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プロフィール
AKIPIN
教育機関職員 1981年、京都府生まれ。2017年ころからInstagramで「妻のごはん」の投稿を始め、徐々に海外からも閲覧されるように。2020年、フォトエッセイ本『日日是好日』(北京総合出版)を中国で出版。雑誌やWEBメディアなどでコラム・エッセイの寄稿なども行っている。
自分のなかに根づく、普遍性を帯びた色再現が魅力
僕にとって写真とは、「命を写すもの」。その時、そこにいた人はもちろんなのですが、僕の場合はむしろ、作りかけのごはんや洗濯バサミに吊るされた靴下、描きかけの絵……そういったものにあらわれる人の”気配”にこそ、その人の存在感、すなわち命が、より一層浮き彫りになって見えると感じています。
僕は家の中で、妻がごはんを準備しているところや、妻が作ったごはんを撮るのが本当に大好きで、もっともよく撮る被写体です。フィクションではなく”そのまま”を撮りたいと思っていて、写真のためのセッティングは何もせず、妻の調理のリズムを崩さずに撮ることを大事にしています。妻もそのことを理解していて、写真のために料理の見栄えを良くしてみたり、写真のためにタイミングを合わせたりするようなことは考えていません。なので時には撮り損ねたり、ブレてしまったりすることもありますが、「撮れなかった」という事実も含めて、残したいリアルだと感じています。
僕と、富士フイルムのカメラとの出会いは8年前。
ある時SNSを眺めていると、一人のフォトグラファーの写真に目が留まりました。ちょうど子どもが生まれたころで、その時は違うメーカーの一眼レフを使っていたのですが、SNSで見た写真の、「渋みの中に生命力を感じる」と言いたくなるような色味に心惹かれました。その色味の基となっているのが、「フィルムシミュレーション」機能でした。僕が富士フイルムのカメラに惹かれたきっかけは、まさにフィルムシミュレーションだったのです。
それまでの自分は、カメラの色設定は「ナチュラル」や「ビビッド」など、限られた選択肢から選ぶもの、という認識でした。それが富士フイルムのカメラには、かつてのフイルムの色を再現した色設定が多彩に搭載されている。他メーカーとまったく異なる発想にとても惹かれ、「自分も心にぐっと響くような色の写真が撮れるのではないか」と、なかば興奮しながら家電量販店に行ったのを覚えています。そして実際に富士フイルムのカメラを前にしたら、クラシックなフォルムとコンパクトなサイズ、上質な金属の質感…すべてが自分の琴線に触れ、「これが欲しい!!!」と一目見て惚れ、「X-T10」を購入しました。
以来、富士フイルムの「X-T30 II」、「X-T50」と使い続けていて、今もまったく飽きることがありません。幼いころから見てきた、自分のなかに根づいた色再現。時代に流されることのない普遍性を帯びた魅力が富士フイルムのカメラ、すなわちフィルムシミュレーションにはあると思っていて、この先も飽きることはないと思っています。
今回撮影で使ったカメラは、「X-T50」。じつは初めて使う機種だったのですが、X-T30 IIにはなかった「ノスタルジックネガ」と「リアラエース」がフィルムシミュレーションに新しく搭載されていて、これがまたすごく良かった。初めての機種というと新しい機能や性能に意識を奪われがちですが、それらを差し置いて、やっぱり、フィルムシミュレーションが素晴らしいと感じました。
メニューから呼び出さなくともダイヤルでフィルムシミュレーションを変更できる「フィルムシミュレーションダイヤル」も搭載されていて、これが本当に使いやすかったです。今までは、「今日はこれで撮ってみよう」「今日はこっちにしてみよう」というように、”今日”単位の気持ちで、フィルムシミュレーションを変更していましたが、ダイヤルがあることによって、「今はこっち」「次はこれで」というように、”今”単位で瞬時に変更できるようになりました。変更頻度が上がったことで、今まで自分のなかでなかなか出番がなかった種類のフィルムシミュレーションを使う機会が生まれました。それによる新しい発見も多く、撮ること自体もぐっと楽しくなりました。
