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色に恋して。デジタル写真をフィルム風に「FUJIFILM フィルムシミュレーションの魅力」vol.3 AKIPIN

デジタルカメラで撮影した写真を、フィルム写真のようなカラーに。そんな夢のような機能が、富士フイルムのデジタルカメラに搭載されています。その名も「フィルムシミュレーション」。フィルムを交換するような感覚で色再現を楽しめる機能で、その数なんと20種類。フィルム時代から90年以上にわたり、色の表現を研究してきた富士フイルムだからこそ作れる機能です。

「Xシリーズ」「GFXシリーズ」すべての機種で使用できるとあって、この機能に恋して、富士フイルムのデジタルカメラを愛用し続ける写真愛好家やフォトグラファーも多数。

そこで、本連載では「フィルムシミュレーション」の魅力を、全12回にわたってお届け。毎回1名のクリエイターがお気に入りのフィルムシミュレーションで撮影した作品とともにその魅力を語ります。

第3回は、SNSで発信する「妻のごはん」で人気を博すAKIPINさん。富士フイルムのX-Tシリーズの最新機種「X-T50」で撮影した作品とともに、富士フイルムのカメラに対する愛と、お気に入りのフィルムシミュレーションについて紹介します。

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目次

自分のなかに根づく、普遍性を帯びた色再現が魅力

僕にとって写真とは、「命を写すもの」。その時、そこにいた人はもちろんなのですが、僕の場合はむしろ、作りかけのごはんや洗濯バサミに吊るされた靴下、描きかけの絵……そういったものにあらわれる人の”気配”にこそ、その人の存在感、すなわち命が、より一層浮き彫りになって見えると感じています。

camera:X-T50 lens:XF50mmF2 R WR
フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
「母の日に、娘がサプライズで妻に贈ったものです。折り紙で作ったもので、2つ折りになっていて、開くと立体的に飛び出す仕掛けになっています。折り紙の本なのかYouTubeなのか、何かで作り方を独学し、妻に内緒で作り、夕食の時に渡していました。『お母さんいつもありがとう』という言葉にも、娘の優しい心を感じました。ノスタルジックネガの暖かな色味によって、娘が伝えたかった妻への思いが一層引き立っていると感じます」。

僕は家の中で、妻がごはんを準備しているところや、妻が作ったごはんを撮るのが本当に大好きで、もっともよく撮る被写体です。フィクションではなく”そのまま”を撮りたいと思っていて、写真のためのセッティングは何もせず、妻の調理のリズムを崩さずに撮ることを大事にしています。妻もそのことを理解していて、写真のために料理の見栄えを良くしてみたり、写真のためにタイミングを合わせたりするようなことは考えていません。なので時には撮り損ねたり、ブレてしまったりすることもありますが、「撮れなかった」という事実も含めて、残したいリアルだと感じています。

camera:X-T50 lens:XF50mmF2 R WR
フィルムシミュレーション:クラシッククローム
「昼ごはんの時に妻が味噌汁をよそってくれた写真です。大人用と子ども用のお椀が並んでいますが、この写真を撮ったあとすぐに子ども用のお椀を卒業し、大人と同じお椀に変えました。うれしくもさみしくもある娘の成長…。娘は今小学4年生なのですが、子どもと一緒に暮らすことの貴重な時間を、この写真から改めて感じます。この時の家族の形が記録されている1枚。クラシッククロームのおかげで、お椀の赤みや味噌の濃度が感じられる色味もしっかりと残っています」。

僕と、富士フイルムのカメラとの出会いは8年前。

ある時SNSを眺めていると、一人のフォトグラファーの写真に目が留まりました。ちょうど子どもが生まれたころで、その時は違うメーカーの一眼レフを使っていたのですが、SNSで見た写真の、「渋みの中に生命力を感じる」と言いたくなるような色味に心惹かれました。その色味の基となっているのが、「フィルムシミュレーション」機能でした。僕が富士フイルムのカメラに惹かれたきっかけは、まさにフィルムシミュレーションだったのです。

それまでの自分は、カメラの色設定は「ナチュラル」や「ビビッド」など、限られた選択肢から選ぶもの、という認識でした。それが富士フイルムのカメラには、かつてのフイルムの色を再現した色設定が多彩に搭載されている。他メーカーとまったく異なる発想にとても惹かれ、「自分も心にぐっと響くような色の写真が撮れるのではないか」と、なかば興奮しながら家電量販店に行ったのを覚えています。そして実際に富士フイルムのカメラを前にしたら、クラシックなフォルムとコンパクトなサイズ、上質な金属の質感…すべてが自分の琴線に触れ、「これが欲しい!!!」と一目見て惚れ、「X-T10」を購入しました。

