
営業に行く段階で、子育てしながらも働けそうなところを選んだんですか?
花盛
選んでないです。営業は手当たり次第行きました(笑)。
でも私は師匠もいないし、新しい雑誌からは全然仕事をもらえませんでした。だからどうして今こうなったのかは自分でもわからないですけど……撮影したモデルさんが他の雑誌でも呼んでくれたっていうのが、あったかな。
そこから、その写真を見た他の雑誌の人がまた呼んでくれてっていう感じで、つながっていった気がします。
大畑
ありそう!花盛さんの写真って、モデルさんとか被写体の方の、生きてる!って感じが伝わるんです。
それって花盛さんじゃないと出せないなって思っていて。何でですか?
花盛
何でだろう。私もわからない。そうだったらいいなと思うけど……。
いつも思うんですけど、仕事の撮影はかわいいモデルさんばっかりだから、私がやることはあんまりないんですよ。
大畑
わかる(笑)。かわいいし、メイクもきれいにされているし、シャッターボタンを押しさえすれば、かわいいんですよね。
花盛
ほんとそれ!いつも、私は押してるだけです、って言ってます。
大畑
それでも、花盛さんの写真は、すごく被写体が生きている感じがします。
花盛
うれしい。ありがとうございます。
大畑
「脱いでみた。」は撮影が早いと聞いたことがあるんですけど、そうなんですか?
花盛
1人40分くらいで撮影しています。こんにちは、から帰るまでで。
大畑
すごくないですか!?
花盛
それ以上長いと無理なんですよ、ずっとしゃべっているので。
大畑
気合を入れているということ?
花盛
気合を入れるという感じではないけど、終わると疲れてます。全精力を使うから、1日4人までって決めています。
大畑
モデルの方はヌードになるじゃないですか。脱ぐのはわかっていても、なかなか初めて会った人の前だと抵抗があったりもしますよね。
花盛
そうですよね。でも私、すぐ脱がすんですよ(笑)。むしろ緊張させないようにかなり気をつけているという意味で。
あ、そうだ、私は結構、それが得意なんだと思う。人が感じていることを感じることが得意なんです。写真の上手い下手ではなくて、多分、そこが私の特技だなっていうのを、やっていてすごく感じます。いつシャッターボタンを押したらいいか、どうやったら相手が気持いいかとかを感じながら撮ってますね。
心地よくしてあげることが一番大事だと思ってやっています。
大畑
私、相手に対して緊張しちゃうんですよ。七五三の撮影でも緊張します。
お金もらってるし……とか考えはじめちゃって。
花盛
緊張は私もします。むしろ、夜寝れなくなるくらい緊張します。しょっちゅう嫌な夢も見るし。でも終わってからみんなに「全然わからなかったって」って言われる。
大畑
現場に入っても緊張していますか。
花盛
してますね。撮るときも緊張してます。とくに大きい撮影のときは周りにたくさん人がいて、カメラマンってすごく見られるじゃないですか。一枚目でいい写真をあげないといけないのもプレッシャーだし。
でも緊張してる自分が嫌いだから、取り繕っています。それもまた、うまいと思う(笑)。
GENIC
そのスキルはどうやって手に入れたんですか?
