目次
- 助川康史 プロフィール
- AYANCE プロフィール
- 写真家・助川康史にトラベルフォトグラファー・AYANCEが質問!「教えてください!鉄道写真の魅力」Q&A
- Q.鉄道写真にオリジナリティを出すためには?
- A.視野を広げること
- Q.鉄道写真を撮る面白さとは?
- A.本当に一瞬のシャッターチャンスが決まったときの快感
- Q.旅情感のある鉄道写真を撮るコツとは?
- A.広角・標準・望遠レンズを使い分けること
- Q. 鉄道写真の撮影に欠かせないカメラ機能ベスト3は?
- A.連写機能・AF性能・被写体検出
- Q.鉄道写真デビューにおすすめのカメラ&レンズは?
- A.カメラはZ50II、レンズは小回りの利くNIKKOR Z 14-30mm f/4 Sと汎用性の高いNIKKOR Z 24-120mm f/4 S
- Q.好きなことを仕事にして、続けていくために大切なこととは?
- A.「好き」の気持ちがあれば、どんな大変なことも苦にならないから「好き」な分野を仕事にする
- おすすめ記事
助川康史 プロフィール
1975年東京生まれ。秋田経済法科大学法学部卒業後、鉄道写真家の真島満秀氏を師事。鉄道車両の魅力と、鉄道が走る風景の美しさを伝えるべく、日本各地で奮闘中。鉄道趣味誌の『鉄道ダイヤ情報』の連載や各時刻表の表紙写真などを手掛ける。日本鉄道写真作家協会(JRPS)理事。(有)マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ勤務。ニコンカレッジ講師。
愛用カメラ:Nikon Z9、Nikon Z6III、Nikon Z6II
愛用レンズ:NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR
【History with Nikon】
<2001年>
首相官邸写真室勤務時代にNikonに触れ、プロの現場での信頼性とレンズの描写性能に魅力を感じる。Nikon D2H、Nikon F100、Nikon F4、Ai AF-S Zoom Nikkor ED 28-70mm F2.8D(IF)、AI AF Zoom-Nikkor 80-200mm f/2.8D EDなどを使用
<2011年>
現在勤務している(有)マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ(旧真島満秀写真事務所)の撮影機材の再編により、Nikonを選択。Nikon D700、D300S、AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED、AF-S NIKKOR 24-120mm f/4G ED VR、AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIなどを使用開始
<2012年>
NikonD800E導入
<2013年>
AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR導入
<2014年>
Nikon D4S導入
<2015年>
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR導入
<2016年>
Nikon D5、Nikon D500、AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR導入
<2017年>
Nikon D850導入
<2018年>
Nikon Z7、Nikon Z6、NIKKOR Z 24-70mm f/4 S導入
以降ミラーレス・一眼レフ機種を両用。
<2019年>
NIKKOR Z 14-30mm f/4 S、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S導入
<2020年>
Nikon Z6II、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S導入
ボディーは完全にZシステムに移行
<2021年>
Nikon Z9を導入
<2022年>
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S導入
<2022年>
NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR導入
<2024年>
Nikon Z6IIIを導入
AYANCE プロフィール
トラベルフォトグラファー 長野県出身。Instagramで趣味の旅行を投稿していたことをきっかけに、写真や動画を通して旅の発信することが仕事に。観光局や自治体などの撮影取材のほか、コスメやアパレルなどの商品撮影も行っている。
愛用カメラ:Nikon Z8、Nikon Z30
愛用レンズ:NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 S、NIKKOR Z 20mm f/1.8 S、NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VR
写真家・助川康史にトラベルフォトグラファー・AYANCEが質問!「教えてください!鉄道写真の魅力」Q&A
Q.鉄道写真にオリジナリティを出すためには?
A.視野を広げること
AYANCE
助川先生と初めてお話させていただいたときに、「撮影した写真の先頭車両の窓に映っていた子どもの笑顔にとても感動した」とおっしゃっていたのが印象的で。以前から助川先生の鉄道写真はポートレートのような雰囲気があるなと思っていましたが、鉄道写真というジャンルで、鉄道と人の関係を捉えるような視点があるとは考えたこともなかったので、今日は自分の知らない世界のお話を伺えることをとても楽しみにしてきました。
助川
AYANCEさんは旅撮影のお仕事をされていらっしゃいますが、鉄道会社のお仕事もされているんですか。
AYANCE
鉄道写真が仕事のメインということはありませんが、旅行のプロモーションのお仕事で、クライアントの中に、鉄道会社が参加されていることはあって、鉄道の写真を撮ることもあります。駅のホームで列車から人が降りてくるところ、とかシーンがお決まりになりがちなので、今日は助川先生のお話から、新しいアイデアを見つけられたらなと思っていました。そもそも助川先生が鉄道写真を撮るようになったのはどういうきっかけですか?
助川
私は小さいころから、本当に完全なガチ鉄と言われる人間だったんですよ。母親からも、近所迷惑になるくらい泣いているのに踏切の音を聞くと泣き止んだ、という話をよく聞きました。それくらい物心つく前からの鉄ちゃんでした。
AYANCE
そうなんですね!想像すると可愛いです。鉄道の写真を撮り始めたのはいつからですか?