以来、富士フイルムの「X-T30 II」、「X-T50」と使い続けていて、今もまったく飽きることがありません。幼いころから見てきた、自分のなかに根づいた色再現。時代に流されることのない普遍性を帯びた魅力が富士フイルムのカメラ、すなわちフィルムシミュレーションにはあると思っていて、この先も飽きることはないと思っています。

camera:X-T50 lens:XF50mmF2 R WR
フィルムシミュレーション:クラシッククローム
「妻が水やりをした直後の庭の花。葉っぱと花に水の雫が残っていて、それがきれいだと思って撮ったのですが、クラシッククロームで撮ると、この色味が予想以上に本当にきれいで、しっとりと、艶かしさすらともなう質感のある写真が出来上がりました。何気なく撮ったのですが、思わず見とれてしまうほどで…。こんな風に魅力を引き立たせてくれるフィルムシミュレーションの力を強く感じます。草花を撮るのもいいですね」。

今回撮影で使ったカメラは、「X-T50」。じつは初めて使う機種だったのですが、X-T30 IIにはなかった「ノスタルジックネガ」と「リアラエース」がフィルムシミュレーションに新しく搭載されていて、これがまたすごく良かった。初めての機種というと新しい機能や性能に意識を奪われがちですが、それらを差し置いて、やっぱり、フィルムシミュレーションが素晴らしいと感じました。

メニューから呼び出さなくともダイヤルでフィルムシミュレーションを変更できる「フィルムシミュレーションダイヤル」も搭載されていて、これが本当に使いやすかったです。今までは、「今日はこれで撮ってみよう」「今日はこっちにしてみよう」というように、”今日”単位の気持ちで、フィルムシミュレーションを変更していましたが、ダイヤルがあることによって、「今はこっち」「次はこれで」というように、”今”単位で瞬時に変更できるようになりました。変更頻度が上がったことで、今まで自分のなかでなかなか出番がなかった種類のフィルムシミュレーションを使う機会が生まれました。それによる新しい発見も多く、撮ること自体もぐっと楽しくなりました。

camera:X-T50 lens:XF50mmF2 R WR
フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
「蓋をする前に、お弁当箱に詰めたごはんとおかずを冷ましているところ。娘の習い事に向かう車中で食べるお弁当で、妻が冷蔵庫にあった卵やウインナーに火を通して詰めただけ、という飾り気のないお弁当ですが、習い事がある毎土曜日にお弁当を用意してくれるという日常も、いずれ懐かしく思い出す日々の一コマになるのだろうなぁとしみじみ。そうした自身の郷愁のような感情を、ノスタルジックネガが素敵に表現してくれました」。

フィルムシミュレーションを使って撮った写真は、記録の写真ではなく、それだけで”作品”と言いたくなるようなものになると感じています。あるいは、記録ではなく”記憶”につながるような写真になっているな、と。それって本当に魅力的なことで、まるで魔法のようだとすら感じますね。

My favorite フィルムシミュレーション

1:クラシッククローム

僕のなかでベースとなるフィルムシミュレーションが「クラシッククローム」です。多種あるなかでも、「クラシッククローム」は渋い色味ですが、今では僕にとっての標準色のような存在。自分が歳を重ねるにつれて、「世界をポジティブにもネガティブにも捉えず、一歩引いた目で見るようになった」ことが、クラシッククロームに自分がフィットし、標準的な色として感じるようになった理由かもしれません。

世界から意味を与えてもらうのではなく、自分自身が世界に意味をつけていけるような生き方をしたいとも、フィルムシミュレーションを通して感じるようになりました。標準色を持つことで、色を編集する際に、自分の好みの色味に調整しやすいという利点があります。クラシッククロームは、自分が好きなように世界を描くことができる色だと言えるかもしれません。

camera:X-T50 lens:XF50mmF2 R WR
フィルムシミュレーション:クラシッククローム
「ある休日に妻が張り切って用意した、ボリュームのある、そして普段の平日以上にきれいに整えて用意してくれた朝ごはんです。3人分のお皿がしっかりと写っていて、この3人で生活して食べている朝ごはんということが伝わります。クラシッククロームのコントラストが、全体的に”まぶしい”感じを引き立てていて、それは僕がこの食卓に感じていた思いとリンクしていると感じました。家族3人で囲むこの食卓が、僕には最高すぎて幸せすぎて、でもいつまでもあるわけではなくて、まぶしい存在です」。

camera:X-T50 lens:XF50mmF2 R WR
フィルムシミュレーション:クラシッククローム
「妻が買ってきたスイカを台所のカウンターで切っているところを見かけ、カウンター越しに、腕を伸ばしてカメラを高く構えて、撮りました。チルト式液晶モニターを手前の方に引いて、モニターを見ながら撮ったものです。普段の目線では見ることができない角度から撮れるので、新しい美しさを発見できます。同時に、日常にはそういうことがたくさんあるんだということを、この写真は教えてくれます。クラシッククロームによってスイカの赤味が際立ち、より甘くて美味しそうになりました」。

2:ノスタルジックネガ

次いで好きなフィルムシミュレーションが「ノスタルジックネガ」です。色温度が高く、被写体からぬくもりを引き出す効果があると感じています。被写体が秘めている暖かみを浮き彫りにすることができ、人物ならより優しく、ごはんならより美味しそうに、何てこともないと思っていた風景さえも懐かしい感じに見せてくれます。