花盛
経験ですね。
私人前でしゃべることもすごく苦手で、「寝起き女子」のイベントで初めて人前に出たとき、声が出なかったんですよ。
そんな自分がすごく嫌で。その後、高校生300人の前で講演をする仕事の依頼があって、絶対無理!って思ったけど、もうこれは自分が乗り越えるべき壁だと思ってやることにして、それから講演までの2カ月間、練習の日々。言うこと全部記憶して、やったんです。
そのときの映像は一生見たくないけど、できたっていうことがすごく自信になっています。
大畑
花盛さんは撮られることもありますよね。私は話すのもそうだし、撮られるのも苦手で。
花盛
いやいやいや、全然苦手です。ただ、撮られることが嫌いだとか苦手だっていうのを、カメラマンさんにばれないようにしようとは思うんですよね。それが伝わっちゃうと緊張させてしまう。そうなるともう終わり、泥沼ですよ(笑)。なので頑張るけど、顔が変にはなっちゃう。でもだからこそ、「脱いでみた。」で来てくれる子たちの気持ちもわかるんですよね。
GENIC
「脱いでみた。」はやはり花盛さんにとって大きなターニングポイントだったのですね。
花盛
そうですね。自分の写真って何だろうって、迷うことあるじゃないですか。「脱いでみた。」で、やっとそれを見つけられた気がしています。過去はおしゃれな写真とかも撮りたいと思っていたけど、そこは他の人の場所かなって思えるようになっていきました。
その代わり、一般の方たちをきれいに撮るのは私じゃないと無理っていうのは、すごく自信を持って、唯一言えることだと思ってます。
大畑
そこにたどり着いたのも、自分を幸せにできたから?
花盛
そうですね。「脱いでみた。」の撮影で、私自身が幸せになったんだと思う。それまでは、しんどいばっかりの時期もあったし、葛藤も結構あったし。今は、そういうのがなくなりました。
GENIC
写真も変わりましたか?
花盛
写真も変わったかもしれないです。でもそれは、いろいろ試して失敗もしていく中で、自分らしいのはこっちだなって、ある意味で割り切ることができるようになったということなのだと思います。加工とかもいろいろ試したけど、いや無理だし、もういいやって。
私はこれでやっていこうというのを見つけていきましたね。
大畑
花盛さんは今、花盛さんのことを肯定してくれる人がたくさんいるじゃないですか。それも自分のことを認められた理由のひとつになっていますか。
花盛
もちろん!あと、自分も含め、みんなが肯定し合えて、支え合える居場所を作るようにもしています。
「脱いでみた。」のインスタがまさにそうで、あえて非公開アカウントにして、大切に扱っています。攻撃的な人とか、わけがわからないような人は入れません。
誰もかれもが見られると思うなよっていうのも、SNSが広がっていくなかで言いいたことではありましたね。
結果的に、肯定し合える場所を自分で作ったということもまた、すごく自信になりました。
大畑
個展もすごく盛況でしたよね。
個展で販売されていた写真集『And just like that,it’s been 26years』、限定300部って少なくない?と思っていたけど、それもあっという間に完売だったと聞きました。
花盛
ほんとありがたいです。7年前の個展も会場の外まで並んでくれるくらい大盛況で、あれを超えるものがつくれるのかどうか、準備していた半年間ずっと不安で。
見に来てくれた人たちと交流できて、実際に「救われました」って言ってくれる人たちを目の当たりにして、やっと成功を信じることができた感じでした。写真集も、単純に不安だったんです。
たくさん刷っても売れないかもしれないって怖気づいた。その弱さは、今回の展示で一番の反省点だと感じています。
GENIC
それでも、不安や恐怖とか、そういうものに対する向かっていき方がすごいなって思うんですけど、実感はありますか?
花盛
行動力はあります。行動力と生命力が高いです。「ゴキブリみたいやな」って友達に言われたことあります。だからゴキブリのことを先輩と呼んでいます(笑)。
口ばかりで試さずにいる人になるのが嫌で、言葉にする以上に行動して、絶対やるっていうのは、昔からあるかもしれないです。
「生きてるみんなが悩んだり抱えているものがある。やっぱり私がやりたいのは、写真館だって思いました」。
大畑陽子
みんなの居場所になるような写真館をつくりたい!
「一般の女の子たちをきれいに撮るのは私じゃないとっていうのは、すごく自信を持って、唯一言えることだと思っています」。
花盛友里
GENIC
花盛さんはどういう経緯から「花盛写真館」をはじめたのですか?