助川
正確には小学1年生のときですね。当時、110(ワンテン)フィルムというAPSフィルムの先駆けみたいなのがあって、それが入ったコンパクトカメラを母親から借りて、線路際で撮ったのが最初です。
AYANCE
6、7歳のころということですよね。
助川
そうです。でもそのカメラではすぐに物足りなくなって、今度は父親のカメラを借りて撮り始めたのが小学2年のとき。そのころからもう一眼レフです。
AYANCE
すごい!一眼レフデビューがとても早い!
助川
お話した110フィルム(のカメラ)だとピント合わせができないし、暗いところで撮ると、ものすごくスミっぽくなってしまうんですよ。それが嫌だったので、これならよく撮れるだろうと父親の一眼レフカメラを借りたんです。最初は使い方もよくわからなくて、駄作ばかりでしたよ。でも、今思えば運命だったのかなと思いますが、亡くなった私の師匠である真島満秀が書いた『鉄道写真教室』という本を小学2年生のときに本屋さんで見つけたんです。すぐに母親に買ってもらって、その本を見ながら、小学2年生にして絞りとシャッター速度とISO感度というものを覚えました。それで、こういうシーンではこう撮ればいいんだな、といったことも覚えたんです。
AYANCE
こういう写真を撮りたいから、そのために勉強して、再現しようというお気持ちがすでにあったということですね。
助川
そうです。私は鉄っちゃんでしたので、撮っていたのは電車どっかんという写真。それを「編成写真」と呼ぶんですけど、車両の商品写真と言われていて、列車の頭から最後尾までを画角いっぱいいっぱいに収める写真なんです。一応、背景は考えなくてはいけませんが、列車が主役で、私も最初はそればかり撮っていました。でもだんだん何か違うひねりを出したいなと思い始めたときに、師匠の本を改めて見返したら、「イメージ写真」や「風景写真」がたくさん載っていて、こういう写真もいいなって。だから「流し撮り」も小学2年生から始めたんですよ。その本で見た写真は私の作品の原点になっていますね。
AYANCE
鉄道写真というと、とにかく車両どーん!というイメージしかなかったので、先生の作品を拝見した当初、こんな表現があるんだとびっくりしたのを覚えています。もう小学生のころから、今に繋がる先生のオリジナリティというものが形成されていたんですね。
助川
今、鉄道写真界で活躍している写真家には真島満秀の影響を受けている方も多く、特に私たち真島満秀写真事務所出身の写真家は真島一派とも呼ばれているんです。師匠がよく話していたのは「君たちは鉄道が好きなんだから、車両をうまく撮れるのは当たり前。その周りをよく撮れるようにしろ」と。つまり風景や風土など、旅物ですよね。そういう分野もできなくてはいけない、物撮りもできなくてはいけない、人物も撮れなくちゃダメ。取材では全部やる必要がありますから、事務所に入ったときにはいろいろとやりました。
AYANCE
鉄道というのは熱狂的なファンがいる世界だと思いますが、先生は子どものころから「撮りたい」という願望を持つ鉄道ファンだったということですね。
助川
そう。鉄道ファンにもいろいろいますよね。「乗り鉄」はもちろん、グッズ好きもいますし、私は初めから完全に「撮り鉄」でした。お話したように、小学生のときに鉄道の写真を撮りたいと思ったのが始まりですが、ちょうど同じころに少年野球を始めて、高校卒業するまで続けていたんですよ。そうなると部活が忙しくて、写真を撮りに行くのは年1回くらい。でも本当は写真もやりたかったので、大学1年生からまた鉄道写真を撮り始めました。でもその後、完全に鉄道から離れていた時期があるんですよ。
AYANCE
それは、離れるぞ、とご自分で決めて?
助川
そうですね、もともと「編成写真」はある程度撮れると思っていましたが、時刻表などで師匠や先輩が撮っている鉄道写真を見ていると、風景がすごく綺麗で。私にはこういう部分が足りないな、もっと視野を広げてやらなくてはと思ったんです。それで1回完全に鉄道から離れました。風景写真の本ばかり読み漁って、あとはポートレートの撮り方みたいな本も買っていましたね。実家が秋田で、大学も地元でしたので各地のお祭りを撮りに行ったり、父が北海道に転勤していたときは、夏休みに1か月ぐらい北海道の名所を巡りながら写真を撮ったり、全然鉄道と関係ない撮影をしました。でも、それが「編成写真」から離れるきっかけになりました。
AYANCE
というのは?
助川
鉄ちゃんとしては、どうしても「編成写真」を撮ってしまうんですよ。風景がいいのもわかっているけれど、列車のほうが大きくなってしまう。それはひとえに車両愛が強いからなのですが、写真の技術や表現力を広げるのには1つの足かせになってしまうんですね。そういう意味で、私は一度鉄道から離れたことによって、逆にいろいろな見方ができるようになった。こういう場面ではこう崩したほうが面白い、アプローチを変えてイメージ的にやったほうが楽しいといった感じで、表現方法が増えていったのかなと思います。
AYANCE
なるほど。また鉄道写真に戻ろうと思ったのは、どういうきっかけですか。
助川
それはですね、高校卒業前から写真家になりたいと思っていたのですが、父親に反対されて。父は大学に行けば、諦めるだろうと思っていたみたいなのですが、ちょうど就職活動時期の前に鉄道写真コンテストに入賞したり、鉄道誌に作品が載ったりして、いい気になっちゃったんですよ(笑)。それで父にやはり写真をやりたいと話して、東京に出てきたんです。専門学校に通いながら、山手線沿線の全駅を歩いて、ぶらり途中下車的に風景を撮影したり、渋谷や原宿で若者たちに声をかけて撮らせてもらったり。専門学校の先生も専攻は風景写真でしたので、上高地や富士山などにも撮影に行きましたし、クラシックなフィルムカメラを奮発して買って、いろいろなことをやっていました。プロが利用するフィルム現像所でバイトしながら、勉強もしていましたね。
AYANCE
先生は鉄道写真にオリジナリティを出そうというより、ご自分が本当にいろいろなことにご興味があって、その興味を追求しているうちに世界が広がって、鉄道写真の表現の幅も広がっている感じですよね。
助川
最初は「編成写真」だけではダメだという感覚で始めたはずですが、その周りをやることがすごく面白くなってしまって。専門学校で出会った親友はポートレート専門で、学校のスタジオを借りて、一緒にモデル撮影もしていました。今の鉄道写真もそうですが、光にこだわるので、そこでライティングを考えながら、人物を撮っていたことも良かったのかなと思います。
Q.鉄道写真を撮る面白さとは?
