片渕ゆり
佐賀県出身・東京在住。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いからフリーランスに。2019年から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。2021年、『旅するために生きている』を上梓。
Canon EOS R50
2023年3月に発売されたばかりのCanon最新カメラ。実質6Kの画質で記録して4Kにリサイズする「6Kオーバーサンプリングプロセッシング」を採用しており、従来よりも色再現性に優れ、ディテールまで鮮明な映像を記録する。撮影が難しい逆光や夜景などのシーンでも、カメラまかせでより豊かな表現が可能な「アドバンス A+」を新搭載し、動画撮影においても人物や動物など、動き回る被写体でも広い範囲で粘り強くピントを合わせ続け、撮影者をサポート。手ブレにも強く、初心者でも簡単に美しい動画を撮ることができる。
片渕ゆりの〈もっと、エモーショナル〉
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連載第1回で紹介する動画は、湘南の海辺で片渕さんが出会ったエモーショナルな瞬間と、自宅で撮影したソーダの映像で構成されています。「静止画では異なるディスプレイになるものも、動画ではまとめて編集することで1つのものとして見せられるのがいいですね」と話す片渕さんは、1本の動画として美しくまとまるよう、関連性があり、色調が似ているエモーショナルな瞬間を重ねていくことを意識したそう。ここでは、1本にまとめる前の素材動画について、1つ1つ細かく紹介していきます。
Scene.1 目の前に広がるブルーの世界は、その日最も望んでいた景色
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「この日は海を見たいと思って、約2年ぶりに湘南に行きました。江ノ電に揺られ、眺めの良い鎌倉高校前駅を降りて向かった先は、七里ヶ浜海岸。旅先で、どんなに望んでも自分ではどうにもならないのが天候ですが、この日は青空が広がり、海は青くキラキラと輝いていました。七里ヶ浜の海岸線にある駐車場からの眺めは、まさにこの日、一番見たかった景色。望んでいた“ブルーの景色”を表現するため、人のいるビーチは入れずに、遠くにヨットが浮かぶ海と空だけを切り取っています。実は今回、どんな動画をつくりたいか、事前にイメージをしていました。それは、好きな映画の中に出てきた表現。映像のブルーの使われ方がかわいらしくて、そんな表現でまとめた動画をつくりたいと思っていたのです。目の前に広がる青い空は、“したい表現”という面からもまさにぴったりでした。カメラは動かさず、静止画の中にある水面の揺らぎで情景を表現しています」。
Scene.2 静止画では抽象的になりすぎる絵も、動画なら撮りたいと思った
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「私は、二度と来ないその瞬間を残したくて写真を撮っています。写真はすべて心に響いたエモーショナルな瞬間であり、逆にどんなに美しい写真が撮れたとしても、自分がその情景に惹かれていなければ、私にとって良い写真にはなりません。さまざまな情景の中でとくに惹かれるのが、時間の流れを感じさせたり、その瞬間にだけある表情を見せてくれたりするようなもの。この時はちょうどお昼の時間帯。太陽が高い位置にあって、水面がキラキラする様子が目で見ていてもきれいでした。寄せて返す波は毎回表情が異なるし、時間帯や天気、季節によっても表情は違ってくるもので、この瞬間はもう二度と来ない。波打ち際はこれまでも惹かれる対象でしたが、静止画だとあまりにも抽象的になってしまうため撮ることはあまりありませんでした。動画だからこそ、今回撮りたいと思った。この時もカメラは動かさず、寄せて返す波の動きを収めました」。
Scene.3 異国情緒が漂い、その先に別の世界が広がっていそうな空気感
