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色に恋して。デジタル写真をフィルム風に 「FUJIFILM フィルムシミュレーションの魅力」vol.2 土居夏実

デジタルカメラで撮影した写真を、フィルム写真のようなカラーに。そんな夢のような機能が、富士フイルムのデジタルカメラに搭載されています。その名も「フィルムシミュレーション」。フィルムを交換するような感覚で色再現を楽しめる機能で、その数なんと20種類。フィルム時代から90年以上にわたり、色の表現を研究してきた富士フイルムだからこそ作れる機能です。

「Xシリーズ」「GFXシリーズ」すべての機種で使用できるとあって、この機能に恋して、富士フイルムのデジタルカメラを愛用し続ける写真愛好家やフォトグラファーも多数。

そこで、本連載では「フィルムシミュレーション」の魅力を、全12回にわたってお届け。毎回1名のクリエイターがお気に入りのフィルムシミュレーションで撮影した作品とともにその魅力を語ります。

第2回は、写真家の土居夏実さん。愛機「FUJIFILM GFX50S II」とGFXシリーズの最新機種「FUJIFILM GFX100 II」で撮影した作品とともに、富士フイルムのカメラに対する愛と、お気に入りのフィルムシミュレーションについて紹介します。

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目次

映画のワンシーンのような1コマが撮れる

私にとって写真は、“自分のために、自分と向き合うためのもの”。写真を撮る理由はいつも、友達と見た美しい景色を忘れたくないだったり、旦那さんとの写真がほしいだったり——。自分のために撮っているのです。自分のために撮った写真を後から見返すことも好きで、そのときの記憶や感情が思い出されて、過去の自分と向き合っている気持ちになります。同時に、写真を撮ること自体も好きなので、写真は自分が楽しむためのツールでもあります。

camera:FUJIFILM GFX100 II、lens: GF55mmF1.7 R WR
フィルムシミュレーション:クラシックネガ
「セルフタイマーをセットして撮影しました。自宅の縁側で、作っていたレモンシロップを炭酸水で割って、夫と味見をしました。この日は暑いくらいの気温でしたが、外から吹く風が涼しい日でした。夏が待ち遠しくなって、少し早いですが風鈴を飾りました。窓の外の新緑が玉ボケになり、キラキラしているところがお気に入り。また、フィルムシミュレーションのクラシックネガにより、新緑の緑や畳のオレンジ色が強くなりすぎず、暗い部分もフェードがかかったような感じになっていて、懐かしい感じに表現できました」。

富士フイルムのカメラとの出会いは4年前、「X-T10」を譲っていただいたのが始まりです。ただそのころはまだ、旅行など身軽な装備で行きたいときの使用に留まっていた感じ。それが半年前に、以前から気になっていたGFX50S IIとレンズキットを購入してからは、何気ない風景も絵になるGFXシリーズの虜になっています。

そもそも中判カメラに興味があって、ただレンズを全て買い直す金額面の問題や、操作感が変わってしまうことへの迷いがあり、なかなか一歩が踏み出せずにいました。そんなとき、カメラ友達がGFX50S IIを持っていたことに背中を押されて、購入に踏み切りました。

とにかく、買って正解!思い切って手に入れたGFX50S IIがきっかけでしっかりカメラと向き合うようになったし、フィルムシミュレーションによって、ファインダーを覗いた瞬間から私が好きなフィルムの色が写し出されることもあって、撮影がより楽しくなりました。私の父はフィルムカメラをたくさん持っていて、よくフィルム写真を撮影していました。父の写真を見てフィルム写真の色に魅了され、デジタルカメラでもフィルムらしい色で表現できたらいいのにとよく思っていたのですが、富士フイルムのカメラはまさにそれが叶うカメラです。

