今吉優衣
証券会社勤務 1994年生まれ、大阪府出身。カメラ好きの祖父の影響で、大学生の頃にお古のカメラを譲り受け、社会人になってから本格的に撮影を始める。ポートレート撮影を軸に、被写体としても活動。現在はOLとして働く傍ら、ポートレート、スナップなど幅広いテーマで撮影をする休日写真家。
愛用カメラ:Sony α7 Ⅱ、RICOH GR Ⅲ
愛用レンズ:SIGMA 85mm F1.4 DG DN | Art、Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4
"ノスタルジー"を感じる街
「スナップを撮った後で、トリミングをよく行います。この写真も撮った写真の1/4程度にトリミングしています。最低限の装備で撮って、編集で自分が見せたい形に最終調整しています。スナップを撮る予定ではなく、日本橋近くのカフェに出かけた帰り道に偶然出会って撮った一枚です」。
ストリートにはモデルがいなくても成り立つ光景がある
東京駅付近で撮影。
「ソール・ライターの写真を見てから、積極的に雨の日にスナップを撮りに行くようになりました。特に黒い傘、赤い傘をさしている方が通りかかると思わずシャッターを切ってしまいます。傘をさしながらの撮影になるので、片手でシャッターを切りやすいGR Ⅲを重宝しています。通行人の足に隙間ができている瞬間を捉えることで、被写体に動きが出て、躍動感のある写真に仕上がっていると思います」。
「人生を想起させること」それがノスタルジーなのかもしれない
「後ろ姿やシルエットを撮影するときはシンプルな服装の方を選んでいますが、この写真は女性の肌が少し見えていることで、男性と手をつないでいることがぱっと見てわかると思います。丸の内にある商業施設KITTEの3階から、1階を撮影した一枚です」。
もともとポートレート写真をメインに撮影していたという今吉さん。
「街中でポートレートを撮るための構図を探すうち"モデルがいなくても成り立つ光景"が存在することに気づきました。日常風景の中にポートレートモデルという、ある意味異質なものを配置してみて初めて、日常そのものの中にも、撮影するべきものはたくさんあることに気がついたんです。雨の日の赤い傘、横断歩道を歩く通行人、一瞬しか現れない光の表情、忘れられたように咲いた道端の花。一見、どこにでもある光景ですが、通勤途中の私が同じ場所を通りかかったとしてもきっと素通りしてしまうものたちばかりです。そんな日常風景をどう捉えるかがストリートフォトグラフィーの魅力だと思うんです」。
「ポイ捨てされた赤いコーヒーカップ。そこら中に撮るべきものは転がっていると考えており、それを最も体現した一枚だと思います。ゴミを"被写体"として昇華させるため、周辺減光を使って自然と中心の被写体に目が行くように赤と緑のコントラストを強めに出しています」。
「女性が膝にかけている赤いアウターが目にとまり、撮影した一枚。壁などの平面を撮影すると、どうしても歪みが出てしまうため、編集でジオメトリ処理をするようにしています」。
「晴れた日の夕方、東京駅丸の内付近で撮影。高いビルが多く、晴れた日の夕方は影がはっきりと現れるエリアなので、何回通っても飽きない場所です。この日も、東京メトロの青い看板にスポットライトを当てるかのように西日が差しこんでいました。左上から差し込む光を強調させるように編集段階で明暗差を調整しています」。
今吉さんの写真を通して感じるノスタルジーの正体とは?
「自分の撮った写真に対して、これは良い写真だと判断するとき、そこには必ず理由があるはずだと考えています。言語化できなくても、なんとなくこの写真が好きだと感じるのは、無意識にこれまで自分が歩んできた人生、誰かとの会話、触れてきた写真、絵、小説、映画によって培われた感覚に基づいて、そう判断しているのだと思うんです。目の前の写真が、自分の人生の中で印象に残っている事柄を想起させる、これがつまりノスタルジーなんだと思います。見る人が私の写真にノスタルジーを感じて頂けるとしたら、そう判断させるに至った経験がその人の人生にあったから、ではないでしょうか」。
GENIC vol.63 【街の被写体、それぞれの視点】
Edit:Megumi Toyosawa
GENIC vol.63
GENIC7月号のテーマは「Street Photography」。
ただの一瞬だって同じシーンはやってこない。切り取るのは瞬間の物語。人々の息吹を感じる雑踏、昨日の余韻が薫る路地、光と影が落としたアート、行き交う人が生み出すドラマ…。想像力を掻き立てるストリートフォトグラフィーと、撮り手の想いをお届けします。