目次
プロフィール
Yuki Kamishima
フォトグラファー 1991年生まれ、富山県出身。2011年、屋久島への1人旅がきっかけで自然風景の魅力にのめり込む。島の美しい音、肌で感じられる空気、美しい色彩、山々が作り出す命の様など、初めての感覚に心が高揚し、この素晴らしさを形に残したいと思い、ランドスケープ撮影を開始。富山にある立山、剱岳が作り出す自然景観、隣県の長野県や岐阜県が主な活動場所。Landscape Photo Design / L.P.D 所属。
山の自然から何かを感じて作品に落とし込む
常々、写真をタイムトラベルのようだと感じています。僕の写真はRAW現像までをもって完成するのですが、撮影地で感じた気持ちを思い起こさせてくれる現像作業中の時間がとても心地いいです。
僕はずっと山の自然に重点を置いて、風景を撮影してきました。現在は、フィールドを広げ自分の感じる自然風景をどうデザインするのか考えて撮影しています。自然の中の規則性や擬似表現を中心に、何かを感じて作品に落とし込むことを、僕の写真の一部にしていきたいと思っています。今まで培ってきたものを生かしながら新しい表現を獲得し、それをまたアウトプットしていく。同じ場所に留まって長く向き合ってきたこれまでから、どんどん新しくアップデートしていくようなスタイルへと変化してきました。
僕とX-Tシリーズとの出会いは、2020年の3月ごろ。XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR のレンズを中心に組んだセットで使い始めたのが最初で、記憶を思い起こさせるようなどこか懐かしい色作りに惚れ込んだのがきっかけです。
僕がシステム移行を決断した当時の明確な理由の一つが、色表現でした。さまざまなフィルムシミュレーションを撮影時の段階から選択できる点は大きな魅力であり、他メーカーでは考えられないほどの数、個性のあるフィルムシミュレーションがある。表現の幅、色作りの概念を大きく変えてくれました。当時は一眼レフからの移行だったこともあり、ミラーレスのシステムによるボディの軽量化にも驚きました。
僕はもっぱら自然風景での撮影がメインになるので、シビアなコンディションでカメラを使うことが多いです。霧のある景色や-20℃の中での使用でも、バッテリーの持ちや機材トラブルが少ないことは、自然を相手にしたときとても重要な点で、そこをクリアしてくれることも大きな魅力でした。
それ以来、「X-T3」、「GFX 50R」、「GFX50S II」、「X-T5」と移行してきました。今回使ったのは、愛機の「X-T5」と「GFX100 II」です。
「X-T5」で一番魅力に感じるのは、被写界深度のバランスがよいことです。僕はパンフォーカスでの撮影が多く、ボケを使った作品の撮影もマクロが多いです。そのため中判に比べてワンショットで深度が決まることが多く、葉っぱなど動く被写体も捉えやすいのが、僕にとってはとても重要で、魅力なのです。
また、フィルムシミュレーションが増え、「REALA ACE」が使える点も気に入っています。PROVIA/スタンダードよりもミッドトーンが少しハイキーになり、色の味付けも若干アンバーに寄る感じが僕の写真にすごくマッチします。とくに日の出前のブルーが少し乗ってくる時間は、REALA ACE+オートWBのホワイト優先がすごくハマります。X-T5を使い始めてから、この時間帯の撮影はほぼこの設定で撮ることが多いです。
今回初めて使用した「GFX100 II」は、豊かな階調表現に惹かれました。想像以上の情報量がハイライトにもシャドウにも存在していて、レンジが広く色のつながりも綺麗すぎます。逆光時や霧の中での色情報が少ないグレートーンでの撮影も、レタッチでの無理が利く。そのおかげで、他のカメラではボツカットになってしまうような写真も、ときにメインカットにまでなってくれます。これだけのレンズがそろうラージフォーマットは、他社にはない魅力だと思いました。
手ブレ補正が強化された点もよかったです。被写界深度が確保できるシーンでは、手持ちでバシバシ撮影できます。GFX50S IIと比べて、想像以上に歩止まり(全体に対する成果の割合)がよく、中判カメラの撮影を一段階引き上げてくれました。
そして、WB(ホワイトバランス)の精密度も高められていると感じました。どれだけカメラがすごくても色が被ってしまっていては、どこかネムイ感じの画像に見えてしまうのですが、撮って出しからほとんど補正する必要がないのではないかというくらい正確だと思います。AUTOモードと、晴れ・日陰のプリセットは、とくにそう感じられました。僕はレタッチを前提に撮影することが多く、明るい部分、暗い部分、中間調それぞれ分けてWBを調整します。その際に微量の調整で済むことで、作品を効率よく仕上げることができる点は、時間の短縮にもなる。この正確性は非常に重要で魅力的でした。
富士フイルムのカメラといえば、やはりフィルムシミュレーションです。