また、GFX50S IIのボケの美しさにも感動しました。玉ボケが美しく、背景も滑らかにボケて立体感を演出してくれる。本当にクオリティが高くて、背景も完全に溶けて消えてしまうのではなく、違和感のない自然な背景として被写体を際立たせてくれる。まるで映画のワンシーンのような1枚になるのです。

camera:FUJIFILM GFX100 II、lens: GF80mmF1.7 R WR
フィルムシミュレーション:クラシックネガ
「朝日を見にいったときに、おじいさんが犬を連れてきており、撮影させてもらいました。12歳の黒柴のあすかくん。もとの飼い主さんはご高齢で亡くなり、近所に暮らすみんなで面倒を見ているそうで、『飼い主のおじいちゃんの帰りを待っているのかもしれないね』と話してくれました。あすかくんの足元には、たんぽぽのつぼみが寄り添うように生えていました。老犬と今まさに咲こうとしているたんぽぽの対比に惹かれシャッターを切りました。草に朝露がついていて、移ろう自然の生命も感じました。クラシックネガの低彩度な色味が、どこか寂しそうな雰囲気を表現してくれました」。

camera:FUJIFILM GFX100 II、lens: GF55mmF1.7 R WR
フィルムシミュレーション:クラシックネガ
「夫と島に遊びに行ったときに撮った1枚。初夏を感じる日、木陰でソーダを飲む彼に落ちた木漏れ日の美しさに惹かれてカメラを向けました。フィルムシミュレーションをクラシックネガに設定して撮影したのですが、シャツに落ちた木漏れ日が、まるで本当にフィルム写真のようにピンク色やオレンジ色に滲んでいることに感動しました。また影の部分は少し水色に写っており、涼しげな感じも表現してくれています」。

富士フイルムのカメラが表現する色のなかでも、とくに緑と黒の色が好みで、花畑など植物を撮ることがより一層楽しくなりました。以前は色や黒くつぶれてしまうような影の部分をレタッチすることがよくありました。それが富士フイルムのカメラを使うようになってからは、フィルムシミュレーションが私好みの色にしてくれるし、シルエットでさえも真っ黒にはならず立体感を演出してくれるため、調整はカメラ内で基本完結し、撮って出しで充分満足できるようになりました。

camera:FUJIFILM GFX100 II、lens: GF80mmF1.7 R WR
フィルムシミュレーション:クラシックネガ
「地元の山の展望台に、1本だけ大きな榎の木が生えています。本当に大きな木で、長い年月をかけて伸びたであろう枝が無数に広がっており、その力強さと生命力に、何度見ても感動します。この写真は早朝に撮影をしたもので、朝の光に照らされて木の枝が黒くシルエットになり、その前に新緑が玉ボケになって写っている。光が当たっているところの描写も滲んでいるように見えて、本当に美しいです。また、クラシックネガは黒色に特徴があり、それがフィルム写真感をより演出してくれるのが、お気に入りのポイントです」。

本当に色や描写が素晴らしくて、GFX50S IIにしてからすべてのお出かけに連れて行きたいと思うようになりました。まだ購入して半年ということもあり、いつもの風景も遠方へのお出かけも、どんなふうに写し出してくれるかわくわくしています。

今回の撮影では、ほとんどの写真を初めて使うFUJIFILM GFX100 IIで撮影しましたが、画質の高さに驚きました。どんなに拡大してもノイズを感じさせない美しさ。低感度がISO80まであり、日中の眩しい時間でも絞り開放での撮影ができるのも嬉しかったです。それにより、ピントが合っているところはもちろん、ボケの部分まで美しく表現することができました。

My favorite フィルムシミュレーション

1:クラシックネガ

フィルムシミュレーションの魅力の一つに、種類の豊富さがあると思います。撮影シーンやそのときどきの空の色などによっても使い分けができますし、同じ景色でもフィルムシミュレーションを変えることで雰囲気が違う写真が撮れる。撮影が本当に面白くなります。

