加瀬健太郎
1974年生まれ、大阪府出身。写真家。ポートレート、ファッション、フードなど幅広いジャンルの撮影を手がけるほか、エッセイ執筆や童話作家としても活動。東京新聞にて「お父ちゃんやってます!」連載中。
【BIOGRAPHY】
1997年 大阪ビジュアルアーツ夜間部
1999年 東京の写真スタジオに勤務
2003年 London college of printing PPP コース
(現London College of Communication)
2007年 帰国後、写真を生業にする
2008年 『スンギ少年のダイエット日記』出版
2015年 『撮らなくても良かったのに写真』
2017年 『お父さん、だいじょうぶ?日記』
2021年 『お父さん、まだだいじょうぶ?日記』
RECENT WORKS
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「Sports Graphic Number 1047号」(文藝春秋)中吊り広告。
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カタログなど。加瀬さんが撮影した「クイック・ジャパン別冊 芸人雑誌volume6」フースーヤ版(限定版)(太田出版)の表紙。
そこに愛はあるのか
イギリス留学中の出会いが初の写真集に
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『スンギ少年のダイエット日記』(リトルモア 2008)
もともとは映画の方に興味があったのですが、映画学科のある大学は全部落ちまして、1つだけ受かった経営学科に進みました。
本屋さんで写真集を見ていて写真に興味を持ち始め、就活から逃げるように写真学校の夜間部へ。そこで出会った阿部淳先生は写真も素晴らしく、人間的にもとても面白い方で、今でも僕にとっての「先生」です。
初めてのカメラは学校で勧められてNikon FM2を買いました。
卒業後は商業カメラマンになろうと上京し、作品を発表するような写真家を志すも、才能のなさに頓挫。
スタジオも1年で辞めてしまったのですが、一念発起して27歳の時、ファッションフォトグラファーを目指しロンドンへ。
イギリスでファッションフォトの経験があれば、日本の雑誌関係者にウケそうだという邪な考えのもと留学しました。行ってみると楽しかったので気がつくと予定より長く滞在することに。最初、田舎の方に住んでいた頃にスンギ少年と出会い、ダイエットを手伝うことになります。その後ロンドンに移って、学校に通ったり、モデルを撮影したり、どれもいい経験でしたが、形になったのが『スンギ少年のダイエット日記』だけだったので、頑張ったからといって、後々自分の中で大きなものになるとは限らないんだなと思いました。ただ行くまでは日本の写真界しか見えてなくて、そこでの流行がすべてのように感じていましたが、世界は広いなと気づけた点でもよかったと思っています。
写真家人生のスタートとなった写真集 『スンギ少年のダイエット日記』
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ある日、話しかけてきたスンギは、僕が日本人だから何でも知っていると思っていた節があり、痩せたいし、強くなりたいし、女の子にもモテたいから、ダイエットを手伝ってほしいとお願いしてきました。写真を撮っていたのは、ついでみたいなものです。だから意図がない素直な写真になったのかなと思います。スンギには手作りの写真集をプレゼントしました。
帰国後、母が病気になり、僕がやっていけるところを見せたくて、出版社に写真を持ちこみました。1週間ほどで決まったのは異例だったようです。無名の僕が本を出せたというのは対外的にも、自分の自信的にもすごく大きかったので、出版社のリトルモアには感謝しかない。作風もスタイルも確立する前にこの本が出て、自分はこんな感じだったのかと逆に教えてもらった感じです。
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サマーホリデーで暇な間、走るスンギを自転車で追いかけていました。ちなみにダイエットは成功していません。本が出ると決まった時、スンギは日本で有名人になると喜んでいました。なりませんでしたが。
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今も連絡は取り合っていて、コロナ禍前にアフリカまでスンギの結婚式に行きました。ちょっと前に女の子が生まれたそうです。
写真は自分の意図を超えて自分のことを教えてくれる
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留学前に写真家を目指していた時、自分の空っぽさに気づいて断念しました。空っぽなら空っぽなりにやっていけばいいと思えたのは、スンギの本が出た時。それまでの僕は、自分の中の何かを写真で表現しようと苦戦していましたが、僕には違うやり方が合うと気づいた。そうやって写真が自分の意図を超えて、自分のことを教えてくれるところが僕は好きです。
