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【撮影と表現のQ&A】西山勲/Q.中判フィルムカメラの魅力は何ですか?

さまざまな写真家、フォトグラファー、クリエイターが登場するQ&A企画。
「知ることは次の扉を開くこと」。
今回は、世界各国を巡りながら取材・撮影・編集を行う写真家、西山勲さんに質問です。

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西山勲

写真家 1977年生まれ、福岡県出身。35歳でグラフィックデザイナーから写真家に転向。約2年間、世界各地で活動する芸術家を訪ねながら取材・撮影・編集を行い、雑誌Studio Journal Knockを発行。帰国後は福岡・鎌倉を拠点に活動中。
愛用カメラ:Hasselblad 500C/M、PENTAX 67II
愛用レンズ:Hasselblad Planar C 80mm f2.8、SMC PENTAX 67 90mm F2.8、SMC TAKUMAR 105mm F2.8

西山勲 Instagram
Studio Journal Knock Instagram
Studio Journal Knock X

Q.西山勲さんが感じる、中判フィルムカメラの魅力は何ですか?

A.繊細さ、浮遊感、緊張感。中判カメラにしか撮れない写真がある

「Hasselbladで撮影する時は、ほとんどルーペを引き出してファインダーを見ているので、構図への意識がかなり曖昧になります。その結果の甘い構図の写真は、僕の記憶の一部のように感じます」。

「中判フィルムカメラの魅力と言えば、もちろん写りの部分での階調の豊かさや、被写体が浮き立つような空気感です。でも手放せない一番の理由は、そのカメラで撮るからこそ写る写真があるから。最初に手にしたフィルムカメラは35mmでしたが、中判カメラを使い始めた時は、その美しい写りに夢中になりました。35mmにはない繊細さに加えて、静けさのようなものも感じました。一枚一枚ゆっくり撮る感覚も、写真の楽しさを知ったばかりの当時の自分にとってしっくりきたのだと思います。自分の写真を白昼夢的だな、と思うことがあります。僕はとても忘れっぽく、一つのことに集中すると視界の周囲がはっきりしなくなるところがあるんです。写真は、そんな曖昧な記憶や視界を補完してくれる存在でもありますが、不思議なことに、そこに写ったものにもそのような曖昧な感覚が現れていると感じることがあります。中判フィルムカメラは2台所有していますが、より自分の感覚に合うのはHasselblad 500/CM。フレーミングの曖昧さ、ファインダーを覗いた時の浮遊感が僕の写真の世界観に馴染む気がします。気をつけているのは、フィルムを惜しんでシャッターが重くならないようにすること。できるだけ軽快な気分で、シャッターを切りたいと思っています」。

西山さんの愛用カメラ遍歴

1 ▶Voigtländer BESSA-R2
「2010年頃に買った、最初の35mmフィルムカメラ。選んだ理由は、単純にデザインが好みだったから」。

2 ▶Hasselblad 500/CM
「2011年頃に購入した、初めての中判カメラ。友人がローライフレックスで写真を撮っていて、その写りの美しさに惹かれ、中判カメラに興味を持ちました」。

3 ▶Voigtländer Bessa III
「レンズが蛇腹式で畳むとコンパクトになるのが気に入り、翌年に計画していた世界一周の旅に向けて2012年頃に購入」。

4 ▶PENTAX 67II
「2014年に雑誌の撮影でロシアに行くことになり、特別なカメラが必要という予感がして購入。荒木経惟さんがものすごい勢いでシャッターを押し、フィルムを巻き上げて撮影する様子を映像で見たことがあり、真冬のモスクワを歩く人々に声をかけて写真を撮らせてもらうという、自分にとって大きなハードルを越えるための景気付けの意味もありました」。

Hasselblad 500/CM

カメラが体の一部のように感じ、不思議な浮遊感を覚える

撮影機材:Hasselblad 500/CM × Hasselblad Planar C 80mm f2.8

「友人の娘さん。ぴたっとくっついたお腹の温もりとか、心臓の震えとか、そうした身体的な親子の信頼の交信がとても美しいと思いました」。

「ファインダーから見える像に、特別なものを感じます。暗い部屋でひっそり映るテレビ画面のような感じ。目の前に被写体がいても、一人きりになれるような感覚。撮影時はカメラを両手で包み込むので、カメラが体の一部のように感じます。ファインダーに映る像が左右反転するからなのか、フレーミングが少しだけ曖昧になって不思議な浮遊感を覚えます。被写体に対してお辞儀をするような格好で撮影するので、他のカメラより一歩対象に近づくことができる気がします。そのためか仕上がりの写真は、どこか親密な関係性が写っていたり、愛らしいものに感じます。
これから中判フィルムカメラを始めたい人には、ぜひHasselbladを使ってほしいです。レンズはHasselblad Planar C 80mm f2.8を、10年以上つけっぱなしにしています」。

PENTAX 67II

意識が鋭利になり、自分の意志を的確に反映させることができる

撮影機材:PENTAX 67II × SMC PENTAX 67 90mm F2.8

「どちらもインド・コルカタで撮影。現地で目の当たりにする異国の空気を写真に留める場合、フィルムでしか表現できない生々しい湿度のようなものがあると信じています。フラワーマーケットの写真は、現地の空気感が蘇るとともに、精細な写りがもたらす情報量は中判ならではだと思います。タクシー運転手の写真は、人物写真でありながら風景写真でもあるような一枚」。

「Hasselblad 500/CMが感覚的だとすれば、PENTAX 67Ⅱは理性的。ある意味、対照的なカメラだと思います。サイズもシャッター音も大きくて存在感があるので、カメラ自体が被写体に与える影響は少なくないのではないでしょうか。その分、撮影時には独特の緊張感が生まれる気がします。なので、僕は対峙する被写体と呼吸を合わせるイメージで撮影しています。対象が撮ってほしいというタイミングを待って撮る感じです。意識を鋭利にしてくれて、フレーミングに自分の意志を的確に反映させることができるカメラです。よく使うレンズは、SMC PENTAX 67 90mm F2.8。標準から中望遠域まで一通り揃えていますが、今の自分には90mmがしっくりきます。中判カメラは重量もスペースもかなり大きいので、できるだけこれ一本、というレンズで迷うことなく撮れる状態にしておきます」。

GENIC vol.67【撮影と表現のQ&A】西山勲/Q.西山勲さんが感じる、中判フィルムカメラの魅力は何ですか?
Edit:Satoko Takeda

GENIC vol.67

7月号の特集は「知ることは次の扉を開くこと ~撮影と表現のQ&A~」。表現において、“感覚”は大切。“自己流”も大切。でも「知る」ことは、前に進むためにすごく重要です。これまで知らずにいたことに目を向けて、“なんとなく”で過ぎてきた日々に終止符を打って。インプットから始まる、次の世界へ!
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