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反骨精神こそが、美しい 土佐和史

スナップ撮影という手法で、街で出会った見知らぬ人々を撮り続ける3人の写真家たち。目の前にある真実を自分なりに切り取りながら、そこに写る人の人生を浮き彫りにする。撮り手である彼らが伝えたいことは、何なのか?それぞれの想いに迫ります。
「街で出会った人を撮る」3人目は、全国を旅しながら人々や風景を切り取る写真家、土佐和史さんです。

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「旅に出ると五感が研ぎ澄まされ、100%の純粋さで被写体に向き合える。」

群馬県太田市。「成人式で、後輩である彼女へお祝いに100本の薔薇を渡す場面に遭遇。じゃあ記念に撮ってあげるよとカメラを向けると、くっついて二人ともはにかんだ」。

「幼い頃から、知らない場所に行くのが好きでした。専門学校で写真を本格的に始めてからいろいろな地方の町に出向き、そこで出会う景色や人々の独特の空気感に惹かれて撮影しています。自分の撮影スタイルは、”旅の中で撮る”。旅というのは、距離や期間に関係なく非日常に自分を置くこと。自分が日々を過ごす東京の日常から離れた地方という場所に行くと、旅の期間中は五感が研ぎ澄まされ、100%の純粋さで被写体に向き合えます」。

神奈川県相模原市。「ボウリング場の駐車場に溜まる二人組。独特の怪しい雰囲気にそそられ、シャッターを切った」。

群馬県高崎市。「駅前の取り壊されたデパート跡地をバックに、バンドでギターを弾くギャルは東京への憧れを語る。北関東特有の乾いた空っ風が吹きつけていた」。

反骨精神こそが、美しい

不器用でも、自分らしく強く生きている人は艶っぽい

青森県五所川原市。「立佞武多にて、路上に座り込んでいたギャル。眼帯、傷だらけの膝、汚れた足袋…この女性のバックグラウンドが、じわりと伝わってくる」。

「ここに写っているのは皆、”地でいっている”人たち。新しい流れにある意味乗り切れず、周りや世間の評価のためではなく、自分らしく密かに強く生きている。不器用だけど、僕にはとても美しくて艶っぽく見えます。路上や店で見かけた、自分のアンテナにビビッと来た人に声をかけて撮らせてもらいます。いつも作品のタイトルやテーマを先に決めて撮影に挑むので、その雰囲気が匂ってくるシーンに出会うと撮りたくなります。ときには同じ場所で数時間待ったり、ひたすら街を歩いたり、とても長い時間を要することも」。

「ハートフルだったり、エロティックだったり… 僕と被写体の間に、とてもいい時間が流れることがある。」

茨城県土浦市。「桜町の風俗店の前で『寒いしお客さん来ないし暇だよ』と、毛布にくるまって話す女性。沈んでいく西陽が彼女を照らす。こんな美しい瞬間に出会えてよかった」。

「僕が思うスナップ撮影とは、目の前にある真実を自分なりに切り取ること。写真の原点です。そのため、なるべく僕からはあまり指示を出さず、撮られる側が自然な状態で写るようにしています。もちろん、緊張や不安もあると思いますが、その表情がまた良かったりします。僕自身の空気感が相手にも乗り移ると思うので、結果できあがった写真は、僕の個性を写すものになります。撮影時に僕と被写体の間に、とてもいい時間が流れることがあります。なんだかハートフルだったり、エロティックだったり。そういう時は、いい写真が撮れています。僕にとって写真とは、神様からもらった”生きがい”。写真を通して、旅の楽しさとか人と出会う素晴らしさとか、人生ってなんかいいなあ、ということを伝えたいです」。

福島県郡山市。「駅のロータリーで、友達を迎えにきたという女性。地方っぽい車の内装に思わずテンションが上がり、運転席に乗ったままの姿を撮らせてもらった」。

京都府京都市。「河原町の街角に一人佇んでいた女性。独特なメイクとミステリアスな雰囲気に惹かれ、思わず声を掛けた」。

茨城県土浦市。「工場前の路上にて、二人に出会う。細かい説明は必要ない。この空気感が地方の、北関東のカップルだと」。

兵庫県姫路市。「仕事の休憩中にタバコを吸う女性。凛とした立ち姿と、味のある路地裏の風景。光も美しく、素敵な瞬間だった」。

茨城県水戸市。「この風貌と雰囲気に心を奪われ、駅前で声を掛けた。たまたま後ろに咲いていたツツジに映えた。地方の平日の昼間。周りには誰もいない。大都市にいる意味合いとはまったく違うのだ」。

神奈川県横須賀市。「猫のタトゥーを肩に彫った女性。地元では有名だという武勇伝を語る、かっこよさと可愛らしさを併せ持つ人だった」。

京都府舞鶴市。「近所を散歩中だという、夕暮れ時の橋の上で出会った女性。ここで生まれ育ち、これからもここでずっと過ごすのかと。夕陽に照らされた表情と相まって心に染みた」。

土佐和史

写真家 1977年生まれ、大阪府出身。
旅ゆく道で出会った人や風景を撮影。写真集『路地裏に咲いた花』が、自身が代表を務める写真集出版レーベル BUFFALO PRESS より発売中。
愛用カメラ:CONTAX G2 ブラック 、FUJIFILM X-Pro2 / X70 / GFX50R
愛用レンズ:Planar 35mm F2 Black、GF45mm F2.8R WR、XF23mm F1.4R

土佐和史 Instagram
BUFFALO PRESS WEB

GENIC vol.69【街で出会った人を撮る】
Edit:Satoko Takeda

GENIC vol.69

1月号の特集は「SNAP SNAP SNAP」。
スナップ写真の定義、それは「あるがままに」。
心が動いた瞬間を、心惹かれる人を。もっと自由に、もっと衝動的に、もっと自分らしく。あるがままに自分の感情を乗せて、自分の判断を信じてシャッターを切ろう。GENIC初の「スナップ写真特集」です。

GENIC公式オンラインショップ

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