ウズベキスタン、プロフ格闘記/ぽんずのみちくさ Vol.49
先日、旅好きの人たちと話していて、「食事は好きだけど食べきれないことが多くて……」という、“小食あるある” の話になった。厚意で出していただいたものを完食できなくて罪悪感を覚えたり、無理して食べようとして気持ち悪くなったり、なのに「残すなんてわがままだ」と言われたり……。思春期のころは小食の女友達がうらやましかったけど、小食には小食の難しさがある。
かくいう私も、社会人1年目の頃から、食べる量がぐっと減った。生活リズムの変化ゆえか、ストレスのせいか、それとも年齢によるものなのか、理由はわからないけど、突然胃のサイズが変わってしまったかのように、一度に食べられる量ががくんと少なくなってしまった。
タイや台湾のような、屋台や露店で少量をちょこちょこ食べられる場所ならばそんなに問題はない。今まで一番自分の胃と格闘したのは、中央アジアのウズベキスタンに行ったときのこと。
ウズベキスタンには、プロフという伝統料理がある。羊肉や干し葡萄、ニンニクなどが豪快に入った、中央アジアの炊き込みご飯だ。地方によって、味付けや盛り付けもさまざま。
ウズベキスタンを旅した人は、みんな口を揃えて「プロフは癖になる」と言う。私も各地でプロフの食べ比べをしてみたいなと思っていた。
しかしこのプロフ、「チンギス・ハン率いる屈強なモンゴル軍も食べていた」と言われるほどのパワフルな料理。米、油、肉のトリオが揃っていて、お茶碗一杯分でもかなりお腹がいっぱいになってしまう。味もジャンルも全然違うけど、「二郎系ラーメン」にたとえて話す人もいるくらい、中毒性(と、カロリー)のある料理なのだ。
しかも、もてなしの料理として客人に振る舞うことも多いので、宿泊先のホステル・レストラン・仲良くなった人の家……と、一日のあいだに何度も出会うこともある。
プロフ、プロフそしてプロフ。満腹なんてレベルをゆうに超えて、脂汗が出てくる。
ウズベキスタンの首都タシケントには「プロフセンター」なるものまであって、巨大な講堂のような施設で人々が思い思いにプロフを食べている。店の前には、3トンものプロフを一気に作ることができるという大鍋が、ででん!と鎮座ましましている。空腹の人々は、歓声を上げながらプロフが出来上がる様を見守る。
キッズ用のプチプロフなるものをメニューで見つけて頼んでみるも、「ノーノー。きみはベイビーじゃないでしょ」と断られ、しっかり盛られた大人用のプロフが出てきた。
持ち帰りが可能な場合は、食べきれなかった分を持ち帰って宿で食べることもあった(そしてその結果、連続でプロフばかり食べることになり、カナダ人の女の子に怪訝な目で見られることになった)。
プロフに次ぐプロフで、もはや自分からニンニクと羊の匂いが漂ってるような気さえしていた日々はそれなりに大変だったけど、今となってはそれすら懐かしい。もし叶うなら、次は誰か、たくさん食べたい人と一緒に行けば、もっと素晴らしい旅になることだろう。
いつか訪れる次のプロフファイトまで、今は粛々と筋トレでもして備えておくんだ。
片渕ゆり(ぽんず)
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。