光のお祭り/ぽんずのみちくさ Vol.32
光のお祭り。そう聞いたら、どんなものを想像するだろうか。
インドに「光のお祭り」があると聞いたとき、私が思い浮かべたのは、映画ラプンツェルのあのランタンを飛ばす名シーンのようなものだった。
そのお祭りの名前は「ディワリ」。ディワリとは、ヒンドゥー教のお祭りで、日本でいうお正月に似ている。家族で集まり、新しい一年の始まりを祝う一大行事だ。また、ディワリの前に買い物をするのは縁起が良いと言われているらしく、大規模なセールやイベントで盛り上がる。
「光のお祭り」と呼ばれるのは、もともとディワリのときに素焼きの器に火を灯す伝統があったからだという。現代では、クリスマスのイルミネーションのような装飾を施すところも多いのだとか。
ここまで聞くと、なんだか穏やかなお祭りに聞こえるだろう。家族で集まって新しい年の幸福を祈る、光のお祭り。
去年の秋、私はたまたま、その光のお祭りに居合わせた。一年で一番盛り上がるというお祭り、いったいどんな景色が待っているだろう。
しかし忘れてはいけない。ここはインドだ。
ディワリの始まりを告げたのは、穏やかさとは対局にある爆発音だった。
ドガン!何かが破裂する音が、聞こえる。不穏な響きは、だんだん増えていく。遠くから、そして近くから。ドガンドガン!ついに今いるビルの目の前の通りからも、ドガン!が聞こえた。建て付けの悪い窓のガラスが、ビリビリと揺れる。
そう、ディワリは、ほんわか可愛いキャンドルのお祭りではない。ドカドカ爆竹を破裂させボンボン花火を打ち上げド派手に祝う祭りだったのだ。大人はもちろん、幼稚園生くらいの子どもでさえ楽しそうに爆竹に火をつけている。
怖がっていると、子どもたちが嬉々としてこちら目がけて仕掛けてくるので、平然とした顔で(かつ、そのあたりを悠々と闊歩している牛と野犬とその落とし物を避けつつ)歩かなくてはいけない。土地に慣れていない旅行者にはなかなかのハードモードだ。そのあいだもずっと爆音はやまない。
夜になり、宿のオーナーに「あなたもパーティーに来ないか」と誘われた。オーナーの娘に手を引かれるがままについて行った先は、ホテルの中庭だった。
ヒンズー教徒はお酒を飲まないと聞いていたけど、今日だけは無礼講なのだろうか。見るからに高級そうなウィスキーが、参加者たちに振舞われる。ほどなくして民謡音楽の演奏と、見事な舞が始まる。
拍手をしたあとはみんなで手をとって、参加者たちも踊り始める。飲めや歌えの大騒ぎとは、まさにこのことだ。
止まない爆発音と、気まぐれに空に上がる花火、そして歌、踊り。最初に予想していたお祭りとはまったく違う強烈な姿だったけど、ディワリはとても鮮やかで、パワーに満ち溢れていて、途方もなく今「生きている」と感じるお祭りなのだった。
ぽんず(片渕ゆり)
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。