また、ノスタルジックネガはフィルムカメラで撮っていたころの描写にもっとも近いと感じています。先日、紅茶のカップを手にこちらを見ている妻を撮ったのですが、その瞬間、不意に22年前、行きつけのカフェで当時まだ彼女だった妻がこちらを見て笑っていたシーンを思い出しました。今回撮った写真も、20年後にまた思い出すかもしれません。

camera:X-T50 lens:XF50mmF2 R WR
フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
「朝ごはんを娘がトレーに載せて、台所から食卓へ運んでいる時の写真です。最近、娘はお母さんの手伝いを積極的にするようになり、よくこのように運んでくれます。おそらく休日だったと思いますが、娘はまだパジャマ姿なことがわかります。『ごはんができたよー!』という声で娘は布団から起き出し、起きるやいなや、写真のように運んでくれている。成長し、お手伝いをするしっかり者の姿と、ギリギリまで寝ているまだまだ子どもらしいところの両面が写っていて、気に入った写真です。ノスタルジックネガの暖かい色味が娘の肌や料理の温もり感を際立たせていて、いい雰囲気になりました」。

camera:X-T50 lens:XF50mmF2 R WR
フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
「洗った野菜を一時的にザルにあげておいていた時のシーンです。次の瞬間にはパッと妻が持っていってしまう、わずかなタイミングに撮った写真です。実際、この写真には手前に妻の腕がボケながら写り込んでいます。また、野菜が置かれている場所は食器の水切りかごなのですが、そこに野菜を置いていることに生活感が感じられて好きです。ノスタルジックネガによる温かい雰囲気が、生活の味わいをいっそう引き立たせているなと思います」。

ちなみに、子どもを撮りたい時は「アスティア」を使うことも多いです。とくに運動会などで、子どもたちを含む全体の風景が明るく優しい雰囲気になります。先日、友人と小旅行に出かけた時は「クラシックネガ」を使いました。その渋さが、被写体となってくれた友人にも「オレ、めっちゃかっこいいやん!」と好評でした(笑)。

AKIPINさんが愛するフィルムシミュレーションの特徴

1:クラシッククロームとは?

20世紀のグラフジャーナル誌に使われた写真のような色再現を目指したフィルムシミュレーション。彩度は低め、暗部の諧調は硬めに設計されており、ドキュメンタリータッチでリアリズムを求める写真を撮る際などに最適です。

camera:X-T50 lens:XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS
フィルムシミュレーション:クラッシッククローム
「ある日のお昼ごはん。この時は緑色の存在感、美しさが印象的でした。おにぎりのそばに載っている山椒の葉っぱと白い小鉢に載っている茎ブロッコリーはとくに印象的で、どちらも見るとよみがえる光景や思いもあります。白いおにぎりやキャベツの上に載って、緑色が際立っている。そこに緑を載せる妻の美的感覚も感じられて、いい光景だなあと思います。クラシッククロームによって、野菜や卵焼きが過度に誇張されることもなく、全体的に美味しそうに感じられる色味になっているのもお気に入りのポイントです」。

2:ノスタルジックネガとは?

1970年代、カラー写真を芸術として定着させた「アメリカンニューカラー」の代表作を想起させる色再現を特徴とします。ハイライト部を柔らかくアンバーに描写する一方で、シャドウ部も色乗りの良さでディテールを残します。

camera:X-T50 lens:XF50mmF2 R WR
フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
「フライパンで炒めていたズッキーニを裏返した瞬間の写真です。焦げ目が本当に美味しそうで食欲をそそられて、『うーわ!』と言いながら、フライパンの熱気や油が飛び跳ねるような至近距離まで近づいて撮りました。焦げ目が人間では作り出せない、それぞれ異なる模様をしていて、意図して作れるものではない美しさがあります。ノスタルジックネガを使ったことも相まって、ズッキーニの果肉部分の黄色みが引き立たち、いっそう美味しそうだなあと感じられます」。

AKIPIN

教育機関職員 1981年、京都府生まれ。2017年ころからInstagramで「妻のごはん」の投稿を始め、徐々に海外からも閲覧されるように。2020年、フォトエッセイ本『日日是好日』(北京総合出版)を中国で出版。雑誌やWEBメディアなどでコラム・エッセイの寄稿なども行っている。

AKIPIN Instagram
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AKIPINさんが使用したカメラ

X-T50

軍艦部に「フィルムシミュレーションダイヤル」を新規搭載し、フィルムシミュレーションの選択がかつてないほど直感的に。ダイヤルを回すだけで最新の「REALA ACE」を含む、20種類のフィルムシミュレーションモードから選ぶことができる。表示倍率0.62倍で269万ドットの電子ビューファインダーは高い視認性に加え、色彩や明るさが調整されているので、仕上がりを確認しながらの撮影が可能。また、クラシカルなフィルムカメラを彷彿とさせるX-Tシリーズのデザインを継承しながらも、わずか438gへと軽量化(バッテリー・メモリーカード含む)。洗練されたデザインとボディのコンパクトさも相まって、持つ喜びを感じられる、どこへでも持ち歩ける理想的なカメラ。

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