A.本当に一瞬のシャッターチャンスが決まったときの快感
AYANCE
先生にとって、鉄道の魅力とは何なのか?教えていただきたいです!
助川
鉄道とは実は五感で体感するものであって、まず目で見るのは当たり前ですが、音を聞いたり、触れて振動で感じたり、あとはやはり匂いもあるんですよ。SLの石炭もそうですし、モーターの匂いもある。さすがに五感といっても金属を食べることはできないな(笑)。でも、感覚で楽しむ部分も大きいと思っていて。小さな子が電車を好きになるのも、ガタンガタンというリズムが他にない音ですごくいいんですよ。踏切のカンカンという音も、同時に光が動くじゃないですか。あれも子どもの気を引くらしい。ちなみに、列車に乗っているときのリズムというのは、1/fの揺らぎという、人間に安らぎを与える周波数らしいです。鉄道はそういういろいろな人間の感覚を刺激するうえに、幼い頃から触れているので、それはもうかっこよく見えちゃうんですよ。
AYANCE
本能的なものですね、きっと。
助川
そうですね。だから私は本能を写しているんです。
AYANCE
かっこいい!なぜそんなにも鉄道が好きなんでしょう?
助川
愛に理由ってあります?(笑)。いや実際、私と同じ人が多いと勝手に思っていて、物心ついたころはみんな鉄道が好きだったと思うんですよ。特に男の子が最初に触れるおもちゃは、鉄道ものが多いですよね。でも幼稚園くらいになってくると興味が分かれてくる。写真をやっていると昔、鉄道が好きだったという人にけっこう出会いますが、今も鉄道写真をやっている人たちというのは、よく言えば少年少女の気持ちをいまだに持ち続けている感じなのでしょうね。
AYANCE
先生は鉄道を軸に、その周りのことをカメラや写真の勉強を含め、いろいろとされてきて、それがご自分の今の作風に生きてらっしゃると感じますか?
助川
全部、生きていると思います。普段は鉄道をやっていますけれど、例えばたまたま道を歩いていて猫が可愛かったから撮ったとなれば、絶対にそれも自分のやっていることに役立つはずなんですよ。無駄なシャッターはないと思っているので。
AYANCE
「無駄なシャッターはない」。記事で大きくしたい言葉ですね!
助川
私、今、名言いいましたね(笑)。でもそうなんですよ。例えば列車が走っていないときでも、今、光が綺麗だから撮っておこうというのは、後々の参考になることが多いです。鉄道を撮っている間も、ホワイトバランスを変えてみたり、ピクチャーコントロールを調整したり、少し遊んでいるんですよ。この設定でこの色でこうやればいいんだ、今度やってみようという感じでどんどん蓄積していくんです。だからこそ無駄なシャッターはない。ただ見ているだけではダメで、撮ることが大切なんですよね。デジタルであれば、お金はかからないですから。私の場合は綺麗だと思えば、いろいろと撮っていますね。カメラで撮るということ自体も好きなので。
AYANCE
お聞きしていて、すごくそう感じます。
助川
撮ったものは確実に役に立っていて、いろいろな光の見方もできるようになりました。鉄道写真の中でも「編成写真」をやっている人は、順光至上主義なんですよ。「編成写真」というのは、いろいろな制約があって、45度の光じゃないとダメだという人もいますし、すごく厳しいんです。
AYANCE
突き詰めていく世界なんですね。
助川
なぜかというと、「編成写真」というのは車両の商品写真のようなものなので、色を正確に出すこと、綺麗に光を回すこと、一番綺麗に車両を写すことが大事なんです。列車の「顔」の横には電柱を入れてはいけないとか、「足」は草に隠れてはいけないとか、こだわりがあるんですよ。
AYANCE
車両の特徴や魅力をベストな形で捉えるため、ということですね?
