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命をつなぐポートレート写真「NOW & THEN」/藤代冥砂

2020年代の代表作ができたと自評する最新写真集「NOW & THEN」の写真とともに、長いキャリアを経てたどり着いた、写真家・藤代冥砂なりの生き方、撮影へのスタンスに迫った。

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藤代冥砂

フォトグラファー 1967年生まれ、千葉県出身。女性、聖地、旅、自然をメインにエンターテインメントとアートを横断した作品を発表。写真集に『ライドライドライド』(スイッチ・パブリッシング)、妻の田辺あゆみを撮った『もう、家に帰ろう』(ロッキング・オン)など多数。2022年7月、北海道から沖縄まで全国を巡って産前産後の家族の姿を撮影した『NOW & THEN』(光文社)を発売。「新潮ムック月刊シリーズ」で第34回講談社出版文化賞写真賞受賞。小説家として『誰も死なない恋愛小説』『ドライブ』なども発表し、近年は詩作にも取り組んでいる。

あの時と、今。今と、これから。この小さな命を日々守っていく

きっかけは、出産祝いに贈ろうとした2組の友人家族の、産前産後の写真だった

「沖縄の2組の友人夫婦を、産前産後で撮って出産祝いにしようとしていました。対の写真を並べたときに、ここにはすごくいいものがあるなと思った。シンプルで、動画では込め切れないものが留まっていて、言葉では表せない感動があった。集積していったら大きな何かになるのではないかと思い、インスタグラムで募集をかけ、全国へ撮りに行きました。10組くらい撮影した頃には、これは写真というジャンルでこそ達成できる何かだと、確信に近いものが生まれていた。家族、親子、関係やつながり......いろいろなものが含まれていたし、生物って植物でも何でも子孫を残していくという方向性があって、残さなきゃいけないとは思わないけれど、残すこともいいことだなとも感じられました。もともと僕にとって写真は、表現力を求めるものとしてではなく、職業の選択としてありました。オフィスに腰を据えて皆で何かを作り上げることに才能がある人もいて、自分は向き不向きとしてそれができないから写真だったんです」。

自分はただのきっかけ。あとは写真が、人に何かを届けてくれる

普遍ともいえることに思いを馳せて——。

「20代の頃は好奇心旺盛で、世界をいろいろな角度から見たいという思いが強かった。それが30代も半ばになると、だんだん既視感を覚えることの方が多くなっていき、利己的よりも利他的でありたいというターンに入っていきました。個人でふらふらしながら写真を撮ってきて、自分のような動きをとれない人に届けて、疲れを癒したり、日々の忙しさに狭まってしまった視野を広げたりしていく。そういういい循環を作っていきたいと思うようになりました。富山の薬売りが全国に薬を届けていたのと同じで、自分は〝写真係〞。産前産後の写真も、僕は全体の2割くらいしか仕事をしていなくて、撮って届けるという、見る人のきっかけでしかありません。NOW&THENは広がりのあるテーマだなとは今でも感じていて、この作品がうまく受け取られて、命をつないでいくとか、皆が誰かの子どもだったとか、日々忙しい中でそういうことを思い出し、温かいものになったらいいなと思っています」。

Stance 01:持ち続けるアマチュアリズム

「ネガティブなところには蓋をして、その人のいいところを残そうと、あえて意図しなくてもそうなっています。芸術的な視線よりも、一般の人が見て綺麗だと感じるような、公約数的なところに自分の感覚は近いと思っていて、それはいい意味でのアマチュアリズム」。

Stance 02:フィジカルを整えておく

「ぎこちなさにもつながりますから、無理はせず、素のままの自分を撮影現場に持ち込むようにしています。日頃からフィジカルなコンディショニングをすごく大切にしていて、自分の状態を整え、リラックスできていることで、自分からいい流れを作れるのが理想です」。

Stance 03:日常を丁寧に、健康的に生きる

「写真を撮っている人が悪い人で、写真だけいい写真にはなれないだろうなって思います。嘘をしてもほころびが絶対出るから、そんな面倒なことをするよりも、いつ見せても恥ずかしくない自分でいられるよう普段から整えておく。呼吸を意識したり、坐禅もしています」。

Stance 04:多角的に世界を見て多くの経験をする

「刺激的なこと求めたり、嘘をついてでもいい思いをしたり、そういう時期もありました。でも、不健康だし、単純に飽きもした。でも、このままでは嫌だと思った経験が未熟さからの成長へとつながり、NOW & THENが生まれた。いろいろやっておいてよかったなと思っています」。

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GENIC vol.65 命をつなぐポートレート写真「NOW&THEN」/藤代冥砂
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.65

GENIC1月号のテーマは「だから、もっと人を撮る」。
なぜ人を撮るのか?それは、人に心を動かされるから。そばにいる大切な人に、ときどき顔を合わせる馴染みの人に、離れたところに暮らす大好きな人に、出会ったばかりのはじめましての人に。感情が動くから、カメラを向け、シャッターを切る。vol.59以来のポートレート特集、最新版です。

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