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第60回ヴェネチア・ビエンナーレで世界最大級のアートの祭典を満喫する

ヴェネチア・ビエンナーレは1895年に初めて開催されて以来、世界でもっとも長い歴史を誇る国際美術展。「ビエンナーレ」はイタリア語で「2年に1度」「2年周期」を意味します。今年は記念すべき第60回目の開催。旅行写真家のYUUKIが見どころをレポートします。

  • 開催期間:2024.4.20 ~ 2024.11.24

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目次

第60回ヴェネチア・ビエンナーレ

2024年4月、第60回ヴェネチア・ビエンナーレがヴェネチアで開幕した。まるで夢のような美しい旅先として知られているヴェネチアだが、アート好きにも欠かせない場所であるのをご存じだろうか?
開幕前に4日間にわたり行われたプレビューから見所を紹介していこう。

ヴェネチア・ビエンナーレとは

1895年に始まって以来、2年ごとに開催されている国際的な美術展。アートカレンダーの中で最も重要なイベントのひとつとされ、最も素晴らしいアートの祭典であることは間違いない。

会場はヴェネチアの最南端に位置する「ジャルディーニ(Giardini della Biennale)」という庭園内のメイン会場と「アルセナーレ(Arsenale di Venezia)」という1104 年に建造されたビザンチン様式の造船所の跡地の2つの会場からなる。各会場にキュレーターによるメイン展覧会空間と各国ごとに分かれたパビリオンがある。敷地はとても広大でぐるっと回るのには少なくとも2日はかかる規模である。また同時期に会場周辺の様々な地域でも関連展示(コラテラル・イベント)が行われており、さらに1〜2日あればゆったり楽しめる。

第60回のテーマは「Stranieri Ovunque - Foreigners Everywhere」

クレア・フォンテーヌ(Claire Fontaine)

ヴェネチア・ビエンナーレは毎回キュレーターとテーマが変わり、第60回である今年のテーマは「Stranieri Ovunque - Foreigners Everywhere」。日本語では「どこでも外国人」と表記されており、確かに和訳は合ってはいるが、日本人としてはこのフレーズはまさかあの?とクスッとなってしまった。

キュレーターのアドリアン・ペドロサ(Adriano Pedrosa)は、このテーマについて次のように説明している。

このタイトルの背景には、国家、領土、国境を超えた人々の移動と存在に関する様々な危機が蔓延している世界があり、それは言語、翻訳、民族の危険と落とし穴を反映し、アイデンティティ、国籍、人種、ジェンダー、セクシュアリティ、富、自由が条件となる差異と格差を表現している。このような状況のなかで、『どこでも外国人』という言葉には(少なくとも)二重の意味がある。まず第一に、どこに行こうが、どこにいようが、必ず外国人に遭遇する──彼ら/私たちはどこにでもいる──ということ。第二に、自分がどこにいようと、自分はつねに、本当に、心の奥底では外国人であるということである。

(プレスリリースより)

展覧会では、アイデンティティ、ナショナリティ、人種(論争)、ジェンダーに強く焦点を当て、しばしば迫害されたり非合法とみなされたりしながら、異なるセクシュアリティやジェンダーの中を移動してきたクィア・アーティスト、また独学で学んだアーティストやフォーク・アーティストなどの芸術界の周縁に位置するアーティストや、自分が住む土地で外国人として扱われることの多い土着のアーティスト、そしてアート界で代表されることの少なかったアーティスト(南米やアフリカの文化など)100作家以上の作品を紹介している。

国際展最優秀アーティスト賞のための金獅子賞は、ニュージランド・マオリ族のマタアホ・コレクティブに贈られた。

「VOID」 ジョシュア・セラフィン(Joshua Serafin) - フィリピンのバコロド生まれのマルチディシプリナリーアーティスト

プレビュー中披露されたジョシュアによる土とローションを使ったパフォーマンスは圧巻の一言。前列の観客はレインコート必須。

どのパビリオンが一番良かった?

プレビュー中に最優秀国別参加賞の金獅子賞が決められるので、「どのパビリオンが一番良かった?」と会場に訪れている知人たちと話を膨らませるのが常である。オープニングで気になったパビリオンをいくつか紹介していこう。今回の国別パビリオンは、植民地主義やフェミニズム、暴力的な戦争や気候災害、美術館とその不満などをテーマにしている展示がやはり多かった。

Australia Pavillion - オーストラリア

Photo Credit: John Gollings.

