別所隆弘
文学研究者/フォトグラファー/ライター 滋賀県出身。National Geographic社主催の世界最大級のフォトコンテストをはじめ、国内外での表彰多数。写真と文学という2つの領域を横断しつつ、「その間」の表現を探究している。
愛用カメラ:Nikon Z 8
愛用レンズ:NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
Q.花火を美しく撮るテクニックを教えて
A.花火単体で撮っても写真にはなりづらい。必ず周囲の風景を取り込んで
「こだわりは、ダイナミックなリフレクション。今や西日本で最も人気の花火のひとつになった三重県『きほく燈籠祭』のフィナーレの花火『彩色千輪』を写したもの」。
花火を撮るときは、自分がどの距離で撮りたいのかを決めることが大事
「まず、自分がどの距離で花火を撮りたいのかを決めましょう。花火会場近くでリフレクションを撮るなら超広角が必要ですし、逆に僕がよくやる『数キロ離れた山の上から街ごと撮る』みたいなときは、超望遠レンズが必要です。また、機材全体のチョイスも大切。会場近くなら荷物が少し多くてもなんとかなるので、不測の事態に備えるためにレンズはたくさん持っていくこともありますし、三脚も例えばGitzoのシステマティック6段のようなしっかりしたものを持っていきますが、山の上に行くなら重たい荷物は“命取り”になるので注意が必要。夏の山で花火を撮るときは、誰もが避けたい暑さとの戦いです。撮影機材は必要最低限にして、命を守るための装備を持っていきます。水分と暑さ対策グッズはもちろん、凄まじい量の虫との戦いになるので、大量の虫除けはマスト。それでも異様なほどに噛まれるので、痒み止めも必須です」。
「琵琶湖花火の超定番ポイント『夢見が丘展望台』から撮影した花火と夜景。ここは、誰でも最高の花火写真が撮れちゃう場所」。
思っているよりF値を絞って、シャッタースピードは固定せずバルブ撮影を
「基本的に“確実にキレイに撮れる”という設定はありません。ただ、自分が思っているよりF値は絞って撮るのがおすすめです。花火は白飛びしてしまうと火線の色が出ないので、カメラのダイナミックレンジに収まるように調整を。花火との距離次第ですが、F11スタートにする場合が多く、後半のスターマインではF22あたりの限界まで絞ります。レンズの回折を避けたい人は、NDフィルターも持っていってもいいかもしれません。また、シャッタースピードの固定はNG。花火が混濁してしまうので、(シャッターボタンを押している間シャッターが開き続ける)バルブ撮影で操作します。一番の狙い所は、各プログラムのラストに来る大きな仕掛け花火。花火のプログラムは数分間続いて次に進みますが、ラストの花火は発射台から強烈な本数の火線が飛び上がります。そのタイミングでシャッターボタンを押してください。そしてそれが終わったら真っ暗な周囲の風景の光を取り込むため、すぐにシャッターを離さず、しばらくシャッターを開けたままにします」。
超望遠花火の代表作のひとつ、「PL花火」を撮影した一枚。「数キロ離れた山の上から撃ち抜きました。凄まじい光量で、直下で見ると光の爆発のような花火も、超望遠で撮影すると、街と一緒に全体を写すことができます」。
必ず周囲の風景を取り込んで。とくに花火は水との相性が抜群
「花火だけを撮っても、ただの“花火のサンプル”のような写真になります。これはどんな花火でも同じ。花火単体で撮っても写真にはなりづらいので、必ず周囲の風景を取り込んで。とくに花火は水との相性が良く、そもそも花火は海辺や湖で開催されることが多い。光は水面に反射するので花火の色が水面に反射しすごくキレイですし、ガチガチにリフレクションさせても◎。それを取り込むには山から撮るのがおすすめ。上から俯瞰で撮ると、水面に映る花火の色が入るんです。また、周囲の街を入れた構図にできると、その花火の『地域性』がよく出ます。花火は、それぞれの土地の歴史や文化を背負っているので、可能な限りどこで撮ったかわかるようにしています」。
花火撮影の面白さにハマったら、「新しい花火の撮り方」を探そう
「花火撮影は、最初は失敗ばかりですが慣れてくると簡単。初心者なら、僕の地元の琵琶湖花火にいらしてみてください。比叡山の中腹『夢見が丘展望台』は超有名で、このために設けられたのではないかと思うほど、誰が撮っても最高・最強の花火写真が撮影できる場所。そして花火撮影の面白さにハマったら、新しい花火の撮り方を探してみて。僕は数年前に『超望遠花火』という、花火の撮影距離を遠くする手法を始めました。皆さんも画一的な『最前列ベスポジ花火写真』以外の、これは面白い!と思える花火写真を、ぜひとも発見してほしいです」。
GENIC vol.67【撮影と表現のQ&A】別所隆弘/Q.花火を美しく撮るテクニックを教えて
Edit:Izumi Hashimoto
GENIC vol.67
7月号の特集は「知ることは次の扉を開くこと ~撮影と表現のQ&A~」。表現において、“感覚”は大切。“自己流”も大切。でも「知る」ことは、前に進むためにすごく重要です。これまで知らずにいたことに目を向けて、“なんとなく”で過ぎてきた日々に終止符を打って。インプットから始まる、次の世界へ!
GENIC初のQ&A特集、写真家と表現者が答える81問、完全保存版です。