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「江の島に渡る橋への入口、街路樹として並ぶヤシの木と空を撮りました。湘南は、ハワイアンプレートランチのお店やこの場所など、ハワイっぽさがある。のんびり過ごす人たちや、どこからともなく流れる音楽…空気そのものにハワイのような心地よい雰囲気が漂っています。私は日本にいても異国情緒を感じられる場所や、“ここを過ぎると別の世界へと行けそう”という気持ちにさせてくれる場所がすごく好きで。ヤシの木が並ぶこの場所はハワイやキューバで見た景色にリンクして、ここを過ぎると想像だけでもそこへ行けるような気持ちにさせてくれる雰囲気がありました。並ぶヤシの木をロードムービーのような表現で撮影したいと思い、右から左へとカメラを動かして撮りました。風がヤシの葉をゆらし、偶然空を飛ぶ鳥がフレームに入ってきました。この日湘南で感じたゆるやかな時間を残せたと感じるシーンです」。
Scene.4 ひと目見て、インサートとして動画に入れたいと思ったガラスの浮き
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「撮影前、動画に詳しい知人から、動画の撮影テクニックとして『Aロール』と『Bロール』について聞きました。例えばインタビュー動画だとしたら、話している人を撮ったメイン映像がAロール。対してBロールは、準備風景とか部屋のインテリア、話し手が身に着けているアクセサリーなど、本編の動画に補足的に添えられるものだそう。その話を聞いたとき、動画を見ていて私が惹かれるのはBロール的な性質を持つシーンだと気づきました。そして今回の動画は、湘南の青い海と空をAロールに、Bロールとして見る人の想像の余地を広げてくれるような補足シーンを入れたいと思いました。江の島へと向かう途中、お店の軒先に吊り下げられているこのガラスの浮きが目に入ったとき、ぴったりだと思いました。浮きの映像をインサートとして動画に入れることで、港町でもある湘南での、その日1日のストーリー性が際立ったかなと。撮影では、浮き自体には動きがないのでこちらが動く必要がありました。スキルのない私でもできるカメラの動かし方って、横に動かすか近寄るか、離れるか…。正直まだそれしかなく、この時は距離を変えて撮っています」。
Scene.5 移ろいを表現できるのも動画だから。水彩画のような淡く薄い影に惹かれて
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「普段から、影を黒ではなく水色で描くような、水彩画の淡い表現に惹かれています。この時も、海に向かう歩道のタイル地面に映る柵の影が、水彩画のようできれいだと感じました。冬のやわらかい光で時間帯もよく、タイルの色が残るような薄い影を動画で残したいと思いました。壁に映った影や木漏れ日も好きで、普段静止画ではよく撮りますが、移ろう動きそのものまでは撮れないことにジレンマを感じることもありました。その点動画なら、エモーショナルさをたたえる影の移ろいまで表現できるのが魅力です。実際には、カメラのアングルを決めてから、一緒に行った友人にその場所を何度も歩いてもらって撮っています。1本の動画に編集する際、海や空、木という自然物ばかりでは似通った印象になりがちかなと思ったので、こういう人工物を入れたシーンがあると、いいアクセントになるなと感じました」。
Scene.6 旅を連想する標識は、ずっと惹かれている大好きな被写体
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「標識は、たとえ旅先でなくても旅を連想させてくれるものとして、大好きな被写体です。湘南で見つけた標識は、そのものよりも壁に映ったその影に惹かれました。タイル地面の影と同じで、影そのものに惹かれたというのもあったと思いますが、この時影を撮ったのには別の理由もありました。とくに日本語で書かれた標識は、文字が見えてしまうと途端に説明的になってしまいがちで、別の意図が伝わってしまうことも多いです。その点影だけを撮ると、余計な情報は排除されて、いろいろな想像の余地が生まれます。湘南で惹かれたさまざまなものやことはすべて、目の前にある物質そのものというよりは、それらを総合して得られる“ゆったりとした空気感”でした。影を撮影することで、好ましく感じた湘南の空気感を、より表現できたのではないかと思います。そのまま撮っても動きがなかったので、手前にあった風に揺れるソテツの葉も入れて撮影しました」。
Scene.7 もう一つのメインシーンとして用いた、自宅で撮影した爽やかなソーダ