数あるなかで、もっともお気に入りでよく使うフィルムシミュレーションが「クラシックネガ」。室内の撮影の際によく使用するのですが、外と室内で光の差があるとき、影やシルエットの黒い部分がくっきりと黒になることで、写真に締まりが出てメインの被写体を際立たせることができます。

camera:FUJIFILM GFX50S II、lens: GF35-70mmF4.5-5.6 WR
フィルムシミュレーション:クラシックネガ
「夕焼けの瀬戸内海とかすかに輝く三日月です。このときは潮が引いていて、砂浜に水溜りのように海水が残っている場所があり、そこに夕焼けが反射していました。雲の形も波のようで、空と海がつながっているような情景に強く惹かれました。前日に雨が降ったせいか、空気が澄んでいて夕焼けが美しく、そのグラデーションも見事に表現されており、感動しました。夕焼けのオレンジ色も落ち着いた色味になっており、主張したかった三日月に目が行くと感じます」。

また、クラッシクネガは緑の多い場所や曇り、雨の日にも使用することが多いです。クラシックネガの色は雨や曇りの日にもすごく合っていると感じていて、しっとりした雰囲気をつくり出せます。今まで雨や曇りの日に撮影したいと思うことが少なかったのですが、クラシックネガと出会ってから、雨の日の光も好きになりました。

プリセットで色表現に微調整を加え、より自分好みの色をつくり出すこともあります。クラシックネガ自体が少し紫色かぶりなので、ホワイトバランスを緑色に寄せて撮影したり、低彩度でもあるため少し彩度を高めつつ、やわらかい印象をキープできるよう、明瞭度をやや下げて撮影することもあります。

camera:FUJIFILM GFX100 II、lens: GF55mmF1.7 R WR
フィルムシミュレーション:クラシックネガ
「霧が出ていた雨の日。霧が遠くの山に濃淡をつけ、雨に濡れた森は深い緑色で、幻想的な景色が広がっていました。自然の中に電柱や民家が見え隠れしている、自然と人工物の対比にも惹かれました。しっとりとした雨の日の山を私好みの色で、水彩画のように表現してくれました。クラシックネガは落ち着いた色味になるので、雨や曇りの日にも適していると感じます。雲で真っ白だった空も、白飛びせず雲の重なりの色が表現できました」。

2:PROVIA/スタンダード

次いで好きなフィルムシミュレーションが、「PROVIA/スタンダード」です。PROVIAが写し出す青が好きで、夜空や夜景撮影などでよく使用します。自然な色味で、彩度が強くなりすぎることもなく、さまざまなシーンで使いやすいと感じています。暗い部分もしつこさがなく、明暗の差がある場所でも人物の肌色や、繊細な淡い色をきれいに表現してくれます。

camera:FUJIFILM GFX100 II、lens: GF80mmF1.7 R WR
フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
「曇りの日に公園で、シロツメクサを撮影していると蝶々が飛んできました。淡い緑に黒の蝶と白いシロツメクサがとても映えていて、惹かれました。この日は風が強く、蝶も飛び回るので距離を詰めることが難しかったのですが、カメラが瞬時にピントを合わせてくれたので助かりました。蝶の模様までくっきりと美しく写せ、きれいな新緑を、自然な色味で表現できたと思います。前後がボケていて、真ん中に目線が集まる構図で撮影しました」。

camera:FUJIFILM GFX50S II、lens: GF35-70mmF4.5-5.6 WR
フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
「夕方の砂浜にて、三脚を使ったセルフポートレートです。沈んでいく太陽の光が、波の模様が残る砂浜に反射して美しかった。光の道の中に自分のシルエットが入るように意識して撮影しました。海の青さや、オレンジになりかけた光の色が本当に自然に写せて感動しました。逆光での撮影ですが、砂浜やシルエットの黒い部分も程よく色が残っていて、フィルム感が出ていると思いました」。

フィルムシミュレーションは撮影後にかけることもできますが、私は撮る前に設定しておく派。レタッチの時間が格段に短くなるのはもちろん、撮影しながらその風景に合ったフィルムシミュレーションを選ぶことで、撮影がとても楽しくなるからです。また、RAW+JPEGで撮影すると、iPad版LightroomではRAWとJPEGを分けて保存することができないため、撮影時に設定した露出やフィルムシミュレーションなども結局あとがけになってしまうので、JPEGのみで撮影することが多いです。富士フイルムのカメラはJPEG撮って出しの写真で大満足!データ容量もRAWに比べて小さいので、たくさんシャッターを切りたいときでも重くならず、便利だと感じています。

土居夏実さんが愛するフィルムシミュレーションの特徴

1:クラシックネガとは?

