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色に恋して。デジタル写真をフィルム風に 「FUJIFILM フィルムシミュレーションの魅力」vol.7 Yuki Kamishima

デジタルカメラで撮影した写真を、フィルム写真のようなカラーに。そんな夢のような機能が、富士フイルムのデジタルカメラに搭載されています。その名も「フィルムシミュレーション」。フィルムを交換するような感覚で色再現を楽しめる機能で、その数なんと20種類。フィルム時代から90年以上にわたり、色の表現を研究してきた富士フイルムだからこそ作れる機能です。

「Xシリーズ」「GFXシリーズ」すべての機種で使用できるとあって、この機能に恋して、富士フイルムのデジタルカメラを愛用し続ける写真愛好家やフォトグラファーも多数。

そこで、本連載では「フィルムシミュレーション」の魅力を、全12回にわたってお届け。毎回1名のクリエイターがお気に入りのフィルムシミュレーションで撮影した作品とともにその魅力を語ります。

第7回は、フォトグラファーのYuki Kamishimaさん。富士フイルムの「X-T5」と「GFX100 II」で撮影した作品とともに、お気に入りのフィルムシミュレーションについて紹介します。

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目次

プロフィール

Yuki Kamishima

フォトグラファー 1991年生まれ、富山県出身。2011年、屋久島への1人旅がきっかけで自然風景の魅力にのめり込む。島の美しい音、肌で感じられる空気、美しい色彩、山々が作り出す命の様など、初めての感覚に心が高揚し、この素晴らしさを形に残したいと思い、ランドスケープ撮影を開始。富山にある立山、剱岳が作り出す自然景観、隣県の長野県や岐阜県が主な活動場所。Landscape Photo Design / L.P.D 所属。

山の自然から何かを感じて作品に落とし込む

常々、写真をタイムトラベルのようだと感じています。僕の写真はRAW現像までをもって完成するのですが、撮影地で感じた気持ちを思い起こさせてくれる現像作業中の時間がとても心地いいです。

僕はずっと山の自然に重点を置いて、風景を撮影してきました。現在は、フィールドを広げ自分の感じる自然風景をどうデザインするのか考えて撮影しています。自然の中の規則性や擬似表現を中心に、何かを感じて作品に落とし込むことを、僕の写真の一部にしていきたいと思っています。今まで培ってきたものを生かしながら新しい表現を獲得し、それをまたアウトプットしていく。同じ場所に留まって長く向き合ってきたこれまでから、どんどん新しくアップデートしていくようなスタイルへと変化してきました。

camera:X-T5 lens:XF16-80mmF4 R OIS WR
フィルムシミュレーション: ETERNA/シネマ
「冷え込んだ初秋の景色の中、空が優しく染まる時間に、空に手を伸ばしているような木に出会いました。うっすらとかかるモヤがどこか夢のような雰囲気を与えてくれて、優しいピンクに染まる空のカラーが可愛らしく、惹かれました。ポツンと立つ木とマーブルカラーをした空のコラボレーションがこの作品のお気に入りのポイント。キツくなりやすい組み合わせでもありますが、ETERNA/シネマの柔らかなコントラストが優しくマッチしてくれました。黒つぶれしやすいディテール部分も、しっかり粘ってくれています」。

僕とX-Tシリーズとの出会いは、2020年の3月ごろ。XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR のレンズを中心に組んだセットで使い始めたのが最初で、記憶を思い起こさせるようなどこか懐かしい色作りに惚れ込んだのがきっかけです。

僕がシステム移行を決断した当時の明確な理由の一つが、色表現でした。さまざまなフィルムシミュレーションを撮影時の段階から選択できる点は大きな魅力であり、他メーカーでは考えられないほどの数、個性のあるフィルムシミュレーションがある。表現の幅、色作りの概念を大きく変えてくれました。当時は一眼レフからの移行だったこともあり、ミラーレスのシステムによるボディの軽量化にも驚きました。

僕はもっぱら自然風景での撮影がメインになるので、シビアなコンディションでカメラを使うことが多いです。霧のある景色や-20℃の中での使用でも、バッテリーの持ちや機材トラブルが少ないことは、自然を相手にしたときとても重要な点で、そこをクリアしてくれることも大きな魅力でした。

camera:X-T5 lens:XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR
フィルムシミュレーション:REALA ACE
「火山地形を流れてくる雲と合わせて撮影した1枚です。赤茶の山肌と空のさわやかな青色のコントラストが心地よく感じました。雲がいろいろと形を変えていたので、タイミングをはかりながら超望遠ズームを構えてじっと待っていました。反射的に反応できるよう手持ちでしたが、X-T5の速写性がこの写真を気軽に撮影させてくれたと感じています。フィルムシミュレーションは、REALA ACEと相性のいい赤茶色の被写体だったので迷わずチョイスしています。空の色は少しレタッチで戻していますが、基本的にREALA ACEは作品のゴールが見えやすく、また平凡な時間帯でも中間調にしっかりコントラストがつくので、本当に気持ちがいいです」。

