AUXOUT
映像作家/写真家 アメリカの大学で音楽を学び、帰国後レコーディングエンジニアに。その後、国内外ブランドの広告クリエイティブに携わり、現在は映像クリエイターとして活動中。
愛用カメラ:Sony α7S III/α7R V、Blackmagic Pocket Cinema Camera 6K Pro
愛用レンズ:FE 24mm F1.4GM、FE 50mm F1.2GM、FE 24-70mm F2.8GM
Q.シネマチックな動画を撮るコツは?
A.5つのポイントを押さえれば、初心者でもトライできます!
「Cinematicとは、“映画のような”という意味。つまり、シネマチック動画とは、限りなく映画っぽく作られた動画です。映画っぽさを演出する方法は本当にたくさんあるのですが、今回は動画初心者に向けて、僕がおすすめする基本のカメラ設定や動画編集時のポイントをご紹介します」。
Point01:フレームレートは、基本24fps。スローで使うならなるべく高く設定を
「どちらもスローモーションでの使用を想定し、120fpsで記録してシャッタースピードは1/250に設定。日中は屋外での撮影は光が固くて雰囲気を作るのが難しいので、屋内で柔らかい光を探して撮影することが多いです」。
「まずは、撮影時の記録フォーマットを選択。解像度は4Kを選ぶと良いでしょう。フレームレートは、映画が歴史的に24fpsで撮影されているので、シネマチックな動画は24fpsを選ぶのが基本。後々映像を編集時にスローモーションとして使用したい場合は、60fpsや120fpsを選ぶのがおすすめ。一部のカメラでは高fpsで撮影する際、画像がクロップされたり、オートフォーカス(以下AF)や手ぶれ補正などの機能に制限がかかる可能性があるのでご注意を。次に、シャッタースピード。動画では特別な意図がない限り、フレームレートの2倍の数に一番近い分母となるシャッタースピードに設定します。例えば24fpsの場合、シャッタースピードは1/48秒、または一番近い数字で撮影します。これにより適切な動体ブレが得られ、シネマチックな雰囲気に近づきます。F値やISOについては、状況に応じて設定すればOKです」。
Point02:記録フォーマットはLogで。カラーグレーディングで色彩の補正を
「カラーグレーディングが苦手な方は、色補正が簡単になるカラープリセット“LUT”を使うのもおすすめ。左がLUTを適用したグレーディング後、右がグレーディング前です。僕のストアでは、過去の作品の色味をオリジナルLUT化して発売しています。無料版もあるので、のぞいてみてください」。
「各社のカメラには、◯-Logというフォーマット(SonyならS-Log、CanonならC-Logなど)があり、映像を記録することができます。Logとはコントラストと彩度をあえて下げ、その代わりにダイナミックレンジを最大化することができる記録方式です。さらに、使うカメラが4:2:2(クロマサブサンプリング)10bit(bit深度)を選択できるのであれば、選んでください。
Logで撮影する場合は、カラーグレーディングが前提となります。ハリウッド映画で非常に多く見かけるティール&オレンジに代表されるように、映画っぽさを出すには色味も非常に重要です」。
Point03:より映画っぽい雰囲気を狙うなら、レンズ選びも大切
「普段は広角を使用することが多いのですが、ここでは背景のビルを少し引き寄せたかったので35mmを使用。ゴーストを上手く活用すると、視差効果を生み出して奥行き感を与えることができます」。
「横に伸びるユニークなゴーストはアナモルフィックレンズ特有のものですが、これはレンズフィルターを使用して同様の効果を生み出しています。夜の香港の街を軽快に駆け抜けるシーンで、動き回る人物をフレーム内に収め続けるのと、狭い路地裏等では人物との距離が取れないので広角レンズを使用」。
「映画っぽさという点においては、レンズはキャラクターが重要になります。映画撮影で使われる1本数百万円もするシネマレンズには、スチル用レンズの良し悪しを図る物差しは当てはまりません。それこそ解像度が甘かったり、独特のフレアやゴーストが盛大に出たりするレンズも多くあります。写真を撮る人にとって馴染みがあるキャラクターが強いレンズといえばオールドレンズですが、実際にぐるぐるボケで有名なHelios 44-2などは、ハリウッド映画でも使われています。また、最近では安価なアナモルフィックレンズも出てきました。いずれもMFレンズのため動き回りながらの撮影には相当な訓練が必要ですが、三脚に固定するスタイルであれば初心者でも撮影可能です。もちろん、現代のスチル用レンズであればAFも使えて、非常に簡単に動画を撮影できます。ただしクリーンすぎて面白みに欠ける部分があるので、その場合は次のポイントのようにフィルターを使うのがおすすめです」。