助川
そうです。まずはそれが基本です。鉄道自体が本当に超マニアックですけど、鉄道写真はさらに追求する世界で、さらにマニアックな愛が芽生える。結局、鉄道が好きというのが原点なんですよ。
AYANCE
知らない世界だから、お伺いしていてずっと面白いです!私が今までなんとなくイメージしていた「鉄道写真」は、「編成写真」のことだったとわかりましたが、先生の作品は全く違って見えたことを覚えています。
助川
鉄道好きが「編成写真」が好きなのは当たり前で、それをいかに崩せるか、いかに離れられるかなんです。私の場合はいろいろとやっていたので、風景写真にもすっと入れた。だから順光しばりからも簡単に離れられましたね。シルエットもいいですし、逆光も大好きです。なぜ逆光がいいかというと、空気感と立体感が表現できるから。順光は正確に色が出ますが、立体感がなくなってしまう。もちろん綺麗な色をしっかり出す、絵はがき的な風景写真には絶対に必要ですよ。でも逆光になると透過光になったり、冬なら空気が澄んで、光が鋭くなっているのを感じたりしますし、表現の幅が広がりますよね。鉄道写真の世界ではやはり正確に色を出したいものなので、逆光を嫌がるのが普通ですが、最初にお話しした師匠の本にそういう写真がたくさん出ていたんですよ。それで逆光っていいなと思って、光にこだわりを持つようになりました。
AYANCE
通常、「撮り鉄」の方たちは、順光で列車を忠実に写し取ることを目標とするわけですよね。
助川
忠実に写すことを目指す人のほうが、鉄道写真をやる人間の中では多いと思います。特に若い子は。でも今、風景写真をやっていた方が鉄道風景を始めることもあって、それが面白いなと思います。
AYANCE
そうなんですね!鉄道写真は風景写真を撮るよりもタイミングが難しいと思いますし、コントロールが利かない撮影で、二度とない一瞬を切り取ることが醍醐味なのかなと勝手に想像していたのですが、先生はどこに魅力を感じていらっしゃいますか?
助川
おっしゃる通り、鉄道風景は本当に一瞬じゃないですか。その列車が来るのを2時間前から待つのは当たり前。風景写真は何度かシャッターチャンスが訪れますが、鉄道写真は本当に一瞬なんです。晴れていようが曇っていようが、その一瞬なので。ちょっとドキドキ感といいますか、ゲーム性があるんですよ。正確さを求める「編成写真」にもゲーム性はあって、この一瞬でベストカットを撮る。そのときに、0コンマ何秒しかチャンスがないということが多いから、決まったときの快感がたまらないんです。
AYANCE
準備万端で撮影に臨まれても、予測不能のことが起きてしまうこともありますか?
助川
よくありますよ。一番は天気。ここまで2時間頑張ったのに曇っちゃったということは多いです。だから天気予報はよく見ていて、気圧配置とか風の向きとかチェックして、状況を見るようになりました。予測するのはまず、この場所はこの季節でいけるかどうか。秋冬は影が入ってくるからダメだということもありますし、あとは列車が走る時間ですよね。走っていない時間は論外。だから予定は鉄道中心に考えます。
AYANCE
不測の事態が起きたとき、どのような対処法をとられるのでしょうか?
助川
レンズ、カメラ、レリーズ、三脚、いろいろなアイテムを駆使しています。今はフィルターワークもしていて、たとえばハーフNDフィルターを使うと、曇りでも逆に面白いシーンが撮れる。マストなカットは押さえつつ、イメージ的に違うものとして、あえて自分の色を出した写真も用意しておくんです。天気など状況が悪いときに、求められている写真以外に「このほうがいいですよ」と持っていくと、「お、これいいね」となって使われることも多いです。取材の場合は、説明的なカットが多くなり、もちろんそれは撮らなくてはいけないけれど、その隙間にあえて椅子だけとか、吊り革だけとか、自分目線の写真を撮っておくんです。そうすると、それが見開きで掲載されることもあります。
AYANCE
もともと求められていたものではないカットが使われると、うれしいですね。
Q.旅情感のある鉄道写真を撮るコツとは?
A.広角・標準・望遠レンズを使い分けること
助川
AYANCEさんが最初に、旅写真となると、駅のホームで列車から降りているシーンばかりになってしまうとおっしゃっていましたが、それがまずベースは当たり前なので、それでいいと思います。1つテクニック的に言うと、車内で撮るときはどうやって車窓を見せるか。まずアングル的なコツは必ず窓枠を入れるんです。風景だけだとバスの窓なのか、ホテルの窓なのか、わからないですよね。でも超広角の焦点距離14mmのレンズを使って、ちょっと窓枠を入れて、外の風景を斜めに撮ると、それだけで列車に乗っている風景になる。もう1つのコツはシャッタースピードですね。
AYANCE
早くしがちですけど。お写真を拝見したところ、流されていますよね。あっ!と思って。
助川
列車は、駅に止まっている以外は動いているものじゃないですか。それを表現するのにシャッター速度を調整します。ちょっと遅めにするんです。私の中ではルールがあって、超広角を使って、時速100kmで走っているものはシャッタースピードは約125分の1、それ以下であれば60分の1にすると、手前にある線路側のものが流れる。要するに奥は止まって手前が流れることで、動いていることが伝わるんです。そうすると列車に乗っているという感覚が写真から出ますよね。
AYANCE
なるほど。広角でシャッタースピードを落とすことで、鉄道の動感を出すわけですね。
助川
あとは被写界深度。あえてぼかすか、しっかり奥までピントを合わせるか。カメラワークでもだいぶ変わります。車内にはお客さんもいますし、制約が多いので、どうしても広角になってしますが、人が少なくなったときに、あえて車内を望遠で撮る。手前のものをぼかしたり、奥のものをぼかしたり。変化をつけるためにも、広角、標準、望遠と3つのレンズをとにかく使いこなすことです。
AYANCE
いろいろな表情で切り取るということですね。
助川
そうです。たいがい人に寄って、窓でも見ているシーンを撮ると思うんですけれど、車内に少し余裕ができれば、離れて望遠なんですよ。望遠の車内写真は意外に少ないので、いいメリハリになります。一度娘を連れて、静岡県の岳南鉄道に乗って、望遠レンズだけを使う練習をしたのですが、娘が運転席のすぐ後ろでかぶりつくように前を見ているところを、私は1両目の連結面ぐらいまで離れて、望遠で狙って。周りのお客さんはぼかしつつ、娘の後ろ姿だけのシーンとか。
AYANCE
なるほど。電車の中で望遠レンズを使おうと思ったことはなかったですが、たしかに引きの絵にしたほうが、旅感が出るのがイメージできました。
助川
画面構成で差が出るのはレンズワークなので、要するに望遠は圧縮感、広角は遠近感の強調。それを使い分けることです。ここではこういう風に撮るとよい、というのは、ある意味とっさの判断が必要になってきますが、例えば窓を背にしたロングシートの場合は、人物の向かい側の席に座って、風景がいい場所なら、窓の向こうの風景に露出を合わせて、本人はシルエットにするとか。あとは停車時間が長ければ、ホームに降りて、窓を覗いているところを撮るとか。列車には少し反射が入るかもしれませんが、外から撮る、もありですよね。