それ以来、「X-T3」、「GFX 50R」、「GFX50S II」、「X-T5」と移行してきました。今回使ったのは、愛機の「X-T5」と「GFX100 II」です。

「X-T5」で一番魅力に感じるのは、被写界深度のバランスがよいことです。僕はパンフォーカスでの撮影が多く、ボケを使った作品の撮影もマクロが多いです。そのため中判に比べてワンショットで深度が決まることが多く、葉っぱなど動く被写体も捉えやすいのが、僕にとってはとても重要で、魅力なのです。

また、フィルムシミュレーションが増え、「REALA ACE」が使える点も気に入っています。PROVIA/スタンダードよりもミッドトーンが少しハイキーになり、色の味付けも若干アンバーに寄る感じが僕の写真にすごくマッチします。とくに日の出前のブルーが少し乗ってくる時間は、REALA ACE+オートWBのホワイト優先がすごくハマります。X-T5を使い始めてから、この時間帯の撮影はほぼこの設定で撮ることが多いです。

今回初めて使用した「GFX100 II」は、豊かな階調表現に惹かれました。想像以上の情報量がハイライトにもシャドウにも存在していて、レンジが広く色のつながりも綺麗すぎます。逆光時や霧の中での色情報が少ないグレートーンでの撮影も、レタッチでの無理が利く。そのおかげで、他のカメラではボツカットになってしまうような写真も、ときにメインカットにまでなってくれます。これだけのレンズがそろうラージフォーマットは、他社にはない魅力だと思いました。

手ブレ補正が強化された点もよかったです。被写界深度が確保できるシーンでは、手持ちでバシバシ撮影できます。GFX50S IIと比べて、想像以上に歩止まり(全体に対する成果の割合)がよく、中判カメラの撮影を一段階引き上げてくれました。

そして、WB(ホワイトバランス)の精密度も高められていると感じました。どれだけカメラがすごくても色が被ってしまっていては、どこかネムイ感じの画像に見えてしまうのですが、撮って出しからほとんど補正する必要がないのではないかというくらい正確だと思います。AUTOモードと、晴れ・日陰のプリセットは、とくにそう感じられました。僕はレタッチを前提に撮影することが多く、明るい部分、暗い部分、中間調それぞれ分けてWBを調整します。その際に微量の調整で済むことで、作品を効率よく仕上げることができる点は、時間の短縮にもなる。この正確性は非常に重要で魅力的でした。

camera:GFX 100II lens:GF500mmF5.6 R LM OIS WR
フィルムシミュレーション: ETERNA/シネマ
「朝陽が昇ってからの、光のグラデーションが山並みを鮮やかに染めていく様子を撮影しました。レイヤー状に色が分かれていく様子が綺麗だと素直に感じました。国道最高地点付近で撮影したのですが、秋の予感がするような肌寒い朝でした。何度も撮ってきた時間ですが、GFX 100IIを持っていたので、朝陽が昇るまでの時間を楽しみにしながらこの瞬間を迎えました。陽が昇りきると色は単調になりますが、とくによく晴れた日のそれまでの時間は、まるで地球が目覚めたかのようにいろいろと色が変化していきます。ダイナミックレンジが最大限に求められる逆光下での撮影でしたが、ETERNA/シネマを使用することに加えて、色が飽和しないようにGFX100 IIの力も借りて、優しくグラデーションがつながるように心がけて撮影しました」。

富士フイルムのカメラといえば、やはりフィルムシミュレーションです。

僕の場合、撮影の段階で初めに確認するのがフィルムシミュレーションで、被写体の色を確認するくらい大事な機能だと捉えています。色の乗り方が本当に多彩なので、さまざまなフィルムシミュレーションを試してから、次いでWBの設定に移り、シャッタースピード、F値、ISOの順番に追い込んでいきます。

キツめのコントラストは僕の作品創りにおいてはあまり好まないので、低コンラスト・低彩度で撮影してレタッチで調整できる幅をつけてあげることを、撮影の段階ではかなり意識しています。選択肢の幅が多いことで、自分では気づかなかった色のバランスに出会えることは、富士フイルムのカメラでないと実現できない、唯一無二の機能だと思っています。