最優秀国別参加賞の金獅子賞はオーストラリア館が受賞した。
オーストラリアの先住民族アーティストであるアーチー・ムーア(Archie Moore)の作品「kith and kin」を展示しており、ムーアは何か月もかけてチョークでファースト・ネーションの家系図を手描きした。2400世代以上に遡るムーアの家系を描いている。家族、コミュニティ、記録係との調査に基づくこの複雑な関係地図は、すべての生物を含むオーストラリア先住民の家族構造を反映し、世界で最も長く続いている文化のひとつであることを裏付けている。中央には、英国からの侵攻・植民地化に伴い、警察に拘束されている間に先住民が死亡したことを報告する炭消しされた500以上の文書が積み上げられた。悪質な法律や政府の政策がいかに長い間、先住民族に課せられてきたかを証明しており、歴史的な不正義を風化させないように強調している。

『kith and kin』は、これまで生きてきたすべての生物に捧げられた記念碑であり、過去、現在、未来について静かに考えるための空間である

アーチー・ムーア(プレスリリースより)

Japan Pavillion - 日本

日本館では、初の外国人キュレーターのイ・スッキョンを起用。アーティストの毛利悠子によるインスタレーション「Compose」が展示された。
地殻変動が活発な東京の地下鉄構内で散見される水漏れという小さな「危機」に対し、駅員たちがペットボトルやバケツ、ホースといった日用品で器用仕事(ブリコラージュ)的に対処する方法に着想を得ている毛利は数か月間、日本館全体を自身のスタジオとしてヴェネチアに滞在し、作品の素材のほとんどを地元の店やマーケットから集めた。ゆえに現代のヴェネチアに住まう人々と日常生活を反映させた貴重なプレゼンテーションでもある。
この作品は、私たちが生きている気候変動という不安定な時代を思い起こさせ、危機の瞬間に生まれる創造性は、暗い未来に明るさをもたらしてくれるだろうか。

Poland Pavillion - ポーランド

ポーランド館ではウクライナのコレクティブ「オープン・グループ」が起用され、テーマは「REPEAT AFTER ME II 2024」。
紛争地帯で暮らす一般市民が生き残るために学ぶ最も重要なスキルのひとつは、殺傷能力のある武器を音で聞き分け、その違いを見分ける能力である。ウクライナの戦争の目撃者たちが、自分たちの経験を共有し、自分たちの声でその音を模倣しながら、私たちにその音を伝えようとしている。TATATATATA、FIIIIUUUなど。観客は、パビリオンの中央に設置されたマイクを使って、ミサイルが通過する音、爆発する音、火災報知器の音などをリピートするよう誘われる。戦争/この大惨事を体験する個人の経験に注意を喚起している。

German Pavillion - ドイツ

プレビュー中、常に長蛇の列ができていたドイツ館はキュレーターのチャーラ・イルク(Çağla Ilk)による、テーマは「Thresholds(境界)」。ベスト・パビリオンとの呼び声も高かった。

パビリオン内は、けたたましいノイズ、儀式のビデオ、宇宙船、そして中央にほこりと土に覆われた3階建ての大きな建造物などで、カオスでミステリアスだ。
中央の3階建ての土の建物はエルサン・モンターク(Ersan Mondtag)の「Monument eines unbekannten Menschen(無名の人への記念碑)」。
その外壁はアスベスト素材「エターニット」(商品名。製造元の社名でもある)で覆われているが、これは60年代にドイツに移住し、エターニットの社員だったモンタークの生活と労働環境を再現しており、職場で有毒物質に晒されていたため早死にしたことに由来する。内部は泥とほこりにまみれ、非常にリアルで不気味であった。そこをパフォーマーたちがゆっくりと歩き回る。

巨大なスクリーンに映し出されているのは、ヤエル・バルタナの「Farewell(別れ)」。人類を地球滅亡からの救済へと導く宇宙船の出発に先立つセレモニーの映像が流れている。
また会場内では様々なサウンドが使われており、音響効果も相まってどこか異次元に迷い込んだ感覚に陥った。

今回、実はもう一つパビリオン外のラ・チェルトーザ島にも会場があり、そちらではサウンド・インスタレーションが主に展示されている。(水上バスに乗っていける)

Egyptian Pavillion - エジプト

ワエル・シャウキー(Wael Shawky)「Drama1882」

「Drama1882」はエジプトのAhmed Urabi革命 (1879-1882) を描いた短編映画作品。この革命はカフェでの喧嘩から始まり、暴動が勃発し、英国軍によるアレクサンドリアへの全面砲撃と歴史的なテルエルケビールの戦いに発展した。
俳優たちの独特な動きとミュージックが不思議なハーモニーを作っていた。
こちらもプレビュー中、常に長蛇の列だった。