Q. 鉄道写真の撮影に欠かせないカメラ機能ベスト3は?
A.連写機能・AF性能・被写体検出
AYANCE
先生は取材のとき、カメラは何台ぐらい持っていかれますか?
助川
3台です。
AYANCE
何用の3台ですか?
助川
単純な話、横・縦・動画用。今はこのZ6IIIが横写真専門になっています。というのも最近雑誌では、意外と見開きで使われることは少なくなって、横だと半ページぐらいなので、これで十分。しかもハンドリングしやすく、2450万画素なので、気に入って使っています。AFの性能もかなりいいので、安心して使えますね。もう1つはZ9。縦グリップがいいんですよね。縦位置も撮りやすいですし。雑誌の表紙もそうですが、今は縦写真のほうが大きく使われるパターンが多いので、4571万という高画素の緻密さが頼りになります。やはり2000万画素クラスと4000万画素クラスでは、印刷物になると差が歴然としてしまうんですよ。
AYANCE
勉強になります!動画機は何を使っていらっしゃいますか?
助川
今はZ6IIを使っていますが、実は今、4Kで60fps(フレーム)のが欲しくて。4Kはもう基本になっていますよね。通常30fpsのものが多いですが、動き物の場合は細切れ感が出てしまうので、鉄道の場合、滑らかさを出すためには最低でも60fpsが必要。それもあって動画用にZ8が欲しいなと思っているところです。
AYANCE
結構な大荷物で撮影に出かけられるんですね。
助川
レンズもすべてフル装備で持っていくので、大きいレンズもありますし、カメラバッグが絶対に最低でも2つ必要です。雑誌の仕事では、縦・横どちらも必要になることが多いので、標準レンズは2セットありますし、広角レンズも2セット。全部で7本は持っていきますね。鉄道の場合は、横で撮っておいて、また次に縦で撮ればいいということにはならないんですよ。
AYANCE
そうですよね。撮り直すと、条件が変わってしまう。
助川
だから横と縦、同時撮りなんです。もちろん撮影現場によっては、三脚を2つ置くのが難しいこともあるので、無理はせず、どちらが重要かで決めていますが、たいがいは2台置いて撮影しています。プレートも使っていますね。“鉄ちゃんバー”と言われていて、1台の三脚の上に2台カメラを乗せられるアクセサリーです。SLIKのプレートIIIというのがありまして、今はそれ使っています
AYANCE
鉄ちゃんの必需品!初めて知りました。
助川
鉄道は本当に0.5秒のシャッターチャンスなので。鉄ちゃんの中にはレリーズを使って、一度に5台ぐらい撮る人もいるんですよ。あとは連写させておけばいいですから。それがデジタルのいいところですよね。Z6IIIがすごいのは、RAW状態でもずっとシャッターを切り続けられるんです。出荷状態だとRAWで200コマが限界ですが、制限を解除して、カードもいいものを入れれば、永遠に撮れます。
AYANCE
えー!すごいですね。
助川
今のカメラはバッファがすごいので、連写が長くできる。だから動き物を撮る人、鉄ちゃんやスポーツを撮る人にはいいですよね。特にZ6III、Z8、Z9は優秀なので、断続的にシャッター連写しても大丈夫。Z9は4571万画素でもともとデータが重いので、ずっと切りっぱなしはちょっときついですが、カードが良ければ、すぐに読み込んでくれるので、回復も早いです。
AYANCE
鉄道写真を撮るときのカメラとして、絶対条件、これが一番大事みたいな機能はありますか?
助川
まずは連写性能。それとAF能力だと思います。なぜかというと、「編成写真」の場合ですが、標準レンズだとピントを置く位置が見えやすい。でも望遠レンズだと、圧縮効果で正確なピント面がわからないんですよ。でもAFの向上によって、列車自体にピントを合わせることができるようになった。それならAFを使おうとなりますが、いかにAFが正確に列車を追い続けてくれるかなんですね。今は性能の著しい向上で、より正確に確実にAFが合わせやすくなっています。予測駆動フォーカスも断然使ったほうがいいですね。鉄道写真は鉄道を知ることも大事ですけれど、カメラを知ることも重要。だいたいみんな、鉄道のことはもう寝ていてもわかるんですよ。だけど、写真がうまくなりたければ、まず己のカメラを知ること。自分のカメラがどれだけの性能を持っていて、限界値がどれだけで、どんな表現力を持っているのか。例えば高感度でどの程度ノイズが出るのかなどを把握しておけば、効果的な使い方が判断できますよね。そのためにはカメラを知ること。やることは多いです。
AYANCE
カメラについては場数をこなしながら、学ばれている感じですか。
助川
そうですね。知識を得ること、カメラの構造を知ることですよね。
AYANCE
先生のカメラ愛、ひしひしと伝わってきます。
助川
カメラ大好き、機械的なこと大好きです。カメラの話をするのも好きですし。iメニューも使いやすさ重視で設定しています。
AYANCE
先生のiメニュー、興味あります!