花盛
私の得意なことって一般の方たちをきれいに撮ることだと気づいたから、それをやりたいと思ったんですよ。ニューボーンフォトとかも勉強して。今は自分のアトリエで撮影をしています。
ヌードも撮りにきてほしいし、毎年帰ってきてくれて、最後は遺影まで撮らせてくれたら、最高だなって思います。
大畑
私も遺影の撮影を今すごく考えていて。遺影って、人生最高のポートレートだと思うんです。
花盛
最高ですよね。年を重ねるほどに自分の経験値もあがるし、遺影の撮影は撮る側の年齢が上がったほうが絶対いいと思うから、この先やりたいなと思う。
ただ実際には、自分が70、80歳になったら写真も撮れないだろうから、私と同じような志を持って、人を温かい目で見ることができるような人を育てていきたいという思いもありますね。教育にも、興味があります。
大畑
今はアシスタントさんがいるんですよね?
花盛
はい、一人います。私、厳しいですよ。
大畑
そうなの?厳しいと言っても、愛のある系ですよね?
花盛
いえ、普通に怒ります(笑)。その靴の並べ方やめて、とか言って。
作品の提出もたくさんさせて、でもそれだけ面倒もちゃんと見ています。
カメラマンって、最後はやっぱり人じゃないですか。仕事をあげたい、一緒に仕事したいと思える人になるためにどうしたらいいのかっていうのを日々伝えつつ、その子の写真のいいところを伸ばしていってあげたいですね。
大畑
すごい。やりたいことがめちゃくちゃあるじゃないですか。
花盛
今、自分は脂がのってるというのを自覚していて、逆に、今やるべきことをやっておかないと、いつか仕事がなくなるというのも常に思っていて。
種をいっぱい蒔いておかないとなって思いながら行動してますね。
大畑
仕事がなくなるっていうのは、年齢の問題で?
花盛
年齢もあるし、新しい才能もいっぱい出てきますよね。
大畑
なるほど。私は年齢がやっぱり気になっちゃって、女だしっていうのもあって。
花盛
ほんと?自分が女だから、って思ったことはないかもしれないです。
大畑
私は、女だからそんなに長くは仕事できないだろうなって、カメラマンになりたてのときから思ってました。周りからそう言われていたし、実際、カメラマンはそんなに寿命が長くないというのを、いろんなカメラマンたちを見て思いもしたな。
だから独立したてのときは、消費されるだけのカメラマンであろうが何であろうが、写真を撮れさえすればそれでいいって思って、オールマイティーなカメラマンに一直線。
つまり、一番仕事が来なくなるタイプに向けて頑張っていたということなんですけど……。
花盛
私も同じだ。何でもやります!って。だから仕事がなくなった。
大畑
最近、写真館にすごくよさそうな物件が見つかって。出会ってしまったので、もう「やれ」って言われているなと思って。居場所があれば老後まで楽しく写真を撮れるし、そこを女の人たちが働ける場所にしていけたらいいなというのも思っています。
私ってできることが少ないから、みんなに助けてもらわないと何もできない。
でも逆に、お願いしますって人を頼ることはできるから、それでそれぞれが、うまく楽しくやっていけたら最高だなと思って。
花盛
最高そう!私は、写真館でおかえりって言いたい。今年も来たよ、大きくなったねっていう、町の写真館のようなコミュニティに憧れています。
死ぬときにはこの人に撮ってもらいたいって思ってもらえるのが、カメラマンとしての究極の理想です。
「すごく勇気を持って発信している。そうしないと変わらない。でも、変えたいから」。
花盛友里
一人ひとりが発信していくことで世界はもっと生きやすくなる
大畑
実は私、花盛さんのこともすごく羨ましかったんです。写真だけでなくSNSとかでも、いろいろなことを発信して、人に肯定されているのがすごくまぶしくて。
花盛
いえいえ、誰でも発信さえすれば、フォローしてくれている人は肯定してくれるはずですよ。
大畑
でも、何か言われないかとか、怖くも感じますよね。花盛さんは発信を恐れないですか?