My favorite フィルムシミュレーション

1:ETERNA/シネマ

最大の魅力は、動画撮影でよく耳にするグレーディングに近い使い方ができることだと思っています。撮って出しだと少しネムイですが、レタッチでの調整という点では、味付けが薄いからこそ、自分で自由にコントラストや色の濃淡をつけることができます。Photoshopでのレタッチベースとして、ハイコントラストな場面では必ずと言っていいほど、このフィルムシミュレーションを使用しています。

camera:X-T5 lens:XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR
フィルムシミュレーション: ETERNA/シネマ
「紅葉したシダをマクロ風に撮影しました。シダの葉っぱをクローズアップするとお菓子のグミがたくさんついてるような感じがして可愛いです。綺麗な金色に染まったシダの葉をこの日はずっと探していました。ありそうでなかなか見つけられない時間は、宝探しのようでもありました。西陽が入るのを待って、光を透過させることで、葉脈の模様が綺麗に浮かび上がるよう意識しています。ETERNA/シネマを使うと、直接の光で硬くなりやすい被写体も柔らかく表現できます。ETERNA/シネマはいつも、極端なコントラストがつきやすい環境でも、思った通りの柔らかさに仕上げてくれます」。

2:REALA ACE

「REALA ACE」は、色味が少しだけアンバーに寄せられ、暖色系の被写体と相性がとてもよく感じます。紅葉の撮影では、このフィルムシミュレーションが大活躍でした。他にも朝や夕方など、光が暖色に寄る時間も非常に相性がよいと思います。撮って出しで色味が整うくらい気持ちのいいカラーが出ることが多く、使用頻度がかなり高いです。

camera:X-T5 lens:XF16-80mmF4 R OIS WR
フィルムシミュレーション: REALA ACE
「紅葉の志賀高原で白樺の家族を撮影。黄色く染まっていく途中の白樺とあたり一面の霧景色が、シンプルな淀みのないコントラストとなり綺麗でした。紅葉が大好きで、毎年必ず訪れる場所の一つである志賀高原で、この日も運よく美しい景色に出会えました。アクセントのような黄色の葉っぱが粒のように散らばっているところがお気に入りです。REALA ACEとオートWBのホワイト優先は、日の出前のブルーの時間と、とても相性がよく、この作品でも色被りを綺麗に取ってトーンをフラットにしてくれました。おかげでメリハリのある淀みのない色作りができました」。

3:ACROS+Ye

「ACROS+Ye」は、レッドとグリーンを二分化したようなモノクロのフィルムシミュレーションで、青空を入れた被写体のときにより顕著に効果を発揮します。水面に反射した青色にも効果があるので、個人的にはACROS+RとACROS+Yeを使い分けることが多いです。そのため、ACROSの使い分けは、欲しいコントラストによってACROS+RかACROS+Yeに決めることが多く、背面モニターで好きなコントラストが出るほうを選んでいます。

また、ACROS+Yeは順光でより効果を発揮するので、CPLフィルターと必ずセットで使っています。レタッチでベースとしてこのフィルムシミュレーションを使う際は、Photoshopのカラーバランスレイヤーを使って少しだけ青味を足してあげるような使い方をすることもあります。

camera:GFX100 II lens:GF100-200mmF5.6 R LM OIS WR
フィルムシミュレーション: ACROS+Ye
「濃霧の中に浮かび上がる寄り添いあった木々を撮影しました。霧は余分なものを包み隠し、普段見えない光景を見せてくれます。雑多な場所も余白を生かした撮影をしやすい環境に様変わりするので、僕のようにミニマルな撮影を好む人には好相性です。このときは、ACROSで撮ってくれと言わんばかりの静寂が作り出す光景で、静けさがむしろ力強く感じられました。ACROS+YeはACROSの中でもマルチプレイヤー的な立ち位置で、コントラストのバランスが程よいです。順光時などはレッドを使うと空の色を印象的にしやすいですが、イエローはどんなシーンでも階調豊かに表現してくれます。迷ったときはイエローを使うと、レタッチでの処理も自分でコントラストを自在につけやすいのでおすすめです」。

光の状態によって、生きてくるフィルムシミュレーションは異なります。逆光やサイド光での撮影はETERNA/シネマやREALA ACEを主軸に撮影することが多く、低彩度の被写体の撮影ではベルビアを使うこともあるくらい、シーンによって使うフィルムシミュレーションが異なります。WBの選択とCPLフィルターの調整でも色の出方がかなり変わるので、やはり選択の幅があることが、フィルムシミュレーションの大きなメリットだと感じます。

Yuki Kamishimaさんが愛するフィルムシミュレーションの特徴

1:ETERNA/シネマとは?

