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些細な疑問ほど/ぽんずのみちくさ Vol.72

片渕ゆり(ぽんず)<連載コラム>毎週火曜日更新
ほんとに大切にしたい経験は
履歴書には書けないようなことばかり
旅をおやすみ中のぽんずが送るコラム

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些細な疑問ほど/ぽんずのみちくさ Vol.72

疑問というのは、小さければ小さいほど口にしづらい気がする。

歯医者さんで治療をしてもらっているあいだ、目は閉じるのか、それとも開けるのか。開けていると顔が近すぎてドギマギするし、閉じていると「眠ってる」と勘違いされそうだ。

美容院で目の前に置かれた雑誌を読み終えてしまったとき、「ほかの雑誌を持ってきてください」と言ってもいいものだろうか。しかし、美容師さんたちはみな忙しそうだ。ヘアスタイル以外のことで呼びつけても良いものか。

ひとりで服を買いに行って試着をしているとき、試着室の外から店員さんに「いかがですかー?」と聞かれたら、どう反応すべきなのか。声だけ返せばいいのか。それともカーテンを開いて「こんな感じです」と見せればいいのか。

どれもいまだに正解がわからない。

「最近生えてきた左上の親知らずは抜くべきでしょうか?」
これなら聞ける。

「治療にかかる期間と費用はどのくらいでしょうか?」
これも聞ける。

しかしそのあとに、「ところで治療中は目を閉じていてもいいでしょうか」とは、なんとなく聞きづらい。スマートに聞ける人もいれば、そんな些細なことは気にせず堂々と過ごせる人もいるだろう。気になるならばその場で尋ねてみればいいと頭ではわかっていても、口に出す勇気がない。「どうしよう」と勝手に居心地の悪い気持ちを抱えながら、毎回悶々としてしまう。

マレーシアを訪れたときにも、似たようなことがあった。数日間、個人宅に
ホームステイをさせてもらったときのことだ。

お邪魔した家は、穏やかな田園地帯にあった。見渡す限り田んぼが広がり、道沿いにはバナナのような大きな木が茂る。家の裏には、いかにも南国といった感じの黄色い花が咲き乱れている。カメラ片手に歩けば、知らぬ間に汗だくになっている。

戸惑うのはここからだ。汗を流そうと借りたお風呂でのこと。風呂桶の隣に、もう一つ、小さなお風呂のようなものがある。赤ちゃんにぴったりくらいの大きさの、陶器でできた物体。お風呂とトイレの中間のようなフォルムをしている。洗面台にしては低すぎるし、赤ちゃん用だとしたら素材があまりにも硬そうだ。果たしてこれは一体……?

「これはなんですか?」と聞くためだけに風呂場を出るのも憚られ、シャワーを浴びながら謎の物体を凝視しつづけるしかなかった。

あとから知ったところによると、その「謎の物体」はビデと呼ばれるものだったらしい。足や局部をささっと洗うのに便利なのだそう。なるほど。暑い地域では汗をかくことも多いだろうし、毎回全身シャワーを浴びるよりも楽で、たしかに重宝しそうだ。

日常も旅も、小さな「?」でいっぱいだ。今ではGoogle検索で即解決となることも多いけれど、些細な疑問ほど、調べてもわからなかったりする。スマートに尋ねられる人間になるにはまだ相当な時間がかかりそうなので、せめて一つひとつ、おもしろがれたらと思う。

片渕ゆり(ぽんず)

1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。

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