助川
左側はコントラストやピクチャーコントロールなどの色関係、右側はAF関係にしています。そうやって左右で完全に分けて、視覚的にもわかりやすいようにカスタマイズして、誤作動を減らすようにしているんです。使える機能もどんどん増えてきていますし、逆に使う頻度が低いものは移動させて、少しずつブラッシュアップしています。
AYANCE
お気に入りの機能はありますか?
助川
今は被写体検出。もう絶対必須ですね。これのおかげですごく楽になりました。AFはなるべく長い時間、追わせていたほうがカメラが学習するので正確性が上がるんですよ。
AYANCE
そうなんですか。
助川
ちなみにAFは撮りたいものがAFエリア内に来る前から押してはダメです。どうしてかというと、実はカメラって、最初に合わせたところに頑張って合わせようとしてしまうから、AFは被写体がエリアに入ったら押す。そのときはまだ被写体まで遠いとしても、被写体検出が入っていると遠くからでも認識してくれます。あとは3D-トラッキングはある程度範囲を限定して追いかけたほうが撮りやすいです。3D-トラッキングのいいところは、色まで判断してくれること。1回捕まえた色を追いかけてくれるから、鉄道の場合、顔に特徴的な色があることも多いので、正確性が上がるんです。Dシリーズ、FマウントD850にあった3D-トラッキングが、ついにZ9から復活となって、喜んで使うようになりました。
Q.鉄道写真デビューにおすすめのカメラ&レンズは?
A.カメラはZ50II、レンズは小回りの利くNIKKOR Z 14-30mm f/4 Sと汎用性の高いNIKKOR Z 24-120mm f/4 S
AYANCE
これから鉄道写真を始めるという方におすすめする、使いやすくて、かつマストな機能が網羅されている機種はなんですか?
助川
これだけZ6IIIを推していますが、Z50IIはすごいですね。あれはZ9と同じ画像処理エンジン(EXPEED 7)を積んでいるんですよ。だから被写体検出に乗り物が入っていて、しかも3D-トラッキングつき。鉄ちゃんが欲しいのは、狭い画角で写るセンサーサイズAPS-Cサイズ(DXフォーマット)なんですね。Z50IIはAF性能もかなりいいですし、お手頃だし、軽いし、小さいし。NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRとNIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VRがセットになったZ50II ダブルズームキットがあれば、もう余裕です。NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRのレンズをつけた状態でも、Z9ボディー単体と同じくらいの大きさなんですよ。手ブレ補正もあって、三脚もいらないですし、若い方も手が出しやすいと思います。プロでもサブ機に買った方、多いですよね。
AYANCE
すごく人気ですよね。
助川
試用させていただきましたが、ISO感度は100からですが、最高感度が51200ですからね。夕暮れどきにISO感度12800で実験してみても、ノイズ感が少なくて。Z9と同じ画像処理エンジンを積んでいるから、これだけ綺麗なんだなと思いました。小回りが利きますし、今から撮り始めるという方に、撮影の楽しさを知ってもらうにはもってこいじゃないでしょうか。
AYANCE
レンズのおすすめはありますか?
助川
私がNikonに最初に惚れたのは、レンズの描写能力だったんですよ。今、頻繁に使っていておすすめしたいのはNIKKOR Z 24-120mm f/4 S。Z50IIにももちろん使えますし、今後フルサイズのカメラが欲しいとなったときに、買い替えになってしまうより、最初からいいレンズを買ったほうがいいのかなと。だから初めからフルサイズ(FXフォーマット)レンズを揃えたほうがいいかなと思います。いきなり高いレンズでなくても、お手頃なものもありますから。その最古参である、例えばNIKKOR Z 14-30mm f/4 Sとか、NIKKOR Z 24-70mm f/4 Sは比較的お手頃ですし、高度な光学性能を追求したSラインなので性能も高いです。
AYANCE
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、すごく便利ですね!
助川
もうボディーキャップ代わりのようにつけています。汎用性が高いので、NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sばかり使っています。広角はNIKKOR Z 14-30mm f/4 S。取材はバタバタしているので、コンパクトなほうが動きやすいですし、取材は超望遠で鉄道を撮るということはあまりないんですよ。だから取材セットとしては、NIKKOR Z 14-30mm f/4 S、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sという3本です。鉄道風景写真を撮るとなると、f/2.8のいわゆる『大三元』レンズとNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRを組み合わせた完全なガチセットになりますが、その使い分けですよね。だからレンズはたくさん持っていたほうがいいです。Z9、Z8は高画素機なので、必ずいいレンズをつけています。
Q.好きなことを仕事にして、続けていくために大切なこととは?
