映画の主人公になれない私は/ぽんずのみちくさ Vol.13
インテリアやDIYが好きだ。休日をすべて雑貨屋巡りに費やしていた時期もあったし、この春、自粛生活を送っているあいだも、壁紙の張り替えや部屋の模様替えに勤しんでいた。
そんな話をすると、「豊かでていねいな暮らしが好きなのね」という反応をもらうことが多い。「映える部屋を目指している」と思われることもある。
しかし実のところ、私の心のうちは正反対で、私がインテリアにハマる時期というのは決まって「生活がしんどくてたまらない」ときなのだ。
インテリアのおもしろさに目覚めた社会人3年目の春。私は半ば自暴自棄だった。いろんなことがあって、たいへん疲れていた。給料が振り込まれても、欲しいものがない。したいこともない。休日、友人に会う気力も残ってない。東京に出てきて以降、服もコスメも、いつも誰かの目を気にしながら選んでいた。この年齢で、このピンクを着るのはアリか。このスカート丈はナシか。さて、このブランドのバッグは…?
いつも誰かに採点されてるような気がしていた。いつしか褒め言葉さえ嬉しくなくなっていた。目に見えない「社会的にセーフ・アウト」のラインをいつも探っていた。茨木のり子よごめんなさい、私は自分の感受性さえ守れない "ばかもの" です。
だけど、インテリアなら。誰の視線にも晒されない。誰からもジャッジされない。毎日、"20代女性会社員" に擬態している私も、自分の部屋なら好き勝手なことができる。
賃貸だからできることは限られているように思っていたけど、いざ検索してみれば、あるわあるわ。剥がせるタイプの壁紙に、木目風の床板、壁が傷つかない釘。インテリアにも使えるマスキングテープ。制限の厳しい賃貸アパートでも、トータルで2万円もあれば部屋をまるごと変身させられる。すごいぞ、現代日本。企業努力に感謝した。
まずは、部屋の壁を水色にしてみた。「部屋の壁とは白いものである」という自分の中の固定観念を、自分の手で崩せたことが嬉しかった。茶色い窓枠は、マスキングテープをぺたぺた貼って白くした。ありふれた窓枠が、いつか映画で見たパリのアパルトマンにちょっぴり近づいた。
映画の主人公にはなれない。でも、映画みたいな部屋に住むことはできる。しかも、けっこうお手軽に。蛍光灯を消して、キャンドルを炊いて、「LA LA LAND」の曲をかけて。「イタい」なんて誰にも言わせない。だって誰も見てないんだもの。
誰の目も気にせずに生きられたらいいけど、実際問題、気になっちゃうから。誰の目も届かない場所に、私は自分のお城をつくる。自分だけのお城があると思うと、外の世界のしんどいあれやこれやから、ちょっとだけ心は守られる。
ぽんず(片渕ゆり)
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。