映画用フィルム「ETERNA」がベース。特定の色が主張しすぎないように彩度はおさえめ、急な白飛びや黒つぶれを防ぐハイエストとディープシャドウの非常に柔らかい階調により、 "シネマ・ルック"を実現しています。

camera:GFX100 II lens:GF500mmF5.6 R LM OIS WR(+GF1.4X TC WR)
フィルムシミュレーション: ETERNA/シネマ
「地元の有名な滝をいつもと違う視点で撮影してみました。ハイシャッターでの撮影によって、水の飛沫の細かさを精細に捉えられ、滝の躍動を、全体像を捉えずとも感じることができるようにしています。今までやってこなかったアプローチで、レンズ選択や設定などを追い込み撮影。新鮮であると同時に難しさもありました。GFX100 IIとETERNA/シネマの組み合わせで、精細感と綺麗で爽やかなブルーのカラーを出しています。ハイライトが強く出やすい滝の撮影では、コントラストの制御が難しいと思い込んでいましたが、GFX100 IIとETERNA/シネマが目一杯レンジを広げてくれたおかげで、解像感を犠牲にすることなく理想の撮影ができました」。

2:REALA ACEとは?

世界初の「第4の感色層技術」を導入したネガフィルム「REALA ACE」がベース。目で見たままに近い忠実な色再現を目指し、さまざまなシーンにおいて使いやすくしながらも、階調にメリハリを持たせることで立体的な表現が得られます。

camera:GFX100 II lens:GF500mmF5.6 R LM OIS WR(+GF1.4X TC WR)
フィルムシミュレーション: REALA ACE
「近所のよく行く海で撮影しました。視点を変えてみると細かなボーダーが見えてそれが可愛いと思いました。マンネリ化しやすい海での撮影はいつも自分を試すのに面白い場所だと思っています。わざとカメラをブラすことで、ボーダーのラインを無数に作ってみました。爽やかなブルーが目立つ日の海だったのでストレートに表現できるREALA ACEをチョイスしました。微細な解像感は必要なく、階調表現だけがこの作品では必要だったので、GFX100 IIとREALA ACEの組み合わせにしてみました」。

3:ACROS+Yeとは?

コントラスト強調フィルターのなかでは最も効果が弱いため、フィルム時代には常用している人も多くいたACROS+Ye。空を暗く落ち着かせるだけでなく、黄色より波長が短い緑も吸収するため「緑の中にある花」といったシチュエーションでもコントラストが変化します。ACROSの繊細な階調を活かすために効果の違いを理解すれば、ネイチャーやストリートで活躍するルックです。

camera:X-T5 lens:XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR
フィルムシミュレーション: ACROS+Ye
「山脈の一部に雲の影ができたシーンを超望遠レンズで撮影しています。雷が走ったような模様が光で浮かび上がり、その周りの雲のマダラ模様がリズムをつけてくれた点が気に入りました。この作品では高コントラストがつくとちょっと強すぎると感じていたので、ACROS+Yeはベストマッチでした。映画のワンシーンのように表現したいとき、階調の幅を目一杯使ってあげることは大事な要素だと思っています」。

Yuki Kamishimaさんが使用したカメラ

X-T5

Xシリーズの原点である「小型・軽量・高画質」にこだわり、写真を最優先に設計されたモデル。5軸・最大7.0段のボディ内手ブレ補正機能や、ファインダー倍率0.8倍/369万ドットの高倍率EVFを搭載。カメラの軍艦部には、ISO感度/シャッタースピード/露出補正をコントロールする3つのダイヤルを搭載。操作感を最適化したことで、従来機より小型/軽量化した557gのコンパクトボディの実現と操作性の高さを両立した一台。

FUJIFILM WEB

GFX100 II

圧倒的な画質とシステム機動性に加え、新たに高速性能と動画性能を手に入れたGFXシリーズのフラッグシップモデル。アルゴリズムの改良により進化した顔・瞳AFに加え、動物・鳥・車・バイク・自転車・飛行機・電車・昆虫・ドローンを検出する。高速連写性能も進化し、従来のGFXシリーズでは撮影が難しかったスポーツ分野においても決定的瞬間を逃すことなく力を発揮してくれる。忠実な色再現性とメリハリのある階調表現を持ち合わせた「REALA ACE(リアラエース)」が加わり、フィルムシミュレーションも全20種にパワーアップ。

FUJIFILM WEB

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