筑城俊
PIXTA クリエイティブディレクター・ビジュアルアーティスト。1982年生まれ、東京都出身。フリーのクリエイティブディレクター、コピーライターを経て現職に。ピクスタにてストックフォトのアップデートを図るべく、国内およびアジア各国でビジュアルディレクションを行っている。自身でもカメラを持ち、2020年よりアーティスト活動を開始。2021年にはCritical Mass Top 50入選、ImageNation Milanへの出展歴もある。
愛用カメラ:Sony α7C
愛用レンズ:TAMRON 28-75mm F/2.8、Sony FE 85mm F1.8
感情が蓄積される「自室撮影」で読み物のような写真を創る
世界のだれかに“ひとりじゃないよ”と伝えたい
「2017年からほぼ毎日、なにかしらを撮るようになりました。仕事柄、プロのフォトグラファーの方へディレクションをさせていただくので、写真のメカニカルな部分の理解と、自分が撮らない分せめて視点づくりは日々していないと失礼だろうというところがカメラを構える動機でした」という筑城さん。会社のプロジェクトでアジアを転々としていた時期に、各国のストリートを取り憑かれたように撮りまくり視点を蓄積したことが、現在の写真・創作体力の基礎になっているんだとか。
「“自室撮影”の作品に関してはコロナが強い文脈となっています。それまで寝食をするためだけに存在していた部屋が、いろんな感情の蓄積される“空間”となりました。同じような状況にいる世界中の人々に勝手に想いを馳せていました。自然と撮影はすべて自室で行うようになったんです。もしかすると世界のだれかに“ひとりじゃないよ”ということを伝えたかったのかもしれません」。
Q1 この「自室撮影」の作品はどんなテーマで創られていますか?
「読み物のような写真を創りたい、という想いが思考の出発点であり、そのままテーマにもなっています。それを実現するにあたって、3つのキーワード「1.没入感の醸成」「2.情報の整理」「3.被写体を創る」を仮説として挙げています。1と2に対しては現在の「薄暮と光」による演出というスタイルに相性を感じました。3は、被写体や決定的瞬間を探してそれをどう撮るかでなく、被写体をこちらで組み立てるということなのですが、読み物を目指す以上、脳内イメージと向き合いそれをビジュアライズするというアプローチを取ることが、最低限の礼儀なのかなと自分なりに考えています。だからこそ、被写体は自分であることも多いです」。
Q2 「読み物のような写真」という作風について詳しく教えてください。
「一方通行的に情報が提供される動画と異なり、静物である写真には、鑑賞者の感情を能動的に引き出す可能性があると考えています。そこに写真の価値を見出しているので、驚きや感動の提供ではなく、双方向のコミュニケーションとして、地に足のついた共感を目指しています。今はまだ読み物を創りたいという次元に留まってしまっているのですが、現在の作品の制作を通じてその共感の手応えを強く感じられるようになったら、より良い社会のための写真・ビジュアルのあり方とはなにかを考え、そこへコンセプトの軸足を移したいです。作風の参考にしたわけではないのですが、写真家の植田正治さんの「記録より演出」という考え方には深く共鳴し憧れを抱いています。スナップ全盛であった当時において、その対岸に立つ姿勢にはめちゃくちゃしびれますし、感化されています」。
「薄暮と光」による演出で没入感を醸成する
Q3 レタッチのこだわりはありますか?
「先に挙げた“没入感の醸成”においては、被写体の輪郭が立ちすぎていないという点が大事かなと考えており、まずはそこのコントロールを慎重に行ってレタッチしています。あとはコントラストとハイライトを控えめにすること、そして寒色と暖色の同居をポイントに、シャドーと中間を寒色に、ハイライトを暖色に振ることが多いです」。
Q4 このような写真を撮るための「光」についてのテクニックを教えてください。
「日没直後から真暗闇になるまでのわずかな時間で、撮影をしています。自然光によって被写体の輪郭が残りつつも、メインの光源が華やかに際立つ時間帯なんです。そのため撮影可能な時間は限られており、失敗をしたらその日はもう撮れないので頭を抱えることも(笑)。作品にもよりますが、小型LED Aputure AL-MCと、ケンコーのレンズフィルター・フォギー(B)Nは、頻度高く使用し重宝しています。あとは自転車用のライトやスマホのライトなど、身の回りのものでやりくりしています」。
GENIC vol.61 【あの人たちの感性から学ぶ 想いを運ぶ写真術】
Edit:Izumi Hashimoto
GENIC vol.61
テーマは「伝わる写真」。
私たちは写真を見て、何かを感じたり受け取ったりします。撮り手が伝えたいと思ったことだけでなく、時には、撮り手が意図していないことに感情が揺さぶられることも。それは、撮る側と見る側の感性が交じり合って起きる化学反応。写真を通して行われる、静かなコミュニケーションです。