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好きなものにだけ、囲まれて。 嵐田大志 | 連載 Life is Beautiful. 私の愛する暮らし

連載「Life is Beautiful. 私の愛する暮らし」。
大好きな場所で毎日を丁寧に過ごしながら、日々変わりゆく光や機微をすくいあげ、写真に写す──。自身の暮らしを愛する写真家やクリエイターたちが、日常の中で心動く瞬間とは?すぐそばにある美しさに気づくことの大切さを学びます。
全8回の連載、第8回は優しい光に包まれた穏やかな日常を切り取る、フォトグラファーの嵐田大志さんです。

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目次

プロフィール

嵐田大志

フォトグラファー 1977年生まれ、大阪府出身。東京を拠点に、家族写真やスナップなどを中心に撮影。国内のみならず、海外のメディアにも写真を提供。著書に『デジタルでフィルムを再現したい』、『カメラじゃなく、写真の話をしよう』(ともに玄光社)。
愛用カメラ:Canon EOS Rシリーズ、Nikon Zシリーズ、iPhoneなど多数。
愛用レンズ:Pentax Super-Takumar 55mm F1.8など多数。

好きなものにだけ、囲まれて。

家族の写真を撮るときはその日の空や、食べたものなど情景も一緒に写したい

「少し暗めの部屋で、照明の光を浴びる花びらの質感と色に惹かれてシャッターを切りました。1週間もすれば枯れてしまい、やがてその花を買って飾っていたことも忘れてしまうのですが、写真に残しておくことでその時の妻との会話や家のなかの雰囲気を思い出すことができます」。

「3年前に一戸建てに引っ越しをしたのですが、それまではマンションに住んでいました。毎日眺めても飽きることのない空模様。写真も定点観測的にたくさん撮りました。引っ越して、この風景は見ることがなくなりましたが、ずっと好きな写真として残せてよかったです」。

「6年ほど前、妻が娘の出産のため入院した際に、自宅でひとり食べた朝食です。朝の光がいつも以上にきれいに感じたことを覚えています。娘が生まれてからさらに賑やかになったのですが、この朝は対照的に静寂でした。特別な朝ごはんではありませんが、心象風景として思い出深い1枚です」。

暮らしの写真にはオーディエンスも目的もない。撮りたいと思う衝動のままに撮っている

「“自分の好きなものに囲まれる”ことを暮らしの中で大切にしています。例えばインテリアでしたら、価格が安いからとか、一般的な知名度などではなく、自分が本当に良いと思えるものを揃えるようにしています。結果、自分にとって心地よい家と暮らしになると思っています。暮らしの中でシャッターを切りたいと感じるのは、いい光が家の中に差し込んできた瞬間や子供が面白い行動を取ったときなど、日常が少しだけ素敵に見えたり、面白く感じた瞬間です。そして家族との写真を撮るときは、それを取り巻く情景も撮りたいと思っています。例えば、娘と遊びに出かけた際には娘ばかりではなく、その日の空や食べたものなども併せて撮っています。仕事で撮る写真は訴求先(ターゲットオーディエンス)があり、目的がはっきりとしているのに対し、暮らしの中で撮る写真には想定するオーディエンスも目的もありません。撮りたいと思う衝動のままに撮っています。愛しい日々を残すことを“目的”と呼ぶには抵抗があるんです。“自分のために撮る”ライフワークの位置付けです」。

雑然としがちな日常の風景は、できるだけミニマルに

「引っ越したら、自分の写真を飾ろうと考えていて、迷った末、特に気に入っている真夏のプールの写真を飾ることに。明るい雰囲気の写真ですが、やや暗めな室内で照明に照らされると、写真本来のトーンとは異なる印象になって面白いと感じました」。

「家具や照明が好きで少しずつ買い足しています。アンティークのチェストとルイスポールセンのパンテラが家に来た際に嬉しくて撮ったのを覚えています」。

「家族でトレーラーハウスに泊まった翌朝に撮った写真。窓から日の光が差し込むなか、コーヒーを注いだときの湯気がきれいでした。写真の良いところは撮影したときの香りや音など、五感の情報が思い起こされることです。この写真を眺めていると、1950年代のトレーラーハウスの古びたインテリアの匂いとコーヒーの香りが混じった記憶が蘇ります」。

人は驚くほど忘れやすい。だからこそ、特別な日ではない日常を残していくことに意義があると思う

「約5年前、双子の息子たちが小学生の頃に撮影しました。お風呂から二人の楽しそうな声が聞こえてきたので、なんだろうと思いカメラを持って向かったところ、この光景を目にしました。小学生男子ならではの突拍子もない行動と、パンデミックの最中にメガネごとお風呂で洗っていたことを思い出します」。

「買ってもらったばかりのぬいぐるみを持ってキッチンのところで背伸びしている娘が見えたので、近くにしまってあるカメラを走って取りにいきました。今では背伸びをしなくてもキッチンより高い目線となりました。日々、少しずつ子どもは成長していますし、森羅万象が変化し続けています。それを写真に記録していきたい。それこそが僕が写真を撮る理由です」。

人、モノ、光景。いずれも時間とともに変容していくものをしっかりと記録しておくことが大事

「暮らしの中で写真を撮るときに大切にしていることは、まず要素を絞ること。生活の中の写真なので雑然としがちだから、できるだけミニマルに撮るようにしています。あとは標準域のレンズを使う。パースや圧縮効果など、レンズの特性が出過ぎない50mm前後で撮るようにしています。そして、人物やモノ、光景を同じように見るようにしています。いずれも時間とともに変容していくもので、しっかりと記録しておくことが大事です。私は撮った写真をクラウドサービスに格納しているのですが、“X年前の今日”をランダムに表示してくれるので『懐かしい!』と妻や子供たちとよく盛り上がっています。人は驚くほど忘れやすいです。1年前のことでさえも、記憶が朧げになります。子供の成長の記録や使っている家具など、後で見返した際には別の視点でそれを眺めることができるので、旅行や特別なイベントではなくても日々の暮らしを残していくことに意義があると思います」。

GENIC vol.74 【Life is Beautiful. 私の愛する暮らし】
Edit:Megumi Toyosawa

GENIC vol.74

2025年4月号の特集は「It’s my life. 暮らしの写真」。

いつもの場所の、いつもの時間の中にある幸せ。日常にこぼれる光。“好き”で整えた部屋。近くで感じる息遣い。私たちは、これが永遠じゃないと知っているから。尊い日々をブックマークするように、カメラを向けてシャッターを切る。私の暮らしを、私の場所を。愛を込めて。

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