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写真も語らねばならないもの 別所隆弘/フォトグラファー 文学研究者

写真家・フォトグラファーという職業だけでなく、+αの肩書きを持つパラレルワーカー。写真以外の仕事に携わる理由、そしてそれぞれの仕事がもたらす相乗効果とはいったいどんなものなのか。二足の草鞋を履く4名に、自分らしく生き抜くためのヒントを教えていただきました。
「パラレルワーカーという生き方」1人目は、フォトグラファー/文学研究者の別所隆弘さんです。

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目次

プロフィール

別所隆弘

滋賀県出身。カメラ歴は12年。
愛用カメラ:Nikon Z8、Leica M11
愛用レンズ:NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S、TAMRON 35-150mm F/2-2.8 Di III VXD(Model A058)

What’s Your Job?

<Job1>フォトグラファー

メーカーや地方自治体からの作例撮影など

38歳、滋賀県長浜市の四季の撮影で初めての本格的な「クライアントワーク」。40歳、上記を経験してプロの写真家としてやっていくことを思いたつ。43歳、自分の会社を作って社長に。メーカーや地方自治体の写真コンサルタント、コミュニケーションアドバイザーなど、写真にまつわる他の仕事にも携わるように。

<Job2>文学研究者

大学での教員・講義がメイン

28歳、大学院博士後期課程在学中から、各大学での教員をスタート。主に英語、文学、映画などの講義を担当。文学研究者としては論文を書いたり、学会発表が主な仕事内容です。最近は写真の方がメインとなっていますが、SNSが各クリエイターの主戦場のような状況になった今、「言語」や「文章」が非常に重要な役割を果たしていると思います。

写真も語らねばならないもの

「Nikon Z8の公式プロモーションに採用いただいて、そのときに撮った写真。この仕事をする前、実は写真家として最前線を引こうと思っていました。しかしこの仕事が強い刺激とやりがいを与えてくれました。僕にとって、写真家としての命を長らえさせてくれた一枚だと思っています」。

「近代マグロのいけすをドローンで撮影。近畿大学の年始の一面広告に採用いただきました。主要紙のほぼ全ての一面広告に掲載され、大喜びで各社の新聞を買いに行ったのを覚えています。この年オリンピックだったのもこの写真が選ばれた隠れた理由のよう。その後、日本最大の広告賞である『第88回毎日広告デザイン賞』の最高賞を受賞。一枚で二度美味しい気持ちになった写真です」。

SNS時代の今、写真家以外の個性を持つことが自らの市場価値を上げる

「ニッコールクラブの会報274号の表紙に掲載された写真。日本最古の写真会報誌の一つで、ニコンの伝説的な写真家である木村伊兵衛や土門拳らが1950年代に作り上げた日本の写真文化と歴史を背負った会報誌です。その表紙に掲載いただいたのは本当に嬉しい経験の一つでした」。

「フォトグラファーと文学研究者という二つの仕事を持つことは、メリットばかりだと思っています。SNSが普及し、巨大なインフルエンスを持つ人が無数にいる状況では、写真単体で自分自身の市場価値を維持するのは非常に難しいと感じています。そうした状況下で自分の立ち位置を明確にするためには、写真家以外の個性が必要になります。それが僕にとっては『文学研究者』という肩書きでした」。

写真を撮れば撮るほど、写真と言葉でやれることは結局似ているのだと気づいた

「どちらもGoogle Pixelで撮影した写真。Googleさんには新機種が出るたびに大きな仕事を任せてもらってます。スマートフォン写真という、2010年代から始まる写真の大転換の最先端の部分に関わらせてもらうという点でとてもエキサイティングだし、チームとしてやり続ける互いの信頼感という点でもやりがいのある仕事だと思っています」。

それぞれの仕事が、それぞれの仕事にもたらす影響は?
「写真は、語らねばならぬものだと思っています。写真を含めたすべての芸術は『世界をどう表現するか』に携わっていると思うから。写真はシャッターを切ることで、世界の『視覚的な表現』に携わります。一方言語は、私が見た世界を、言葉という記号に変換して表現します。視覚と言語という違いはあれど、どちらも特有のメディアを通じた世界の表現であることに気がつきました。そうである以上、それぞれは『翻訳』が可能なはず。英語を日本語に翻訳できるように、写真で撮影したものを言語で説明できますし、言語で描写した世界を写真で撮影することも可能です。もちろん写真と言語を完全に翻訳することは不可能ですが、それは同時に可能性でもあります。完全に重なり合わないからこそ、次の創造が生まれると思っています。こうした知見に至ることで、これまで携わってきたすべての物事は、実は相互に影響を与えてきたのだなという理解に至りました。『あなたと私は、同じ世界を見ていない』。これは写真に限りません。我々はお互いに違う世界を見ている、だからこそ表現の希望があると信じています」。

GENIC vol.70【パラレルワーカーという生き方】
Edit:Megumi Toyosawa

GENIC vol.70

2024年4月号の特集は「撮るという仕事」。
写真を愛するすべての人に知ってほしい、撮るという仕事の真実。写真で生きることを選んだプロフェッショナルたちは、どんな道を歩き今に辿りついたのか?どんな喜びやプレッシャーがあるのか?写真の見方が必ず変わる特集です。

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