A.「好き」の気持ちがあれば、どんな大変なことも苦にならないから「好き」な分野を仕事にする
AYANCE
先生は好きなことと仕事がもう完全に直結されていますが、好きだからこそ、仕事であることが辛かったり、続けることが苦しかったりすることはありましたか?
助川
専門学校のころに、インターンシップでスタジオに半年ぐらいいたんです。あるときダイヤモンドの撮影で、スタジオにこもって1個を2時間かけて、16個撮影したことがあって、それは辛かったですね。鉄道が好きで、アウトドアな人間なので、やはり外で撮るのが好きなんですよ。だから鉄道を撮りたいから、と言って辞めました。もう1つ、旅雑誌を作っている編集プロダクションでカメラマンを募集しているというので、そこもインターンシップで入ったのですが、仕事は電話番と物撮りで、私には合わなかった。写真って何でも同じだと思われがちで、親戚に「結婚式を撮って」と言われることもあるじゃないですか。「写真家でしょ」みたいな。でも結構写真って、餅は餅屋で、分野が違うと、撮り方もスタイルも変わりますし、中でも鉄道はかなり特殊なんですよ。でも特殊だからこそ愛が強くて、鉄道写真を撮るのが辛いと感じることははっきり言って、ないです。
AYANCE
愛がすべてを乗り越える!では、撮影現場が過酷だと思うことはありますか?
助川
「辛い」わけではなく、「大変」だったのが、クルーズトレインと言われている豪華な寝台列車「ななつ星 in 九州」を追っかけ取材したときですね。
AYANCE
一緒に乗って撮るのではなく?
助川
朝5時にここを通るから、まずそれを外から撮って、どこどこの駅でレストランタイムがあって、さらに夜も走っているから、どこどこで撮って、みたいな感じで、車で追っかけつつ、待ち時間もあるというのを3日間。それは大変でしたけれど、風景を考えたり、流し撮りにしたり、いろいろと撮り方を変えて、楽しいんですよね。睡眠不足ハイもありますけれど(笑)。好きだからこそ、大変な撮影状況でも苦にならないんでしょうね。AYANCEさんはどうですか?
AYANCE
先生がおっしゃることはすごくわかって、旅の撮影中、ずっと運転が続いても、その先に景色を見えたときの楽しさなどで報われます。
助川
大変なことも、好きだからやっていられるものですよね。私の場合は例えばスタジオの撮影だったら耐えられなかったと思います。だから写真をやる人は、できればですけれど、自分の好きな分野を仕事にするというのが重要かな。AYANCEさんは旅が好きで、その旅がお仕事になっているじゃないですか。写真って、撮っているときの楽しさが出るんですよ。なかなか撮れなくてやっと撮れた写真を見ながら、本当に苦労したけど楽しかったよなと思い出すこともありますしね。そういうのは写真ににじみ出てくるので。表現の仕方はいろいろありますけれど、旅の写真で言えば、辛い写真、悲しい写真はあまりいらないと思うんですよ。ノスタルジーが必要とかはあるかもしれないですけれど、基本は楽しくあるべきなので。だからこそ楽しく撮る必要がある。そういう意味では、鉄道写真もやはり鉄道好きな人がやるべきで、プロを目指すべきなのかなと思います。どんなに仕事が大変でも、楽しく頑張れますよね。
AYANCE
先生は鉄道が好きという気持ちを原動力に、仕事を続けていらっしゃって、鉄道以外のこともいろいろやられてきたけれど、すべてが糧になって今のお仕事に集約されていますね。
助川
そうですね。鉄道愛は消えることがないでしょうね。シャッターを切ることも好きなので、ときどき神社のパンフレットの仕事もやっていますし、先日は書道の作品を撮っていましたが、それはそれで楽しいです。考え方も見せ方も、鉄道とは違うアプローチなので。写真に関わることなら、なんでも面白いとは思うんですけれど、でも本当にしっかり続けられる、どんなに大変でも苦にならないのは、鉄道ですね。
AYANCE
先生は鉄道を撮っていて何が一番楽しいですか。鉄道の何を捉えたいですか?
助川
すべてなんですよ。「編成写真」も楽しいし、「風景写真」も楽しいし、その場の光と状況を私なりに読みとって、1番いい状況で撮ることが楽しいです。鉄道写真はみなさんがイメージする以外にもいろいろな撮り方があって、変な話、列車が映えるかどうかは、ボディーの素材や色によっても変わりますし、実にさまざまなアプローチがある。だから引き出しをうまく広げておく必要があるんですけど、その引き出しが増えれば増えるほど、撮るのがより楽しくなっていくんですね。
AYANCE
鉄道をベストな形で撮ってあげられる楽しさですか?
助川
そう。無機質な鉄の塊である鉄道をいかに有機物のように、生きているみたいな、命があるもののように撮るかということです。また、いいこと言いましたね(笑)。
AYANCE
先生の作品の列車の正面が「顔」に見えるのはそういうことですね!
