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プロフィール
大矢真梨子
フォトグラファー 日本大学芸術学部写真学科卒業、日本大学芸術学研究科 映像芸術専攻博士前期課程修了。自身の記憶と対峙し、内に秘めた光景を独自の色彩感覚で表現する作品を発表している。近年の展示『La lumière』(2024、アニエスベー ギャラリー ブティック、アニエスベー KYOTO BAL)、『東京好奇心 2020渋谷』(2020、Bunkamura ザ・ミュージアム)
My Identity Through My Theme
彩生
「光や色彩は心の喪失感と比例するように複雑で、自身の交錯する心情をより表します」。
感じるままに撮影することで、想像を超えた景色に出会える
「花や植物を捉えたシリーズは、今の私を表す作品です。様々な光や色彩が混じり合う複雑な光景に自身の心情が重なります。私は過去の体験により、あるときから心の中にあったはずの明るい色彩が失われてしまいました。深い暗闇の中にいるような気持ちがいつしか限界になりそうだったとき、その苦しみの原点となった場所に戻り、数年間にわたり撮影をし作品を作りました。そこで時間をかけて自分が歩んできた過去と向き合ったことで、目を背けたかったそれまでを受け入れ、前に進む一歩を踏み出せたのです。生き苦しかったあの時間は、今に繋がる大切なかけがえのないときだったのだと確信してから、徐々に意識を外の世界へ向けることが可能になりました」。
自分に足りない明かりを撮ることで補い、自らを“彩生”する
「教会のステンドグラスを捉えたシリーズから始まり、やがて屋外で撮影するようになり、現在の花や植物のシリーズへと至ります。自分に足りない明かりを撮ることで補い、自らを彩生していく。それが作品の根底にあります。作品としては、華やかで明るいイメージが先行すると思いますが、光や色彩が強いほど、それは自分の心の状況とは対極であり、心の中の暗闇に光をより多く取り込みたいという気持ちの表れになっています。内に潜む感情や想いを何かで表現したいと考えていた、あの苦しかった頃を振り返ると、カメラを手にしたことは必然だったのかもしれません。ファインダーを覗きシャッターを切る行為は、心のミラーに光を当てるような感覚と共に、その一瞬一瞬が呼吸のように大事な時間です」。
私にとって写真は生きる術、呼吸のようなもの、無くてはならないもの
「私の原点である、思春期の6年間を過ごした女子校寄宿舎を撮影したシリーズ『HOME』(2009年から数年撮影)。私にとっては、すべてが真っ暗な厳しい時代でした。そのとき失ったものに、今もなお苦しみ続けていることは変えられませんが、写真と出会い、後にこの作品を制作したことで、ずっと目を背けていた過去を受け入れることが出来ました。現在こうして写真という自分の表現を見つけることが出来たのも、この時期の経験があったから。生き苦しかった時間はその一方で、今に繋がる美しい時間だったのかもしれないと気づきをもらった、人生のターニングポイントとなった作品です」。
GENIC vol.71【My World, My Essence 私の写真世界】
Edit:Izumi Hashimoto
GENIC vol.71
2024年7月号の特集は「私の写真世界」。
写真は生き様が反映されるアート。何を感じ、何を受け取って生きてきたのか。写真に投影されるのは、自分自身です。自分らしさとはいったい何なのか?その回答が見つかる「作品」特集。私の写真世界へようこそ。