フィルムシミュレーションを使って撮った写真は、記録の写真ではなく、それだけで”作品”と言いたくなるようなものになると感じています。あるいは、記録ではなく”記憶”につながるような写真になっているな、と。それって本当に魅力的なことで、まるで魔法のようだとすら感じますね。
My favorite フィルムシミュレーション
1:クラシッククローム
僕のなかでベースとなるフィルムシミュレーションが「クラシッククローム」です。多種あるなかでも、「クラシッククローム」は渋い色味ですが、今では僕にとっての標準色のような存在。自分が歳を重ねるにつれて、「世界をポジティブにもネガティブにも捉えず、一歩引いた目で見るようになった」ことが、クラシッククロームに自分がフィットし、標準的な色として感じるようになった理由かもしれません。
世界から意味を与えてもらうのではなく、自分自身が世界に意味をつけていけるような生き方をしたいとも、フィルムシミュレーションを通して感じるようになりました。標準色を持つことで、色を編集する際に、自分の好みの色味に調整しやすいという利点があります。クラシッククロームは、自分が好きなように世界を描くことができる色だと言えるかもしれません。
2:ノスタルジックネガ
次いで好きなフィルムシミュレーションが「ノスタルジックネガ」です。色温度が高く、被写体からぬくもりを引き出す効果があると感じています。被写体が秘めている暖かみを浮き彫りにすることができ、人物ならより優しく、ごはんならより美味しそうに、何てこともないと思っていた風景さえも懐かしい感じに見せてくれます。
また、ノスタルジックネガはフィルムカメラで撮っていたころの描写にもっとも近いと感じています。先日、紅茶のカップを手にこちらを見ている妻を撮ったのですが、その瞬間、不意に22年前、行きつけのカフェで当時まだ彼女だった妻がこちらを見て笑っていたシーンを思い出しました。今回撮った写真も、20年後にまた思い出すかもしれません。
ちなみに、子どもを撮りたい時は「アスティア」を使うことも多いです。とくに運動会などで、子どもたちを含む全体の風景が明るく優しい雰囲気になります。先日、友人と小旅行に出かけた時は「クラシックネガ」を使いました。その渋さが、被写体となってくれた友人にも「オレ、めっちゃかっこいいやん!」と好評でした(笑)。
AKIPINさんが愛するフィルムシミュレーションの特徴
1:クラシッククロームとは?
20世紀のグラフジャーナル誌に使われた写真のような色再現を目指したフィルムシミュレーション。彩度は低め、暗部の諧調は硬めに設計されており、ドキュメンタリータッチでリアリズムを求める写真を撮る際などに最適です。
2:ノスタルジックネガとは?
1970年代、カラー写真を芸術として定着させた「アメリカンニューカラー」の代表作を想起させる色再現を特徴とします。ハイライト部を柔らかくアンバーに描写する一方で、シャドウ部も色乗りの良さでディテールを残します。
AKIPINさんが使用したカメラ
X-T50
軍艦部に「フィルムシミュレーションダイヤル」を新規搭載し、フィルムシミュレーションの選択がかつてないほど直感的に。ダイヤルを回すだけで最新の「REALA ACE」を含む、20種類のフィルムシミュレーションモードから選ぶことができる。表示倍率0.62倍で269万ドットの電子ビューファインダーは高い視認性に加え、色彩や明るさが調整されているので、仕上がりを確認しながらの撮影が可能。また、クラシカルなフィルムカメラを彷彿とさせるX-Tシリーズのデザインを継承しながらも、わずか438gへと軽量化(バッテリー・メモリーカード含む)。洗練されたデザインとボディのコンパクトさも相まって、持つ喜びを感じられる、どこへでも持ち歩ける理想的なカメラ。