花盛
手、震えます。コロナ禍にマスクのことを言ったときとか、選挙のこと言うときとか、ほんとに緊張します。
でもやっぱり、間違ってるって思うことには、勇気を出してちゃんと声を上げるようにしています。
大畑
そうなの!?花盛さんは息をするように発信しているのかと思ってました。
花盛
全然!まったくそんなことない。ただ、変わりたいって思うし、変わってほしいとも思う。伝えるべきことを考えて、めちゃくちゃ丁寧に返信もしています。
例えば私の寄付に対して、「ここにもそういう人たちがいるから、こっちも助けてほしいです」みたいな連絡をよくいただくんですよでも、私にお願いするのではなくて、あなたがやりなさいっていつも思うんです。
私じゃないとダメであなたにはできないなんてことは絶対にないから、むしろ私より近くにいてよく知っているあなたが思っていることを、発信して伝えていってください、ということを伝えています。
フォロワー数が多いからやってくださいっていうのは、間違ってると思うから。一人ひとりが発信して、変えていかないとって思うんです。
大畑
確かに。身につまされますね。私も発信しよう!
花盛
大畑さんは、ご自身の中にすごく葛藤があったんだなっていうのが感じられて。そこから抜け出すために、自分で殻を割って今があるんだなっていうのを感じます。それって素晴らしくないですか。
お子さんたちはもちろん、いろんな人に伝えていけるんだろうなって思います。
大畑
まだまだ割っている最中ですけどね。
花盛
割り続けましょう。割り続けるから、人のことがわかるんだと思うな。
ただ、「脱いでみた。」の発信もそうだけど、書き方はすごく気をつけてます。
私は完全にフェミニストではあるけど、男性を否定してるわけではないし、「脱いでみた。」が女性のものだけになることも違うと思っていて。私が自分を認めたいから女の人を撮っているんであって、男の人のことだって認めてあげたいと思っています。
間違った男らしさで傷ついたりする人いっぱいいるから、それもやめようよっていうのをすごく言いたいですね。なので、性別で分けないようには気をつけています。
大畑
それはありますね。「Nana」の写真展のとき、SNSの告知で写真集のあとがきを載せたんです。
そうしたら、「自分のことだと思いました」と言って見に来てくれた男性が多くてびっくりしました。
最初はナナちゃんの容姿に惹かれてかなと思ったんだけど(笑)、そうではなかった。女の人だけじゃなくて、男の人も、男らしくとか、男なんだからとか、そういうのにずっと押さえつけられてきたんだなって思いましたね。
花盛
男の人は、男らしくあるべきとか、給料が高くなきゃいけないとか、仕事ができないといけないっていうことから解放されて、女の人は、自分たちが家事をしないといけないとか、家事ができない女性はよくないとか、子どもがいないとよくないみたいな気持ちから解放されるだけでも、人を傷つけずに、いい世界になるんじゃないかなと思いますよね。そういうのを、すごく気をつけながら、私は発信しています。
発信するものは、自分のなりたい未来を描くものであると思っています。
「SNSで発信した『Nana』のあとがきを読んで写真展に来てくれたのは男性が多かった。男の人も、ずっと何かに押さえつけられてきたんだと知りました」。
大畑陽子
GENIC vol.67【撮影と表現のQ&A】大畑陽子、花盛友里/Q.話してみたい写真家は誰ですか?
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.67
7月号の特集は「知ることは次の扉を開くこと ~撮影と表現のQ&A~」。表現において、“感覚”は大切。“自己流”も大切。でも「知る」ことは、前に進むためにすごく重要です。これまで知らずにいたことに目を向けて、“なんとなく”で過ぎてきた日々に終止符を打って。インプットから始まる、次の世界へ!
GENIC初のQ&A特集、写真家と表現者が答える81問、完全保存版です。