Belgian Pavillion - ベルギー

The collective behind Petticoat Governmentによる展示。

変位と旅を駆り立てる遊牧民の精神を通して、身体は空間とそれを取り巻く同一性と投影の力を形作る。

(プレスリリースより)

ベルギー、フランス、スペインの様々なコミュニティからやってきた巨人たちを下から覗き込む。リズム感のある音楽が流れており、ダンスをし始める人も。

Italian Pavillion - イタリア

イタリア館では、アーティストのマッシモ・バルトリーニ(Massimo Bartolini)による多層的な空間とサウンドによるインスタレーションが展開された。
エントランスには非常に長いオルガンパイプがポツンとあり、それは柔らかな連続音を奏でている。先端に置かれた小さな仏像が更に静けさを増しているようだ。
そしてメインルームは正反対の空間作りになっており、オルガンのパイプとしても機能する足場が所狭しと空間を埋め尽くしていた。アンビエント・ミュージシャンのカテリーナ・バルビエリ(Caterina Barbieri)とカリ・マローン(Kali Malone)によって作られたパイプから出る音と共に波打ち続ける泥水の噴水から目が離せなくなる。迷路のような空間に立ち止まり、耳を傾け、瞑想に誘われてるようだった。

アート界に戦争が及ぼす影響

各パビリオンでの展示からは戦争は切っても切り離せないワードとなったが、もちろん戦争中にある国のパビリオンも存在する。

数千人のアーティストがイスラエル・パビリオンの出展を禁止する請願書に署名。しかし、ビエンナーレの運営組織は出展禁止をしなかったためイスラエル・パビリオンのキュレーターとアーティストは、開幕直前に停戦までパビリオンを閉鎖することを決めた。

前回のビエンナーレ以来、ロシアのパビリオンは、戦争中の国であるため参加を辞退しているので、今回は代わりにボリビアがロシアのパビリオンを使用。

ウクライナのパビリオンは、アルセナーレ内と外部の単独スペースの2つが提供された。

NOW EVERY SHIT IS ART

会場内外で様々な人が各々のアートをライブ披露しているのも見られた。オフィシャルのものもあれば自由にアートを発表しているアーティストも。

外国人の妻を探していたおじさんは、妻を見つけられたのだろうか。

夢のような街と共存するアートの祭典への旅

今回ほとんど全てのパビリオンで植民地主義がテーマに取り上げられており、気候変動、フェミニズムに続き、暴力的な戦争は切っても切り離せないものだった。世界情勢の影響を受けやすいアートだからこそ、芸術祭を見る意味があるのだ。

芸術祭の中でもとりわけ注目度が高いのが、ヴェネチア・ビエンナーレ。アーティストにとってビエンナーレ参加というお墨付きが得られると、アーティストの市場での位置付けもガラリと変わる。
今回キュレーターのアドリアン・ペドロサによって様々なアイデンティティ、ナショナリティ、人種、ジェンダーのアーティストたちに幅広く開かれた門は、間違いなく彼らのキャリアをプッシュアップしてくれることだろう。今後も全てのアーティストに分け隔てなくチャンスが与えられる芸術祭であることを祈る。

今年のヨーロッパ旅行の際に、いつもと違うちょっとしたスパイスを加えてみてはいかがだろうか。

展覧会「第60回ヴェネチア・ビエンナーレ(La Biennale di Venezia 60th International Art Exhibition)」情報

開催日時

2024年4月20日〜11月24日
定休日:月曜日 (4/ 22, 6/17, 7/22, 9/02, 9/30, 11/18 を除く)

Summer(4/20〜9/30):11:00〜19:00 Arsenaleのみ 金、土は20:00まで
Autumn(10/1〜11/24):10:00〜18:00

入場料

ONE-ACCESS Tickets(1会場のみ):€30/日
MULTIPLE-ACCESS TICKETS:3-Day ticket € 40/Weekly ticket € 50

会場

Giardini
SESTIERE CASTELLO 30122 VENICE
Arsenale
SESTIERE CASTELLO CAMPO DELLA TANA 2169/F 30122 VENICE

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旅行写真家 YUUKI プロフィール

YUUKI

旅行写真家 1984年生まれ、和歌山県出身。デザイナーとして勤務後、独立。春夏のみのブランド「TADO」を運営するNALALA LLC.のfounder。ブランディングディレクターの他、観光地やホテルのPR用撮影を手掛けるなど、旅行関連の写真家及びジャーナリストとして活動中。

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