助川
実際、「顔」だと思って撮っています。列車って人物の顔と全く同じで、個性がすごくあるので、それをいかにいい角度で撮るかなんです。線路や車両全体が見えるように撮ると「編成写真」になってしまいアウト。写真が説明的になってしまうからです。無駄なところは入れないように計算しながら一番かっこいい、一番可愛いイメージにもっていく。要するに「編成写真」は人物で言えば証明写真。「顔アップイメージ写真」はポートレートなんですよ。それだけで鉄道写真と一言で言っても、かなり印象が変わるのが、わかりますよね。
AYANCE
擬人的というか、鉄道は生き物なんですね。
助川
鉄ちゃんは鉄道車両に対して、そういう思いを持ってやっていると思います。かっこいい、可愛い、あとはどう表現するかですよね。一辺倒にならないように、とにかく引き出しを広げたほうがいい。そして「寄る」のではなく、「離れる」。鉄ちゃんなら、線路から離れること。近くでしか見えないものもありますけれど、離れることによって見えてくるものがありますから。とにかく自分が動くことですね。私は有名撮影地が大好きなんですけれど、そこでみんなと固まるのではなくて、邪魔にならないようにまず動いてみて、自分なりのアングルや撮り方を決めるんです。通常、鉄ちゃんは有名撮影地を嫌がるんですよ。
AYANCE
かぶってしまうからですか?
助川
そう。同じになってしまうと言いますが、でも絶対、同じになんか撮れない。横に並んで撮っていても、レンズの焦点距離が1mmでも変われば印象は大きく変わりますし、アングルもホワイトバランスも露出も違う。さらに天候も変わってきますし、時間が違う、季節も違えばカメラも違う。プロでさえ同じ写真なんて撮れないです。有名撮影地というのは、綺麗な構図で撮れるから人気なわけで、だから有名撮影地を馬鹿にするなといつも話しています。
AYANCE
1つの撮影地でも、突き詰めるだけのものがあるということですね。
助川
私でも前回とは全く同じには撮れないものなので、だからこそ、そのときの状況に合わせて判断できるように、自分の感性を磨くことが重要だと思います。
AYANCE
そのために、いろいろなことをインプットして準備しておくんですね。せっかくの機会なので、私も鉄道写真にチャレンジしてみたいと思っていましたが、すごく面白そうな反面、難しそうな気がしてきました。
助川
ぜひやってもらいたいです。最初は気軽でいいんですよ。鉄道スナップから始めていいと思うので。鉄道どっかんの「編成写真」は鉄道大好きな人に任せておけばいいですから。
AYANCE
たしかに!勇気が出ました。
助川
とはいえ、お仕事的に「編成写真」的なものが必要な場合もあるかもしれないですよね。そのときは形がどう見えるかを観察する。それは美術の授業と同じなんです。石膏の置物を見て、どの角度がいいのかなと探るようなもので、鉄道の車両も一番かっこよく見える角度を探せばいい。それから流線形だったら標準レンズで撮ったほうがいいとか、そういうことは経験していくうちに、だんだんとできるようになりますから。旅のお仕事の中で、駅に停車している列車を撮るというときにも、対応できるようになると思います。プロからしてみたら、鉄ちゃんじゃない方が撮る鉄道写真、面白いです。今はアマチュアですごい方もたくさんいらっしゃるので、私もそういう方たちの作品を見て吸収しています。
AYANCE
違う感性を取り入れているんですね。
助川
そう。まずはAYANCEさんが感じる見方、やり方で撮ってみてください。どこかに鉄道を入れていただければ、もう鉄道写真になりますので。それを広げていってもらえるといいですね。最終的にはやはり鉄道風景写真にトライしていただきたい。四季折々の日本の風景も、景色がどんどん変わるので、風景を入れつつの鉄道写真を撮っていただけるといいなと思います。
AYANCE
はい。私も鉄道旅に出かけて、挑戦してみたいです。今日、お話をお聞きして、スナップや風景写真から、現像所、首相官邸まで、とても多角的に写真に触れてこられた経験のすべてが、今の先生の作品に凝縮されていることがよくわかりました。先生の鉄道愛は、人生のすべてとつながっていて、鉄道とカメラへの愛に溢れた先生のお写真は、先生の人生そのものなのだなと、ジーンとしてしまいました。貴重なお話を本当にありがとうございました!
助川康史さんから読者の皆さんに一言
「鉄道写真のプロになりたい方は、鉄道が大好きだと思いますので、その気持ちを具現化するよう、頑張ってもらいたいです。最近、趣味は趣味で終わらせたい、仕事にするのはプレッシャーだという声も多いですが、私も仕事をこなしていくうちに、“できる”と思えるようになりましたし、プロとして経験を重ねていけば、どんなプレッシャーにも打ち勝てる自信が出てくると思います。写真を仕事にしようが、別の仕事にしようが、大変なのは変わらないと思うんですよ。であれば、好きなことを仕事にしたほうが頑張れるし、楽しいし、人生が豊かになる。だから鉄道写真が好きで、少しでもプロを目指したいなと思ったら、ぜひそれを貫き通してほしいです。勇気と努力、そして情熱。それを絶えず持って、鉄道を撮ってもらいたいなと思います」。
AYANCE’s voice
「対談の後、改めて、先生の連載記事を拝読したのですが、なるほど、こういうことか!とお聞きしたお話の理解がより深まりました。普段の取材撮影などでは、いつの間にか“撮らなくてはいけない”カットだけに終始してしまい、自分の写真に遊びがなくなっていると感じていたのですが、求められるものをベースに、自分のカラーを出してもいいし、そもそも“だから写真って楽しいんだ”と、先生の深い写真愛で思い出させてもらった気がします。またレンズによって、もっといろいろな見せ方が探せることにも気づき、改めてレンズと向き合う楽しみが増えました。何より感じたのは、先生の鉄道愛とカメラ愛。お話されている先生の目がずっとキラキラしていて、本当に少年の心を持ち続けていらっしゃる方なのだなと思いました」。