古性のち
フォトグラファー/BRIGHTLOGG,INC 取締役 1989年横浜生まれ。世界中を旅しながら「写真と言葉」を組み合わせた作品を作る。飾らない日々をドラマチックに表現することが好き。
愛用カメラ:NikonZ 6II、FUJIFILM X-T3。愛用レンズ:NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S、XF23mmF1.4 R。
"チャイを飲む"のわくわく感
「グラスが本当に可愛く、飲み物を注いだときの美しさがたまらないので、背景に抜け感があり、部屋の中で一番綺麗な光が入る場所を探して撮影。日本ではインド風がチャイと認識されていますが、世界的にみるとチャイ=茶。手前はタイ風、奥はトルコ風です」。
カメラ片手に世界中を旅してきたのちさんが、チャイに恋したのはインドを訪れたとき。
「旅行中、マサラチャイを囲んだコミュニケーションの場に遭遇して。朝早くからチャイ屋さんの前に座り、みんなで熱々のチャイをおいしそうに飲んでいる姿に、こんな楽しみ方があるのか!と衝撃を受けたのが始まりです。もちろん味も好きですが、チャイを取り巻く道具や器のわくわく感にも惹かれて。そういうものを含めてチャイを飲む”という文化を日本にも広げられたらと思い、チャイ関連のブランドを起ち上げることにしました」。
理科室での実験を思い出す、チャイを入れる課程や同道具たち
グラスの中身はチャイを凍らせた"チャイ氷"。「これは何?と思ってほしくて、ドリンクなのか、食べ物なのか、あえてわからない雰囲気に。わりと無骨なプロップを選んでいるので、手のモデルも男性にお願いしました。普段、明るい背景で撮ることが多いので、暗い背景にチャレンジ!」。
そんなチャイの魅力をテーブルフォトでも表現しているのちさん。
「チャイの道具たちって、子供の頃の理科の実験を思い出すんですよね。入れる課程や道具の美しさを組み合わせながら撮るのがとても楽しいです。決められた画角の中を自由に、自分の”好き”でめいっぱい埋められるところも魅力的。”ごちゃっと感”があるほうが自分らしいと思って、つい余白をお花やスパイスなどで埋めたくなります(笑)」。
チャイの道具と材料を知ってほしくて撮ったという1枚。「スタンダードなインド風チャイのミックスにピンクペッパーと陳皮を入れてチャイを作るとき、”道具たちが可愛い!”とときめいて撮ったもの。綺麗に並べすぎないことで現地の雑多感を。ちょっと実験道具っぽさも出したかったので、理科室をイメージして、無機質な床に並べました。チャイを撮るときはオリエンタルなムードは残したいので、ガラスの美しさとインド的なごちゃっとした雰囲気をmix させます」。
色気があるなと思ったときが 「おいしい」の瞬間。 私にとって"色気”とは 透明感や儚さなのかも…
チャイという綺麗なものの一部に入ってみたい、その思いを大切に
グラスは清澄白河の「リカシツ」さんのもの。不思議な形を活かすために、まるで花を生けるように椅子の上に置いて撮ってみたそう。「理化学ガラス製品たちが集うお店で出会ったグラス。存在感ある佇まいに一目惚れして、連れて帰ってきました」。
そんなのちさんにとっての"おいしい”とは?
「おいしそう!よりも、その綺麗なものの一部に私も入ってみたい!という気持ちを大事にしたいです。あ、なんか色気あるなと思ったときに”おいしい”を表現できたと感じるのは、私の中の色気はシズル感ではなく、透明感や儚さだからかもしれません」。
瓶の中身はみかんの皮を乾燥させた陳皮。「後ろにボケているオレンジのドライフラワーと色を合わせて。瓶を持つと魔法道具のように見えるのが楽しくて、これ何だろう?を狙って撮影」。
コンセプトは"冬の休日の3時のお茶会”。「高さがあるものは真横からの構図が普通ですが、思い切って自分の目の高さからそのまま撮った写真。レタッチはいつもの自分の作品より、少し暖色寄りに。プロップに合わせてネイルを変えることも」。
Noci’s photography tips
テーブルフォトは プロップ選びが決め手。 撮影前は必ず下書きを
テーブルフォトの良し悪しを左右するのはプロップ選び。必ず下書きして、しっかり事前準備を。のぺっとした写真が一番おいしくなさそうに見えるので、高さがわかる角度を探して、この被写体に対してなぜシャッターを切るのか、どこが推しポイントなのか、考えて撮ります。
タイで暮らしていた頃の朝ご飯。「普通の女の子が、普通に何気ない朝ごはんを食べているというリアル感が欲しかったので、このアングルを採用。色数は3色くらいにまとめると綺麗です」。
GENIC VOL.58 【わたしが創る おいしい世界】
Edit:Yuka Higuchi
GENIC VOL.58
テーマは「おいしい写真」。
口福を感じる料理やスイーツとの出会い、オリジナリティ溢れるフードの創作、こんなシーンには二度とお目にかかれないかもと思った瞬間。様々な表現者たちが繰り広げる “おいしい” の世界を召し上がれ。