僕の場合、撮影の段階で初めに確認するのがフィルムシミュレーションで、被写体の色を確認するくらい大事な機能だと捉えています。色の乗り方が本当に多彩なので、さまざまなフィルムシミュレーションを試してから、次いでWBの設定に移り、シャッタースピード、F値、ISOの順番に追い込んでいきます。
キツめのコントラストは僕の作品創りにおいてはあまり好まないので、低コンラスト・低彩度で撮影してレタッチで調整できる幅をつけてあげることを、撮影の段階ではかなり意識しています。選択肢の幅が多いことで、自分では気づかなかった色のバランスに出会えることは、富士フイルムのカメラでないと実現できない、唯一無二の機能だと思っています。
My favorite フィルムシミュレーション
1:ETERNA/シネマ
最大の魅力は、動画撮影でよく耳にするグレーディングに近い使い方ができることだと思っています。撮って出しだと少しネムイですが、レタッチでの調整という点では、味付けが薄いからこそ、自分で自由にコントラストや色の濃淡をつけることができます。Photoshopでのレタッチベースとして、ハイコントラストな場面では必ずと言っていいほど、このフィルムシミュレーションを使用しています。
2:REALA ACE
「REALA ACE」は、色味が少しだけアンバーに寄せられ、暖色系の被写体と相性がとてもよく感じます。紅葉の撮影では、このフィルムシミュレーションが大活躍でした。他にも朝や夕方など、光が暖色に寄る時間も非常に相性がよいと思います。撮って出しで色味が整うくらい気持ちのいいカラーが出ることが多く、使用頻度がかなり高いです。
3:ACROS+Ye
「ACROS+Ye」は、レッドとグリーンを二分化したようなモノクロのフィルムシミュレーションで、青空を入れた被写体のときにより顕著に効果を発揮します。水面に反射した青色にも効果があるので、個人的にはACROS+RとACROS+Yeを使い分けることが多いです。そのため、ACROSの使い分けは、欲しいコントラストによってACROS+RかACROS+Yeに決めることが多く、背面モニターで好きなコントラストが出るほうを選んでいます。
また、ACROS+Yeは順光でより効果を発揮するので、CPLフィルターと必ずセットで使っています。レタッチでベースとしてこのフィルムシミュレーションを使う際は、Photoshopのカラーバランスレイヤーを使って少しだけ青味を足してあげるような使い方をすることもあります。
光の状態によって、生きてくるフィルムシミュレーションは異なります。逆光やサイド光での撮影はETERNA/シネマやREALA ACEを主軸に撮影することが多く、低彩度の被写体の撮影ではベルビアを使うこともあるくらい、シーンによって使うフィルムシミュレーションが異なります。WBの選択とCPLフィルターの調整でも色の出方がかなり変わるので、やはり選択の幅があることが、フィルムシミュレーションの大きなメリットだと感じます。
Yuki Kamishimaさんが愛するフィルムシミュレーションの特徴
1:ETERNA/シネマとは?
映画用フィルム「ETERNA」がベース。特定の色が主張しすぎないように彩度はおさえめ、急な白飛びや黒つぶれを防ぐハイエストとディープシャドウの非常に柔らかい階調により、 "シネマ・ルック"を実現しています。
2:REALA ACEとは?
世界初の「第4の感色層技術」を導入したネガフィルム「REALA ACE」がベース。目で見たままに近い忠実な色再現を目指し、さまざまなシーンにおいて使いやすくしながらも、階調にメリハリを持たせることで立体的な表現が得られます。
3:ACROS+Yeとは?
コントラスト強調フィルターのなかでは最も効果が弱いため、フィルム時代には常用している人も多くいたACROS+Ye。空を暗く落ち着かせるだけでなく、黄色より波長が短い緑も吸収するため「緑の中にある花」といったシチュエーションでもコントラストが変化します。ACROSの繊細な階調を活かすために効果の違いを理解すれば、ネイチャーやストリートで活躍するルックです。
Yuki Kamishimaさんが使用したカメラ
X-T5
Xシリーズの原点である「小型・軽量・高画質」にこだわり、写真を最優先に設計されたモデル。5軸・最大7.0段のボディ内手ブレ補正機能や、ファインダー倍率0.8倍/369万ドットの高倍率EVFを搭載。カメラの軍艦部には、ISO感度/シャッタースピード/露出補正をコントロールする3つのダイヤルを搭載。操作感を最適化したことで、従来機より小型/軽量化した557gのコンパクトボディの実現と操作性の高さを両立した一台。
GFX100 II
圧倒的な画質とシステム機動性に加え、新たに高速性能と動画性能を手に入れたGFXシリーズのフラッグシップモデル。アルゴリズムの改良により進化した顔・瞳AFに加え、動物・鳥・車・バイク・自転車・飛行機・電車・昆虫・ドローンを検出する。高速連写性能も進化し、従来のGFXシリーズでは撮影が難しかったスポーツ分野においても決定的瞬間を逃すことなく力を発揮してくれる。忠実な色再現性とメリハリのある階調表現を持ち合わせた「REALA ACE(リアラエース)」が加わり、フィルムシミュレーションも全20種にパワーアップ。