haru wagnus
写真家、プロダクトデザイナー 埼玉県出身。人物・ファッション・トラベル・アート写真を得意とし、数多くの広告撮影を行う。2020年、Samsung GalaxyのWorld Photography Dayにて世界の7名のフォトグラファーに任命されるなど、その活躍は多岐にわたる。
愛用カメラ:Leica M10-P、Sony α7R Ⅲ、Hasselblad 500C/Mなど
愛用レンズ:Leica Summilux 35mm F1.4 2nd、Carl Zeiss Ultron 50mm F1.8など
構図の美学
主題ではない"空間"に見る側の想像が宿る
幼少期はロンドンで過ごし、それが感性の根源となっているというharuさん。
「僕は写真で、空想と現実を織り交ぜたストーリーを描いています。なかでも人を撮るときに一番に描きたいのは、その人を主人公とした物語。でも撮っただけでは中途半端なままなんです。写真をSNSや展示などで発表することで、それを見た人が何かを感じ、個々にストーリーを想像してくれる。それで完成されていくと思っています。映画のように具体的なシナリオがあればストーリーを共有しやすいですが、写真だけでは難しい。でも、見る人それぞれが想像できる“隙間”がスチール写真にはあって、それが良さなのではないかなと思っています。見る側の想像がより宿りやすい構図で撮る、これが僕にとっての美学です」。
“隙間”や“ずれ”が生み出すストーリーがある
「躍動感ある瞬間を撮りたかったので、駆けてきたモデルの脚の開き具合もベストだったこの一瞬を切り取りました。モデルを右に、太陽光で輝く滝の水を左の空間に入るように構図を決定。60年代のLeica Summilux 35mm F1.4のレンズ開放で撮ることで、ハイライト部分にフレアがかり、白いワンピースや光に当たる水しぶきも光って写ったのがポイント。一瞬のように終わる、記憶の中の“夏休みのワンシーン”です」。
上下反転構図が醸し出す異世界感と幻想的な物語
「浜辺の水たまりで線香花火をしてもらい、水のリフレクション(反射)にモデルを均等に写すことで、モデル本人・線香花火・モデルの反射している姿を三分割で見せる写真にしています。浜辺の水面すれすれにカメラを構え、上下反転の構図はしっかり事前に決めて撮影しました。水たまりの中の砂や、そこに映った夕日が宇宙を連想させるような作品に」。
haru wagnusワールドにみる基本構図
写真にはいくつかの基本構図があります。「今ではあまり頭でっかちに考えることはしない」というharuさんですが、初心者ならばまずはここから。意識して撮影するだけで、写真のクオリティが格段にアップすること間違いなしです。基本構図の中でも、haruさんがよく撮る4つの構図を教えてもらいました。
1.左右対称構図
「鏡に映したように対称になる左右対称構図。2人のモデルにカメラに向かって水面を同時に蹴ってもらうことで、青春のような楽しさとワクワク感を感じてもらえる写真になりました。水しぶきをキラキラと立体的にすることにこだわり、あえてサイド光でわずかに陰影を出しました。絞りをF2.8くらいでピントを調節して、モデルの顔をボカしてマニュアルで撮影しています」。
2.三角構図
「正面のモデル2人と、上部センター位置に少しボカした五重塔を配置することで三角構図をとった作品。手前のストーリー感と、このロケーションなりの奥行きや特徴がしっかり出ました。少しムーディーさを出すために、Kenkoのフィルター・ブラックミストNo.1を付けて撮影したので、ソフトフォーカスでドリーミーな仕上がりに」。
3.放射線構図
「放射線構図とは、ある一点から複数の線が放射状に伸びていく構図のこと。まっすぐ続く仲見世通りの中央にモデルを配置したことで自然な放射線構図になり、奥行き感が生まれました。モデルにゆっくりセンターを歩きながら、自然とお店に顔を向けてもらったことで、見る人も自身が観光することをイメージしやすい瞬間が撮影できたと思います」。
4.三分割構図
「画面を縦横ともに三分割し、その交点に見せたいものを配置するテクニック。これは少しずらしたもので、女性の手元と花火を右端に据えて、スローシャッターで真ん中の方へカメラを素早くブラしてストロボ撮影しています。左方向に光が流れるように写し、その空間に何があるのかを見る側に想像させる構図を意識しています」。
haruさんへ質問
Q1.構図や背景は、どのように決めていますか?