Point04:可変NDフィルターは必須。ミストフィルターでよりシネマ風に
「Tiffen Black Pro-Mist 1/8と、Pola ProのPMVND IIを使用。減光し開放状態で背景を大きくぼかし、ミストフィルターで柔らかい雰囲気にすることで、夕暮れの海岸がよりムーディーな雰囲気に」。
「適切な動体ブレを得るためにはシャッタースピードを正しく設定しますが、その結果シャッタースピードが固定されることになります。低いF値でボケ感を出すには減光する必要があるため、ミラーレスカメラで動画を撮る場合、可変NDフィルターが必須となります。また、最近は映画のような質感の写真が撮れるということで、ブラックミストフィルターが人気です。これは前述したシネマレンズのキャラクターの部分が由来だと思うのですが、コントラストを抑えて柔らかい印象の映像を撮ることができるので、現代のスチル用レンズを使用している人にはおすすめです。ただし、効果が強すぎると感じてシチュエーションによって着けたり外したりを繰り返すと、最終的に映像に一貫性がなくなってしまうので、なるべく効果が薄いものを選ぶのがポイントです」。
Point05:ジンバルは必須ではない
「YouTubeでシネマチックな動画と言えば、ジンバルを用いた激しい動きの映像も多いのですが、4K以上の画質で撮れる昨今のカメラであれば、編集時に擬似カメラワークという手もあります」。
「動画を撮る=ジンバル必須、と思っている方がたまにいますが、そんなことはありません。僕は面倒なので、極力ジンバルを使用したくない派です(笑)。写真経験が豊富であれば、むしろ最初はその培われた構図力を生かして、三脚で上手くカットを繋いで撮影してみてください。動き回りながら撮影する必要がある場合でも、最近のカメラはボディー内手ブレ補正がかなり優秀なので、それを試すのがおすすめです。プルプルと細かく震える以外の多少の手ブレは、臨場感を出す演出としても有効です。もちろんジンバルを否定しているわけではありません。ドリー(カメラ自体を被写体に近づけたり、遠ざけたりする撮影法)等の手ブレがないカメラワークは、映像として非常に魅力的です。最近は小型のジンバルも多数あるので、そういった映像を撮りたい方は検討してみてください」。
動画編集ソフト「DaVinci Resolve」がおすすめ
「動画編集ソフトは、メジャーなところではPremiere Pro、Final Cut Proなど、さまざまなものがあります。どれを使用してもシネマチック動画は作成可能ですが、それぞれ得意とする分野が少しずつ違います。個人的にも使用していておすすめなのが、無料版があってカラーグレーディング作業に強みがあると言われるDaVinci Resolveです。ただし、アニメーションやテロップなどは、Premiere ProやFinal Cut Proの方が作業しやすいというのが僕の印象です。いわゆるYouTubeフォーマットの動画を作りたいのであれば、こちらの方が良いかもしれません。いずれのソフトを使用しても、書き出しは24fpsで16:9のアスペクト比で撮影した映像の上下にレターパックを足して、2.35:1のシネマスコープにすることで、ぐっと映画っぽい雰囲気に近づけることができます」。
音楽提供サービス利用で、MVのような雰囲気に
「映画には、当然ストーリーがあります。ストーリー性のある映像を撮ると言うと難しく感じるかもしれませんが、最初は好みの音楽を選んでMVのように曲の雰囲気や歌詞にマッチする映像を撮って繋ぐだけでも良いと思います。音楽には著作権があるので、全ての音楽を使えるわけではありません。著作権フリーの音楽は比較的簡単に検索できますが、たとえ映像作品であっても音楽のクオリティーは作品の良し悪しに大きく影響します。Musicbed、Artlist、Epidemic Soundは有料サービスですが、YouTubeでマネタイズも可能なハイクオリティーな音楽を提供してくれるのでおすすめです」。
information
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GENIC vol.67【撮影と表現のQ&A】AUXOUT/Q.シネマチックな動画を撮るコツは?
Edit:Satoko Takeda
GENIC vol.67
7月号の特集は「知ることは次の扉を開くこと ~撮影と表現のQ&A~」。表現において、“感覚”は大切。“自己流”も大切。でも「知る」ことは、前に進むためにすごく重要です。これまで知らずにいたことに目を向けて、“なんとなく”で過ぎてきた日々に終止符を打って。インプットから始まる、次の世界へ!
GENIC初のQ&A特集、写真家と表現者が答える81問、完全保存版です。