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【記録と記憶-ドキュメンタリーポートレート:5】小野 啓

目の前に人がいれば、何かが起こり、心は動く。撮らずにはいられない衝動を、記憶にとどめたい瞬間を、ありのままに記録するドキュメンタリーポートレート。それぞれの視点で、さまざまな表現で、誰かの人生の一瞬を切り取る6名の写真家とその作品を紹介します。
5人目は、日本全国の高校生を20年にわたり撮影し続ける写真家・小野 啓さんです。

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小野 啓

写真家 1977年生まれ、京都府出身。2002年より日本全国の高校生のポートレートを撮り続けている。2006年、写真集『青い光』(青幻舎)で注目され、2013年刊行の『NEW TEXT』(赤々舎)で第26回「写真の会」賞受賞。乃木坂46のジャケット写真や『桐島、部活やめるってよ』(朝井リョウ)、『アンダスタンド・メイビー』(島本理生)など装丁写真も数多く手掛ける。近著に『男子部屋の記録』(玄光社)、2022年刊行の『モール』(赤々舎)がある。
愛用カメラ:Mamiya 7II、PENTAX 67II
愛用レンズ:Mamiya N 80mm F4L、SMC PENTAX 67 90mm F2.8

高校生から見える時代

2002年

「初めて撮った、一人目の高校生の写真。ルーズソックスがぎりぎり生き残っていた時代です。不思議とこの最初の1枚から、作品として成立するという手応えを感じていました」。

「上の写真を撮った学校の向かいで撮影。田園風景が映画『リリィ・シュシュのすべて』を彷彿とさせました」。

「自ら被写体を選ばず、図らずも募集という方法をとったことで、社会学的な試みとも捉えられるような、撮影者の主観を超えた、広がりを持つ作品になったと今では思っています」と小野さん。
今回の写真はすべて、写真集『NEW TEXT』の作品。

高校生を撮ることは、その年齢にしかない姿を捉えられると同時に時代の姿を捉えることにつながる

2006年

「目が印象的だった広島の高校生。撮影してから9年後に、NHKのTV取材で会いに行きました。撮影した高校生には、いつも2Lサイズほどのプリントを送っているのですが、再会した時もまだ写真を大切に持っていてくれて。当時を振り返り、写真を撮られることで前に進むことができたと、涙をこぼしながら話してくれました。ある程度、時間が経ってから写真の意味がわかってくる場合も多いのかなと思っています」。

2007年

「やはりガラケーが時代を感じさせる1枚です」。

2008年

2009年

「町屋良平さんの小説『しき』の表紙にも起用されました」。

彼ら彼女らが何を考え、どう生きているのか?それが知りたかった

「写真の専門学校時代に撮った高校生のポートレートが初めての作品で、そこがキャリアの始まりです。以来ライフワークとして撮り続けてきた『NEW TEXT』は今年で20年になります」。
小野さんが高校生を被写体に選んだ理由は、「人はもっともわからない存在なので、ぼくは人を撮ることへの関心があるのだと思っていますが、中でも高校生はとにかく気になる存在でした。彼ら彼女らが何を考え、どう生きているのか、写真を撮ることで、少しでもその答えに近づけるのではないかと思ったんです」。
被写体は、募集するのが小野さんのスタイル。
「募集方法の20年の変遷も興味深いのですが、最近はSNSで、Instagramが中心です。できる限り日本全国すべての応募者のもとへ赴いて撮影しています。応募者とは事前にメール(DM)で、なぜ撮られたいと思ったのか、どこで撮影するのかなどを相談。コロナ後はどういう写真にしたいのかも含めて、より細かなやりとりをするようになりました」。
小野さんが高校生を撮影する時に心がけているのは、「向き合って撮るということ。スマホで撮り合うことに慣れている高校生からすると、中判のフィルムカメラで撮られるということ自体が儀式的な演出になっているようにも思います。特にポーズの指定をすることはありません。彼らに伝えるのは、自分らしくいて欲しい、ということだけです」。

撮影を積み重ねていくうちに気づいた人の背景の重要性。写真には"時代"が映り込んでいる

2010年

「関東郊外のロードサイドに飲食チェーンなどが立ち並ぶいわゆる“ファスト風土”的な風景でのポートレート」。

「日本最大のモール、越谷レイクタウンができて間もない頃。この2枚は、日本の郊外風景について考えるきっかけになり、そこから生まれた作品は写真集『モール』へと繋がりました」。

2014年

2019年

撮影場所は事前に希望をヒアリングして決めているという小野さん。
「通学路や学校の教室、よく行く場所や部屋など、被写体の考えや意見を受け止めることを大事にしています。もともと制服の着こなし・髪型・メイクなどの変化を追い続けたい気持ちはありましたが、数年経ってから、人の奥にある風景の変遷は、日本の変遷だと気づきました。時間とともに写真の枚数を積み重ねてきたことが、日本の変化そのものを捉えることになる、そこに意味を見出せた時から作品をもっと大きなものとして考えるようになりました」。

2022年

「今またルーズソックスを選ぶ高校生が増えているのが興味深いです」。

「長髪の男子は珍しいので、90年代のキムタクみたいですねと言ったら、長髪メンズで検索すると当時の画像が出てくるので参考にしているとのこと」。

「新宿歌舞伎町の雑居ビルの狭間で撮影」。

「スクランブル交差点で撮りたい理由は、平成の高校生への憧れがあるから。いろいろなことに縛られている今の自分と比べ、何者にも縛られていない自由を感じるそう」。

コロナ禍以降、高校生の気持ちの変化で作品を撮る意味を強く実感

「高校生のポートレートにおいて、コロナ前後で変化を強く感じています。撮られたいという被写体の気持ちがこの20年間でもっとも強く、この作品を撮る意味があるともっとも感じました。コロナによってあらゆる行事や機会が失われ、行き場のない気持ちを1枚の写真に残したいという想いが強まったからだと思います。写真(作品)は得てして個人的なものになりがちですが、ぼくが写真を撮ることによって誰かのために何かできるかもしれない。写真をやっていてよかった、と心から思えた経験です」。
そんな小野さんが今の高校生に伝えたいのは、「自分1人ではないこと。そう勇気づけられたらいいなと思います。その一環として写真集『NEW TEXT』を図書館へ寄贈するプロジェクトも行ったのですが、実際に励まされたというメッセージをもらうこともあり、それは何事にも代えがたい喜びでした。写真集は一時的なものではなく、後世に残るもの。今の高校生が、約10年前の写真集から何かを感じ取ってくれた事実が何よりもうれしいです。ちょうどこれから2002~05年に撮影した元高校生たちと再会するドキュメンタリー番組の取材が始まります。30代半ばを過ぎた彼ら彼女らが、その後どういう人生を歩んできたか、どう生きているのかを訪ねて聞くことで、この20年の日本を紐解くというテーマです。そういった撮るだけで終わらない、撮った後についても、今後考えていきたいと思っています」。

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GENIC vol.65【「記録と記憶」ドキュメンタリーポートレート】
Edit:Akiko Eguchi

GENIC vol.65

GENIC1月号のテーマは「だから、もっと人を撮る」。
なぜ人を撮るのか?それは、人に心を動かされるから。そばにいる大切な人に、ときどき顔を合わせる馴染みの人に、離れたところに暮らす大好きな人に、出会ったばかりのはじめましての人に。感情が動くから、カメラを向け、シャッターを切る。vol.59以来のポートレート特集、最新版です。

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