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プロフィール
山谷佑介
写真家 1985年生まれ、新潟県出身。外苑スタジオ勤務後、移住先の長崎で出会った東松照明氏や無名の写真家たちとの交流を通して写真を学び、作家としての活動を開始。現在は横須賀を拠点に活動。個展「ONSEN」(2024)、作品集『Doors』(2020)、『ONSEN MMXXIV』(2024)などがある。
愛用カメラ:FUJIFILM GFX 50R/X-Pro3、CONTAX T3
愛用レンズ:CONTAX 645 Planar T*80mm F2、XF35mm F1.4 R、XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS
ONSEN
野湯を巡り、 人間の営みや風景の記憶を探る
「カメラを持つか持たないかくらいの大学生の時、バイクで全国各地を回っていて、東北に行った時に野湯の存在を知りました。そのときはまだ写真は旅の思い出くらいの感覚で撮っていました。火山ガスや温泉の成分で草木が生えないような景色に、単純に『すごいな』って感動したんです。あの世とこの世の境目みたいな、地球の創造と破壊を両方感じるような場所で、地獄と呼ばれることにも納得しました。そのうち誘う人が友達から家族、知り合い…って範囲が広がっていって、最終的にSNSで同行者を募るまでに。最初に出版したのが『ONSENⅠ』です。そこには文明的なものは一切写っていません。人間、裸、自然だけ。野湯に出会ったときの衝動を、ビジュアルだけで伝えるような本にしました」。
偶発的に集まった人たちが、ぎこちなくも強制的に会話し合う。そんな空気感が面白くて
「2冊目は『ONSEN MMXXIV』というタイトルに。ローマ数字で2024という意味です。偶発的に集まった人たちが、ぎこちなくもお互いを知るために強制的に会話し合って、そんな空気感が面白くて。まるで社会の縮図のような。だから『ONSEN MMXXIV』には写真とともに、同行者たちと交わしたたわいもない会話を掲載しました。内容がない会話こそが僕らの関係性を作る言葉のかたまりであり、2024年の現代を生きる私たちの姿をありありと残すことができるなと思いました」。
温泉の写真だけを撮っていたら気づけなかったことがある
「温泉は過去・現在・未来を繋ぐ、ひとつの象徴、メタファーです。『日本書紀』などにも記されていますが、温泉は男女が一緒に飲食し、歌を交わして親睦を深める場だったそう。いつの時代も変わらない、そんな風景なんじゃないかなと思ったりもして。単純に温泉の写真だけを撮っていたら、そんな風に思えなかったんじゃないかなと思います」。
決めていたルールすら変わったっていい。好きなものは派生していくから
「『野湯に一緒に行こう』って人を募るのは怪しすぎるから、ビジュアルを見せたらイメージがわきやすいかなと思って、2013年にZINEを作ったんです。家のプリンターで作った16ページぐらいの、ちっちゃいZINE。その当時はZINEとか自費出版のムードが結構高かった。でも少しずつ撮ってはいたけど、まだ作品化は考えていませんでした。コロナを機に、ONSENに本格的に取り組もうと思い、もっと量を撮らなきゃと動き始めました。コロナが明けた時にめっちゃシンプルに明るいやつやりたいな、みたいな。人と人が共に行く感じとかもなんかいいなって。それで2020年頃からスイッチを入れました。展示とか本にしようと思ったのもこの頃。同時に現代の写真をやっている若い人にポジティブなメッセージを伝えたいとも思いました。コンセプトやステートメントで、言葉を使って『こういう理由でこの作品を撮りました』と述べるのは重要なことです。でも一旦、『どうでもよくね?』って。だって温泉ですよ。理由を聞かれても、ひとまず好き以外にないですよ。僕も真っ当にステートメントを書いてきたし、文脈も示してきたけど、写真以前に好きだった温泉を作品として発表するって、すごく初期衝動的で清々しかった。好きだからのパワーの強さが振り切れれば、それは十分ステートメントになるんです。机の上でパソコンに向かって写真やってるだけじゃ到達できないところに行けるはず。年齢とか環境とか、好きなこともやりたいことも変わっていくんですよね。僕も一時期に比べたら野湯に行ってないですし、今後は1人で行くかもしれないし、火山だけを撮るかもしれない。そもそも温泉以外のことに今は気が向いているし、これだけは絶対って決めていたルールすら変わったっていい。好きなものは派生していくから。根底にあるのは“写真って面白い”っていう純粋な気持ちだと思うんですよ。それを軸に、いろんな作品を生み出していきたいと思っています」。
認知されるためのプロジェクトより、新しいチャレンジを求めていく
「プロジェクトをひとつに絞ることって、結局“認知してもらうため”だと思うんです。もしそれがゴールならそれでも構わないけど、僕は認知の先にもっとでかい目標を求めるタイプだから、中途半端に知られるために同じことを続ける時間があるなら、新しいチャレンジをもっとたくさんした方がいいと思います。それと、わかりやすく言えば“人と違ったことをやる”。昔のやり方でもいい。それをおじさんとかおばさんたちが、『なんだそれ、知ってるぞ』と言っても、その人たちの目線は気にしなくていい。自分たちの時代のムードだけを大事にすればいいんじゃないかな」。
他人の評価に迎合しないために、写真の仕事をする
「2021年、鹿児島県。旅の途中、同行していた後輩の体調が悪くなった。その後、僕はコロナになった」。
「あとは僕が強く思うのは『写真の仕事は絶対やった方がいい』ってこと。というのも、自分の作品やプロジェクトって、誰からもお願いされてないから、そもそも無視されて当然のもの。だけどやっぱり人って、求められないと辛いし『もうちょっと評価されたいな』ってだんだん迎合するようになってしまう。一番大切にしているはずの作品制作への態度も『こっちの方がほめられるかな』って世の中の評価が軸になっちゃう。そうならないためにも、そして写真で自信をつけるためにも、写真の仕事はやった方がいいと思ってます。どんなに小さい仕事でも人から求められるって嬉しいし、そのポジティブさを自分のプロジェクトにスライドさせる。僕の場合は、新作を出して全然周りの声が聞こえてこなくても『あ、よかった。中途半端に消費されてないぞ。気づかれるのに時間がかかるんだろうな』くらいのタフさがあるんですけどね(笑)」。
GENIC vol.76 【ONSEN】
Edit:Megumi Toyosawa
GENIC vol.76
2025年10月号のテーマは「 撮ることのその先へ This is My Project.」
あなたは「何」を撮っていますか? 自分の表現を説明できますか?
タイトルをつけることができますか?
オリジナルのプロジェクトを持つことは、自分の写真を「言語化」すること。
1つの企画によってまとめられた作品群からは、“作家の声”が聞こえてきます。
あなたも、写真プロジェクトを始めませんか。
一歩進む。撮ることのその先へ。