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「ブルーの色調で1本の動画をまとめようと考えたとき、湘南の海と空をメインにその日は時系列で追いながら、間にリンクするようにブルーのソーダや、ソーダをつくっている映像を差し込んでいくイメージにたどり着きました。テーマは『海と空と過ごす1日』ですが、私が惹かれるもののなかから、もうひとつのメインシーンを入れることにしたのです。私は水の揺らぎに強くエモーショナルを感じるところがあって、ずっと変わらずに惹かれている被写体でもあります。ソーダもそうで、注いだときの揺らぎや流れ、グラスにつく水滴の移ろい、『泡沫』という言葉がぴったりなしゅわしゅわと消えていく泡…と、エモーショナルを感じる要素が詰まっています。その雰囲気を壊さないよう、ソーサーもガラスのものを選びました。EOS R50はAFがとても速く、またタッチパネルで撮影停止などの操作ができるので、自分でソーダをつくりながら自分で撮影をすることができました。液体とスローモーションを組み合わせた映像はエモーショナルさが引き立つと思い、ソーダを炭酸水に注ぐシーンではハイフレームレート動画設定で、スローモーションに仕上げました」。
ATTRACTIVE “今日はどんな1日だったかな”を意識させてくれた動画撮影
「今回、ちゃんとした動画撮影と編集に初めて挑戦し、静止画と動画では、撮り方や撮るものが想像していたよりずっと変わるのを実感しました。今回撮った波打ち際や浮きも、静止画では情報量が少ないと思ってしまいそうだけれど、動きがあったり、インサートとして使おうと思ったりすると、撮ってみようという気持ちになります。写真は1枚でどう完結するかを考えるけれど、動画は全体の流れが大切になる分、各シーン100%成立している必要はないのだと感じました。それはそのまま、意識する被写体や時間の変化にもつながっていく。Bロールに使うサブ的な被写体にも目が行くようになるし、撮り始めれば少なくとも5秒は回します。それだけに、動画はより繊細なディテールまで記憶に残る。動画撮影をしてみて、普段より1日のことをよく覚えていることを実感しました」。
STEP 手本を見つけてイメージを持つ。そこから撮影が楽しくなった
「お手本となるものが何もないまま闇雲に撮っていたうちは、1枚で完結する静止画と違ってボツ素材になるデータが多く、辛かった…(笑)。そこで、好きな映画や絵画などを参考に、まずはつくりたい動画のイメージを思い描くようにしました。そうして目指すものができると、途端に撮るのが楽しくなったのを実感しました。実際に映画やMV(ミュージックビデオ)で見たことのある表現を再現できたと感じたときは、すごく嬉しかったです。また動画について人と話すと、『音楽と合わせると効果が高まる』という声をよく聞きました。まさにMVがそうなのだと思いますが、音楽から動画の構成を考えることもあるそうで。静止画とは異なる動画ならではの発想なので、今後動画を撮る大きなモチベーションになっていくと感じました。同時に伝えたい感情や表現を実現するための、カメラワークのスキルを身につけ、次回以降挑戦していきたいです!」。
[CAMERA POINT]動画撮影 使って実感したCanon EOS R50の魅力
「Canon EOS R50は露出やピントの調整が正確かつとても速く、カメラ任せでも的確に美しく撮れるカメラだと実感しました。動画への心理的ハードルが下がるので、嬉しいポイントだと感じます。パソコンにデータを取り込んだ後も調整する必要を感じず、スピーディーに動画をつくる助けにもなってくれる。設定で軽いファイル形式を選ぶこともできるので、SDカードの容量が不安なときでもさくっと撮れましたね。AFがとにかく速く、カメラを構えれば自動で撮りたいものに合わせてくれるのが気持ちよかったです。ピント位置を変えたいと思ったときも、タッチ操作で簡単に素早くできます。撮影停止ボタンがタッチ画面に表示されるのも、撮影においてとても便利に感じた点でした。使用したレンズはRF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM。とてもコンパクトで持ち運びやすく、身の回りの物から風景まで、幅広い被写体をカバーしてくれる、今回の動画撮影にぴったりの画角でした。EOS R50とRF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM、双方合わせても小さくて軽い。このサイズなら旅先でも一日中持ち歩くことができ、あらゆるシーンを残していくことができると感じました」。
【今回使用したカメラとレンズ】
EOS R50・RF-S18-45 IS STMレンズキット
オープン価格