国分真央
写真家。1990年生まれ、東京都出身。映像制作会社、写真事務所勤務を経て独立。2020年に東京都から山梨県に移住。独特な色合いと自然が溶け込むような、独自の世界観を作り上げた写真を生み出している。書籍の表紙や広告、CDジャケットなど幅広いジャンルで活躍中。
RICOH GR IIIx
本体約232gで片手にすっぽりと入るコンパクトサイズのボディに、高解像度、高コントラストでシャープな写りが美しいGRレンズと、精緻な描写力を実現するAPS-Cサイズの大型イメージセンサーを搭載。1996年の発売以来、初となる26.1mm(35mm判換算約40mm)の焦点距離を持つ機種として、2021年に登場。以来、フォトグラファーもちろん、写真好きやクリエイター、タレントなど、さまざまな人から支持され続けている。レンズの明るさを示すF値はF2.8~F16。タッチパネルでの操作もでき、撮影のレスポンスに長ける人気モデル。
Column.1 日常に転がる小さな発見を、自分の感性で表現する
PM3:00。この日、家にたくさんある卵の色が、一つひとつ違うことに気がつき、並べてみると家に飾っているお気に入りの石と大きさが同じで、合わせて撮りたいと思った。
午後は陽の光が部屋へと差し込む時間帯。レースのカーテンから落ちる光と影の元に卵を並べてみると、ひときわ美しく見える。それぞれが少しずつ異なる卵を見ていたら、十人十色に感じられ、そんな様子を写真で表現したいと思った。
グレーの木目のテーブルに載せて撮影をしていたが、どうもしっくりこない。そこで英字新聞を敷いてみると、被写体の卵の色がより映えて、“仲間”に見立てた石の主張もしっかり出た。
GRはコンパクトさがとても気に入っていて、それゆえに作品を撮るときのハードルが圧倒的に他のカメラと比べて低い。これはGRだからこその感覚だと思っている。ただ、私はテーブルフォトなど、構図を模索するような際、GRを使うことがある。このときもそうで、ハードルが低いながらもただ撮ればいいという気持ちにはならず、クオリティの高い作品性も意識できる点は、GRだからこそ得られるものだと感じている。
Column.2 大雪の日、雪をまとう枯れた紫陽花に惹かれて
関東にもたくさん雪が降った日、GRを手に散歩がてら近所の公園へ。雪は私のすねの辺りまで積もっていて、近場といえども公園に行くのは一苦労だった。
園内を歩いていると、枯れた紫陽花に雪がいい塩梅で積もっているのを発見。冬を感じる枯れた紫陽花にやわらかい雪が積もった景色はとても繊細で、印象的でもあり、惹かれるものがある。長靴を履いて、服装も完全防備の状態で、写真に残そうと足を前へと出しながら必死になってシャッターを切った。
それでも雪がすごくて思うようには近づけず、トリミングのような要領で画角を変えられるGRの「クロップモード」を使うことに。71mmの焦点距離を選択し、撮影。日の丸構図でもよかったが、少し後ろにある紫陽花も写し込みたいと思い構図をずらし、その分余白を取り入れた。ここの公園は自然が豊かだ。撮影してみると紫陽花の背景は森のようになっていて、奥行きが感じられる。撮っていたときは紫陽花にばかり集中していたが、今となっては背景の雰囲気も含めて、お気に入りの1枚となっている。
Column.3 顔を寄せて見た景色に抱く、生と死の対比
同じ雪の日。紫陽花は公園に群生していて、ふと足もとの紫陽花にも目が向いた。ぐっと顔を近づけて見てみると、被写体が持つ繊細さがさらに強く感じられ、すかさずシャッターを切った。
枯れた紫陽花とそこに積もる雪。私は水である雪を生と捉え、枯れた紫陽花を死んだものと見ていた。その対比もまた、惹かれる理由だったのだと思う。
あまりの美しさに、このアングルを見つけたときは感動を覚えるほどだった。葉脈の模様がきれいで、これは「マクロモード」で撮ろうとすぐに思った。結果、さらに繊細さを感じられる1枚になったと思う。背景の雪や紫陽花に積もった雪が白飛びしないよう、露出に気をつけ、少し暗めに撮影した。
Column.4 まるで人の感情を表すかのような、光と影と色
時間を見つけては、日常的に実験を含めた撮影をしている。このときも、自宅で水を使った実験的撮影をしていた。
絶え間なく混ざり合う水に、小道具を使って発生させたプリズムを映し出す。揺れる水面と不規則な光の動きが融合する様子はあまりに美しく、夢中になって撮影をした。
最初は花を水に浮かべて撮影していたが、シンプルに水だけ揺らして撮影してみたらとても好きな写真になった。何枚も撮影をし、一番きれいだと思った1枚を選定している。光と影と色が混ざり合う瞬間は、まるで人の感情を表すメタファーのようでもあった。