「撮る瞬間に常に感覚的に意識しているのは、真ん中に被写体を収めてしまう日の丸構図になり過ぎないようにすることです。被写体を微妙に横にずらして“間”を入れる“ずらしの美学”、そして空間にストーリーを想像してもらえるような“隙間の美学”を意識しています」。
Q2.“ずらしの美学” “隙間の美学”について、具体的に教えてください。
「主となる被写体には写す側の思念が、そして主題ではない空間には見る側の想像性が宿ると考えています。主題が写っていない空間や景色だからこそ、空気感や思いなどを想像する余地ができると思うんです。それが、“隙間の美学”。見たときに物語を空想できる写真が好きなので、被写体だけを見せるような一方通行の構図ではなく、想像してもらえるような間を意識し、背景や主題をずらした構図で撮ることも。これが“ずらしの美学”です」。
Q3.ポートレート撮影におすすめのレンズ教えてください。
「基本的に、ロケーション主体の写真を撮りたいときは35mm~40mmのレンズ。人の表情を主題として捉えたいときは50mmで明るい(F1.8以下の)レンズで、ボケ感なども意識して使い分けるようにしています」。
Q4.人を撮るときのテーマはなんですか?
「一番描きたいのは、その人を主人公とした物語です。その人の表情や可愛らしさや魅力を伝える、というよりは、映画やミュージックビデオの断片の主人公を撮るかのような感覚で撮影をしていて、必ずしも人=顔だけではなく、顔が見えずとも、仕草や空気感から醸し出される情緒で、私の写したい世界の中に存在する主人公として描写しています。デジタルなものが溢れる世界で、人間とはアナログな生命だという意識が強く、古いレンズやフィルムでの描写を好んでいます。クリアできれいよりも、曖昧ではっきりしないけど心に響く、というものを人に届けたいと思って作品を作り続けています」。
本来は「点」である写真にも、音楽のような「流れ」を描きたい
「マカオのカフェで店内に西日が差し込んできた夕刻、窓際の席の光が美しかったので、ヴィンテージレンズ特有のフレアを入れ込んで撮影。左にモデル、中央の窓からは光の差し込み、右には店内の椅子と窓から見える外の景色と、構図は縦三分割で。店内の内装、アイスカフェラテ、モデルの仕草を光の輪に入れ込んで、映画のワンシーンのようにドラマチックに」。
「夕日がキラキラと映っている波打ち際を印象的に撮るべく、ローアングルで撮影しました。ピントはモデルに合わせて、中央から下までは、大胆に水面と砂から成る光の反射を入れて玉ボケを作り込みました。モデルも僕自身も動きながら止まらずに、写真を撮るというよりは映像を撮るようなイメージで、いいと思うシーンでシャッターを切っています」。
haruさんおすすめ 隙間を生かす3つの構図
上下分割構図
「縦長の写真は上下で見どころを作ることで、意外性やサプライズのある写真に仕上がります。とくにスマホで見るSNSの縦写真に向いている構図ですね。モデルには膝くらいまで海に入ってもらい、押し寄せる波すれすれのローアングルでダイナミックに撮影しました」。
左右分割構図
「左に波と水、右にモデルの足元という左右分割構図で撮影しました。波のラインで、砂浜が遠くまで続くことを描いた、奥行き感がある印象的な一枚です。大きな余白が、見る人の想像を掻き立てます」。
斜め切り構図
「濡れた浜辺に世界がリフレクションしていたので、反射世界側にいるモデルの姿を主人公として撮影しました。より別空間であるように印象付けたいときは、斜めに世界を切り取って撮影し、反転させると新しい世界感が作り出せます」。
Information
haruさんがプロダクトデザインを手掛けるウォッチブランド「4 Silent Birds」より、人気のカメラストラップシリーズ「STRIX」の新商品やレディース腕時計の最新作が、好評発売中。
GENIC VOL.59 【あの人の表現に近づく! ポートレート撮影Q&A】
Edit: izumi hashimoto
GENIC VOL.59
特集は「だから、人を撮る」。
最も身近にして最も難しい、変化する被写体「人」。撮り手と被写体の化学反応が、思ってもないシーンを生み出し、二度と撮れないそのときだけの一枚になる。かけがえのない一瞬を切り取るからこそ、“人"を撮った写真には、たくさんの想いが詰まっています。泣けて、笑えて、共感できる、たくさんの物語に出会ってください。普段、人を撮らない人も必ず人を撮りたくなる、人を撮る魅力に気づく、そんな特集を32ページ増でお届けします。