スナップシューターに愛用されてきたネガフィルム「SUPERIA」がベース。メリハリのある諧調と、彩度を抑えつつも明部と暗部の色味を変えることで深みを増した色で、立体的な表現が得られます。

camera:FUJIFILM GFX100 II、lens: GF55mmF1.7 R WR
フィルムシミュレーション:クラシックネガ
「徳島の山中にある湿原に行ったときに、ピンク色のツツジが目に入り、撮影しました。湿原にあった八つ橋(木道)に、木漏れ日とツツジの花が落ちているところに惹かれました。ツツジの色をサーモンピンクに表現したいと思い、クラシックネガで撮影しました。落ち着いた緑色とピンクを相性良く撮影できました。クラシックネガの、派手な色の被写体に対する低彩度でフィルム風な描写がとても気に入っています」。

2:PROVIA/スタンダードとは?

プロ用のリバーサルフィルムのスタンダードタイプ「フジクローム・プロビア」がベース。多くの人が心地よく感じる色再現を追求し、風景から人物まで、あらゆる被写体に対応するオールマイティなフィルムシミュレーションです。

camera:FUJIFILM GFX100 II、lens: GF55mmF1.7 R WR
フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
「私の立っている場所からは湿原、木々、山々、空が一望でき、とても美しくて心ときめきました。その景色を撮ろうと思ったときに、真ん中に誰かいてほしいと思い、夫にお願いして立ってもらいました。たくさんの植物が写っていて、奥の方に行くにつれて緑が濃くなり、また、ところどころに黄緑の葉をつけた木やピンクの花が咲いた木があるところがお気に入り。少し逆光気味に撮影したのですが、青空や雲が真っ白に飛んでしまうことなく、淡い青色を表現できたと思います。PROVIA/スタンダードは新緑の自然な色を写し出してくれました」。

土居夏実
写真家 香川県出身。高校時代、写真部に所属し写真甲子園に出場。スタジオカメラマンを経て、地元である香川を拠点に活動中。星空や、海、植物が好きで、自然に溶け込んだような写真を撮影している。

土居夏実 Instagram
土居夏実 X

土居夏実さんが使用したカメラ

GFX100 II

圧倒的な画質とシステム機動性に加え、新たに高速性能と動画性能を手に入れたGFXシリーズのフラッグシップモデル。アルゴリズムの改良により進化した顔・瞳AFに加え、動物・鳥・車・バイク・自転車・飛行機・電車・昆虫・ドローンを検出する。高速連写性能も進化し、従来のGFXシリーズでは撮影が難しかったスポーツ分野においても決定的瞬間を逃すことなく力を発揮してくれる。忠実な色再現性とメリハリのある階調表現を持ち合わせた「REALA ACE(リアラエース)」が加わり、フィルムシミュレーションも全20種にパワーアップ。
※2024年6月現在、「REALA ACE」を搭載しているのはGFX100 II・X100VIの2機種。今夏のファームアップでX-H2S、X-H2、X-T5、X-S20でも対応予定です。

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GFX50S II

約900gの小型軽量ボディに5140万画素センサーを搭載したミラーレスデジタルカメラ。フルサイズ機と比較して約1.7倍の受光面積を誇る大きなピクセルによって、ノイズを抑え、広大なダイナミックレンジを実現している。対角55mm(ラージフォーマットセンサー)のイメージセンサーはカスタマイズが施された専用設計で、より正確に光を描き分け、輪郭強調処理をせずともメリハリのあるシャープな描写をつくり出す。質の高いRAWデータの生成を可能にし、撮影後に思いのままに調整を加えても画像劣化を極限まで抑えられる一台。

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