被写体との距離を持たせたくなかったので、「マクロモード」で水面ギリギリまで寄って撮っている。逆光だと水の揺らぎが白飛びしてしまったため、光の向きは半逆光に。プリズムも光を当てすぎると色が出ないので、シャドウ部分にかかるよう位置を調整した。
Column.5 雪を背に、しっとりと咲く椿の花の美しさ
枯れた紫陽花を撮ったのと同じ日、道すがら出会った椿の花。自分の身長と同じくらいの高さで咲く1輪と視線が合った。花の上に積もった雪は結晶のように固まっていて、なんとも美しい姿を椿は湛えていた。
雪が降っていて、傘をさしながらの撮影だった。それでもGRの手ぶれ補正はかなり優秀で、難しい高さでも片手できれいに撮ることができた。主役の椿から覗く、おしべの花糸に目線がいくようにしたいと思っていたところ、写したい部分にきちんとピントが合ってくれたことにも嬉しくなった。明るい色の椿を引き立たせるために、背景は暗い葉の部分になるよう狙った角度で撮影している。
Column.6 入念なセッティングで生み出す表現もまた、私の日常
家で花の写真を撮ることがよくある。この日は曇りで、撮影に絶好の日だった。なぜなら、チューリップを、暗く落ち着いた、大人っぽい雰囲気で撮ろうと決めていたから。明るくかわいらしい印象のあるチューリップを、あえて真逆の表情で撮りたいと思ったのだ。
イメージを固めていただけに仕上がりは予想の範囲だったが、水滴が瑞々しさと同時に艶めかしい雰囲気もつくり出していて、撮りたいものを表現し切れたことに満足感を覚えた。
背景の色は被写体と対比させたほうが主役が映え、見る方の目線も被写体に集中する。撮りたい光の角度の半逆光となる位置にチューリップを配置し、後ろに黒い背景布を垂らした。セッティングに満足し、あとはなるべくピントを精密に合わせることを意識して、シャッターを切った。
花びら1枚1枚の輪郭や水滴のつき方、バランスにこだわって撮った1枚は、今見ても美しく、心惹かれる。見る人もまた、何かを感じてくれたら嬉しい。
Column.7 目に留まる情景を、目線の流れのままに表現する
GRを片手に近所を歩いていると、ガードレールから垂れる雪の雫に目が留まり、シャッターを切った。繊細で冬らしい寒さを感じる1枚となったが、このときは作品性よりも、“雪が降った日の、人間の自然な目線の流れ”を表現したかった。
雫にフォーカスを合わせながら、何度もシャッターを切った。被写体を平行に、三分割構図で撮ってもみたが、人工的なわざとらしさを感じ、自然の流れで生まれる目線ではないと思った。そこで、あえて斜めから少し見下ろすようにしてみると、したかった表現に近づき、動きを感じる写真へと印象を寄せることができた。また結果的に、下を流れる川や雪が背景に写り、奥行きを出すことにもつながったと思う。試行錯誤をして導き出したアングルで、雫が滴らないギリギリのタイミングを待って撮影した。
私が思う、RICOH GR IIIxの魅力
本能的でありながら、理性も感じさせるカメラ
コンパクトでとにかく身軽に動けるので、写真を撮る行為そのもののハードルを下げてくれるのがGR。散歩に出かけるときも、さっとコートを着て、ヘッドフォンから音楽を流して、あとはGR1つ持っていけばいい!と思えるカメラです。そこには、スタイリッシュなデザインも関係していると思います。まだフィルムだった頃のGRも使っていましたが、その頃から見た目がほとんど変わっていません。いつの時代にも合うシンプルで無骨なデザインがかっこいい。好みのデザインだとよりテンションも上がるので、撮影にもよい影響が出ると思っています。ボタンの配置などインターフェースもわかりやすく、素早い操作も可能で、目の前の被写体だけに集中することができます。そして何より、GRは撮り手の想いに応える、クオリティの高い写真を残してくれるところが素晴らしいと感じます。思わず撮った写真でも、実は計算し尽くされたかのような写真に見えるGRの描写力。撮影は本能的でありながらも、仕上がった写真には理性もきちんと写っているような絶妙さは、GRだからこそ得られるものだと思っています。「撮るか撮らないかで迷うくらいなら撮った方がいい」と思えるカメラであり、そうして心のままに撮ることがGRの魅力でもある。日常のさまざまなものを見る力を、一緒に鍛えて成長させてくれるような、今となってはまさしく“相棒”のような存在です。
RICOH GR IIIx 製品情報
小型化と高感度・高画質の高性能化を両立した、最強のスナップシューターに、焦点距離40mm相当(35mm判換算)のレンズを採用した人気モデル
オープン価格