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プロフィール
金本凜太朗
写真家 1998年生まれ、広島県出身。小学3年生の頃、趣味だった野鳥観察をきっかけに写真を撮り始める。2020年に東京綜合写真専門学校卒業後、東京を拠点に活動を開始。雑誌や広告の撮影をはじめ、写真展の開催やZINE制作など、幅広いジャンルで精力的に活動中。
愛用カメラ:Nikon D750、SIGMA fp Lなど
愛用レンズ:TAMRON 28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD、SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art、AI Nikkor 50mm f/1.4など
My Identity Through My Theme
熱狂の中の無知
ballpark
「微動だにしない審判と、青い服を着た選手2人が綺麗に三角形のフォーメーションを作っていました」。
無知の自分が置かれている状況がとても新鮮で面白かった
「カープ対ベイスターズの試合は、アウェイにもかかわらず赤いカープファンで埋め尽くされていました。その熱狂的な雰囲気を、望遠レンズでフレームいっぱいに観客を入れ込み、意図的にシャッタースピードを落として撮影」。
「知人に誘われて野球観戦に行ったのですが、私だけ野球のルールが分からなかったんです。そんな無知の状態を敢えて活かせないかと、傍観者として試合とそれを取り巻く環境そのものを観戦してみようと撮り始めたのが、この『ballpark』『keiba』シリーズです。直線や曲線・無機質な空間に人が集まっている・意外性があるなど、私が興味を惹かれる要素が集約された空間が、まさに野球場や競馬場のような場所でした。周りの人はそこで起こっている事象に熱狂している中で、無知の自分が置かれている状況がとても新鮮で面白く、海外に行ったとき特有の感情や、写真を始めたころに似た感覚が少し蘇った気がして、試合が終わるまで無我夢中で撮影していました。当時は写真学生として勉強していく中で、作家性やテーマ性が問われるようになり、自身の作品に対してもこのままでいいのかと悩んでいた時期。野球場・競馬場での体験と、そこから生まれた作品がとてもしっくりきて、今はこのまま好きなものを撮り続けていこう、という自信に繋がりました」。
傍観者として、試合とそれを取り巻く環境そのものを観戦した作品
「神宮球場で行われていた大学野球の決勝戦。表彰式で盛り上がる中、雑踏から少し離れたところにポツンと落ちていた弁当のバラン。妙に哀愁が漂っていてストーリー性を感じさせる写真に」。
撮影した場所の空気や温度が感じられる要素を少しでも入れ込みたい
keiba
「初めて競馬場を訪れたのは2018年の天皇賞秋の開催日。最寄駅から直結する、黄色いドーム状の長い通路を歩いて競馬場へ向かった。通路には歴代の名馬の写真が等間隔に展示されていて、競技場に近づくにつれて胸が高まっていった。一方向に絶えず人が流れていく中で、思わず足を止めて撮影した」。
「私の作品は撮影したままの状態では理想のイメージからかけ離れていることが多いので、撮影時のイメージを完成させるために、トリミングや色調整など撮影後のレタッチは欠かさず行っています。これまで作品に対して意識的に自分らしさを見出そうとせず、ただ純粋に楽しみながら、遊ぶように写真を撮り続けてきました。だから自分らしさが何なのかは未だにはっきりとはわからない。むしろ、作品を見ていただいた方々から客観的にそれを教えてもらうことが多いかもしれません」。
「実は本物ではなく、屋外の芝生エリアに展示されていたロボットの馬。緊張感の漂う観客エリアとは対照的に、開放的で心休まるような空間も同時に存在しているギャップが面白くて心惹かれます」。
「こんなに芸術的な競馬新聞の陳列を見たのは初めて。競馬場は意図的なカオスと偶然的なカオスがごちゃ混ぜになった、パラレルワールドのような不思議な感覚に陥ります」。
「地面にはそこら中に馬券が散乱していて、そのまま投げ捨てられたようなものからクシャクシャに折り曲げられたようなものまで、レース後の人々の感情がその形に現れているようでつい注目してしまう。コースに向かって開けた競技場は周りに遮るものがなく、斜めに綺麗な影が落ちていた」。
GENIC vol.71【My World, My Essence 私の写真世界】
Edit:Izumi Hashimoto
GENIC vol.71
2024年7月号の特集は「私の写真世界」。
写真は生き様が反映されるアート。何を感じ、何を受け取って生きてきたのか。写真に投影されるのは、自分自身です。自分らしさとはいったい何なのか?その回答が見つかる「作品」特集。私の写真世界へようこそ。