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【#地球を縦横無尽に旅する写真家:2】西山 勲

“世界”に焦点を当てた写真家たちをフィーチャー。
これまで私たちが目にしたことがないような景色や、想像したことのないような瞬間など、壮大で美しい、心奪われる地球の光景に出会ってください。
今回は、世界各国を駆け巡りながら取材・撮影・編集を行う写真家、西山 勲さんです。

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西山 勲

1977年生まれ、福岡県出身。35歳でグラフィックデザイナーから写真家に転向。約2年間、世界各地で活動する芸術家を訪ねながら取材・撮影・編集を行い、雑誌Studio Journal Knockを発行。帰国後は関東を拠点にフォトグラファーとして活動する傍ら、同雑誌の発行を続ける。2021年9月に初の写真集『Secret Rituals』が発売。
愛用カメラ:Hasselblad 500C/M、Bessa Ⅲ、PENTAX 67II
愛用レンズ: Carl Zeiss Planar T* CF 80mm f/2.8、SMC PENTAX 67 90mm F2.8、SMC TAKUMAR 105mm F2.8

見た人が、自分も世界の一部なんだと感じる。それが“世界を伝える写真”

デザイナーから写真家に転身し、世界を旅しながら写真を撮っている西山さん。
「デザインの仕事は好きでしたが、ずっと事務所のデスクに座りっぱなしでしたし、成果物はすぐに役目を終えますので、10年経って振り返ったときに自分が作ったものが何も残っていないことに気づいたんです。そんなとき、一緒に仕事をしていた友人がフィルム写真を撮っていて、もしかしたら自分がやりたいことはこれかもしれないなと思うように。それからカメラを持って旅をするようになりました」。

ブラジル、サルバドールにあるポルト・ダ・バーハビーチにて撮影。
「ビーチを散歩していると古い要塞のある丘から張り出した堤防から、次々に海に飛び込んでいく少年たちを見つけました。沈んでゆく夕陽を浴びながら着水するまでのわずかな瞬間が美しすぎて3ロールほど撮影しました」。

西山さんにとって、世界を伝える写真とは?
「見た人が、自分も世界の一部なんだと感じる写真です。今回の写真は、個人的なプロジェクトとして世界のアーティストを撮る活動中、その人に会いに行くための道中に撮った写真がほとんどです。そんな写真には、その時の自分の心のありようが写っているようでとても好きです。これから訪ねる人のことについて、あれこれ思いを巡らせながら目にする風景は、なんだか特別なものに思えます。その中でも”誰もが潜在的に持っている好奇心”をテーマにセレクトしてみました。人が何かに興味を持ち、行う行動や生み出すもの、その過程に興味があります。この世の中に存在するあらゆるモノや出来事は、人の好奇心が出発点になっているのではないか、とさえ思っています。そのように世界を捉えてみることで、目にするものすべてが記号的に見えてくるし、背景にある物語が浮き立ってくるような気がします。人間の叡智や愚かさも含めて、世界はとても滑稽で面白いし愛おしく美しいです」。

ブラジル・リオデジャネイロの路地裏にて。
「クラシックカーを屋根にした、野良猫のための小さな食堂。餌だけでなく水も用意されていること、坂道なので、お皿がずれないように石で支えられていることなど、さりげない優しさを感じます」。

「僕にとっての写真は個人的な興味の追求という側面が強いので、何かを伝えるということはあまり期待していません。だけど写真が見る人の何かしらのきっかけになるといいなとは思っています。僕もそうやって写真に勇気づけられたり、思考を巡らせたり、創作意欲をもらったり、心を動かされ活動の糧にしてきた節があります。伝えるより伝わる、感じる写真が理想。そのためには、自分自身が自分の写真に心動かされ続けなければいけないと思っています」。

「香港の写真家と撮影地を探しているうちにたどり着いた場所。カメラを持った珍客である僕の存在を気にする人はおらず、男たちは皆一様に難しい顔をしてお茶を片手に遊戯に没頭していました。将棋を指すパチンという音が心地よく、その音に重ねてシャッターを切りました。後で考えるとハッセルはシャッター音が大きいので、なるべくその場の空気を壊したくなかったのだと思います」。

自分自身が自分の写真に心動かされ続けなければ、いけない

アメリカ、ネバダ州の砂漠にて、年に一度開催されるバーニングマンでの1枚。
「ザ・マンという造形物を燃やすという儀式があり、全てが燃え尽きてしまった翌朝の風景です。前夜の狂乱から一転、全てが無にかえった何もない荒野をひとり歩く女性がとても印象的でした。朝、散歩しているときにこの光景に出くわし、急いで自分のテントまで走ってカメラを取りに戻ったのを覚えています」。

「キューバ、バラデロで出会った町のなんでも修理屋さんの作業机です。旅の途中、メガネの丁番部分が折れてしまい、眼鏡屋を探したのですが見つからず、人づてにこの修理屋さんに行きつきました」。

世界はとても滑稽で愛おしい

「長距離バスを何本も乗り継いて南米を縦断中、アルゼンチンとパラグアイの国境にある小さな町の小さなバスターミナルでの1枚。朝の掃除を終えたおばさんがあまりにも気持ちよさそうで、自分の眠っていたベンチからそのまま撮影。構図を考える余裕のないほど疲れていましたが、良い構図だったなと後になって思いました」。

西山 勲 Instagram
Studio Journal Knock Instagram
西山 勲 Twitter

Information

写真集「Secret Rituals」(Sunnyside Press)

2021年9月、初の写真集を発売。カメラを持ち旅に出て10年が経ち、ひとつの節目として撮りためた写真を綴じ込めた一冊。テーマは好奇心。ひとが何に興味を持ち、熱中し、どのような行動を起こすのか。そして、ひとはこの世界に何を生み出すのか。全192ページには、そんな自身の好奇心の対象として選んだ被写体、世界各地で活動する個性豊かなアーティストたちの肖像や、彼らに会いに行く長い旅の道程で目にしたランドスケープなどを193点収録。

GENIC VOL.61 【地球を縦横無尽に旅する写真家たちが ダイナミックな世界を伝える】
Edit:Yoko Tadano

GENIC VOL.61

テーマは「伝わる写真」。
私たちは写真を見て、何かを感じたり受け取ったりします。撮り手が伝えたいと思ったことだけでなく、時には、撮り手が意図していないことに感情が揺さぶられることも。それは、撮る側と見る側の感性が交じり合って起きる化学反応。写真を通して行われる、静かなコミュニケーションです。

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