大畑陽子
フォトグラファー 1983年生まれ、埼玉県出身。スタジオアシスタント、フリーアシスタントを経て独立。人物写真を中心に雑誌や広告、web等で活動中。被写体のエネルギーが写るような写真を得意とする。2022年、写真集『Nana』出版。
愛用カメラ:Canon EOS R5
愛用レンズ:SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM、SIGMA 35mm F1.4 DG DN SE
<憧れの投影>少女から大人へ。近所に住むナナちゃんを追った18年
ナナちゃんは私と遊ぶことが、私は撮ることが、ただただ楽しくて、二人は無邪気だった
「私とナナちゃんは17歳離れています。それでもこの頃、ナナちゃんにとって私は一番の友達だった。私はというと、大学の入学祝いにカメラを買ってもらい、撮ることが楽しくて仕方がなかった。ナナちゃんは父が『風の子ナナちゃん』と呼ぶほど元気な子で、社会人になり家を出てからも、実家に帰って電話をすると風のように飛んできてくれていました」。
時代の流行りに後押しされた写真という道
「しばらくナナちゃんのことを撮影しない期間がありました。その間、連絡すらとっていなかったと思う。でも、ナナちゃんが高校3年生の時、勇気を出して撮らせてほしいと頼みにいきました。その時私は、高校生になったナナちゃんを撮りたい、と強く思ったのです」。
「ポートレートを撮るようになったきっかけは高校生時代に流行っていたプリクラでした(笑)。写真を持っていくとプリクラサイズのシールにしてくれるサービスを写真屋さんがやっていて、父や祖父のカメラを使って撮りはじめたのがその頃だったんです。学校でバシャバシャ撮っては写真屋さんに行く、というのを繰り返していました」。
その後、大学の入学祝いにフィルム一眼レフカメラを買ってもらうと、大畑さんはさらに写真にのめり込んでいった。
「その頃に、うちによく遊びに来ていたのが近所に住むナナちゃんなんです。小さくてかわいらしくて、それに子どものする行動って予測不能で面白い。写真集にまとめる気持ちなんて全然なくて、ただただ楽しくて撮っていました」。
私だって"女の子らしく"したかった。私ができなかった姿が、そこにはあった。憧れの少女像を、ナナちゃんに投影していたのだと思います
「ナナちゃんはいつも素の姿をそのままに撮らせてくれていました。それが小学校高学年になったある日、カメラを向けると変顔をされたことがありました。思春期になれば撮られることを意識するようになるだろうと思っていたけれど、いざその時になるとショックで、私はだんだん、ナナちゃんにカメラを向けることができなくなっていきました」。
儚くも輝かしい高校生時代を再現するように
「高校生のナナちゃんに『撮らせてほしい』とお願いにいった時、二十歳になるまでと考えていました。実際二十歳まで撮りましたが、高校を卒業するとナナちゃんは少女から大人の女性になったと強く感じられ、私の中でその時撮影は終わりを迎えていたように思います。そしてそれこそが、私は”少女”を撮りたかったのだという気づきでもありました」。
無邪気だったナナちゃんは、成長とともに大畑さんに敬語を使うようになり、カメラも意識するようにもなっていった。二人の距離は少しずつ広がり疎遠になっていた数年間がある。しかしそれを経て、大畑さんは高校生になったナナちゃんに「撮らせてほしい」とお願いにいった。
「私の中に憧れの少女像のようなものがあって、綺麗に成長している高校生のナナちゃんを撮りたいと思ったんです。私は小さい頃から髪を伸ばしたこともなくて、高校生の時なんて男勝りのベリーショート。でもある時、本当は私だって"女の子"をしたかったのだと気づきました。ナナちゃんの撮影は憧れの投影だったのです。でも、今はわかります。あの時代を生きる女の子たちはみんな綺麗だと」。
GENIC vol.65【「記録と記憶」ドキュメンタリーポートレート】
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.65
GENIC1月号のテーマは「だから、もっと人を撮る」。
なぜ人を撮るのか?それは、人に心を動かされるから。そばにいる大切な人に、ときどき顔を合わせる馴染みの人に、離れたところに暮らす大好きな人に、出会ったばかりのはじめましての人に。感情が動くから、カメラを向け、シャッターを切る。vol.59以来のポートレート特集、最新版です。