写真家は「自分は写真家です」と名乗れば、その瞬間から写真家になれるので、目指すものではないと思うようになりました。
人気があるとか世界的に有名とか、評価は自分だけで決められるものではないので、あてになるものではないです。それよりも今、自分が撮っている写真と相談をしつつ、写真で作品を作っている状態が楽しければ続ければいいと思っています。
今、僕は名刺を写真家という肩書きにして、もっと作品を作るんだよと自分に思わせています。理想は家族が食べていけて、自分の好きな写真が撮れればいい。
細々とずっと写真を続けていきたいです。それで少し人から褒められたい。
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写真は、そのこと、モノ、人と関わった記念。撮る時は、そこに愛はあるのかと考えます。これは最近たまたま撮って、のんきな感じとシュールなところがしっくりした作品で、タイトルは「アウトドアブーム」。長野・白馬の「KIT」という友達の始めたギャラリーで、8月に「続、撮らなくてもよかったのに写真」の写真展と子ども向けのワークショップをした時に出した写真です。
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『撮らなくてもよかったのに写真』(テルメブックス 2015)
大喜利ではないですが、ブログに写真を1枚、タイトルをつけて載せていた「撮らなくてもよかったのに写真」のプロジェクト。当時スナップ写真に夢中になり、熱に浮かされるように撮っていました。その頃ちょうど東北の震災がありまして、周りの写真家たちがいろいろな活動をする中、お気楽に写真を撮っているのも肩身が狭いような心持ちで。でも僕が撮りたいのは、普段の生活の”撮る”に足らないように思えるものの中にある、と思ってやっていました。
それが何年かすると、マンネリ化したのか、気持ちは前のめりなのですが、以前ほど世界が新鮮に見えなくなって。前に進むために一度まとめてみた写真集です。今も在庫が家に山積みで、妻には「作らなくてもよかったのに写真集」と言われています。
夢中になって撮った「撮らなくてもよかったのに写真」
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"親"として撮っていた写真がブログ→本→連載へと発展
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『お父さん、だいじょうぶ? 日記』(リトルモア 2017)
「撮らなくてもよかったのに写真」を熱中して撮っていた合間に、生まれたばかりの子どもの写真を普通の親が撮るように撮っていただけなのですが、「撮らなくて…」の方が自分の中で落ち着いたのを機に、たまっていた子どもの写真をブログに載せてみました。ノリで日記的なことを書いたら自分的にも面白くなり、周りの人も楽しみにしてくれて、気がついたら本も出て、連載もしている感じです。
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何かにしようと思って始めたわけじゃないのに、自分にとって作品を超えた大切なものになって、形に残せた。もし家が燃えても、この本が残っているので、僕はラッキーだなと思っています。子どもを連れて電車に乗ったり、外食したりする時、よその家族の子どもが騒いでいると、少し安心するんです。大変だもんな、うちだけじゃないよなって。子育て世代の人にとって、この本がそういう存在であってくれたらいいなとは思っています。あと、くすくすしてもらえれば満足です。
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写真は可愛いなと思った時に撮ります。
仕事では、いい写真を撮るということにスタッフ一丸となって頑張りますが、子どもを撮る時は、道路に飛び出ないかとか、コップを割らないかとか、いい写真を撮ることよりも重要なことがいっぱいありすぎて、いつもついでに撮っている感じです。生まれた時からずっと撮っているので、子どもたちも撮られるのは自然なことだとは思いますが、最近は長男が撮らせてくれない時もよくあります。思春期です。
GENIC vol.64【写真家たちの履歴書】
GENIC vol.64
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GENIC10月号のテーマは「写真と人生」。
誰かの人生を知ると、自分の人生のヒントになる。憧れの写真家たちのヒストリーや表現に触れることは、写真との新たな向き合い方を見つけることにもつながります。たくさんの勇気とドラマが詰まった「写真と歩む、それぞれの人生」。すべての人が自分らしく生きられますように。Live your Life.