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【記録と記憶-ドキュメンタリーポートレート:4】稲岡亜里子

目の前に人がいれば、何かが起こり、心は動く。撮らずにはいられない衝動を、記憶にとどめたい瞬間を、ありのままに記録するドキュメンタリーポートレート。それぞれの視点で、さまざまな表現で、誰かの人生の一瞬を切り取る6名の写真家とその作品を紹介します。
4人目は、見えないものを写し出す写真家・稲岡亜里子さんです。

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稲岡亜里子

フォトグラファー 京都府京都市出身。高校2年生の時に渡米。カリフォルニアの高校を卒業後、ニューヨークの美術大学、パーソンズスクールオブデザインで写真科BFA修得。10年間のニューヨーク生活の後、拠点を東京に移す。2008年、アイスランドの自然をテーマにした写真集『SOL』(赤々舎)、2020年には8年にわたり夏ごとにアイスランドを訪れ撮影した双子の写真集『EAGLE AND RAVEN』(赤々舎)を出版。写真集は、インスタグラムのDMまたはウェブサイト(www.arikoinaoka.com)から直接コンタクトすることで、サイン入りも購入可能。京都で500年の歴史を持つ蕎麦菓子と蕎麦屋「本家尾張屋」代表取締役でもある。

<ふたりのテレパシー>アイスランドに住む 双子の少女を撮った8年間

見えるものを撮るのだけれど、見えないものを写し出すのが写真。二人の不思議なくらい強いつながりはそれを感じさせてくれる

「双子の少女との出会いは、ファッションカタログの撮影でした。彼女たちが大人になるギリギリの時期までを撮りたいと思い、2008年から2017年の期間、年に1度アイスランドを訪れ、撮影するようになりました。私自身、9歳から13歳の頃の記憶ってあんまりなくて、でもその時に見たものや感じたもの、将来こうありたいといったエネルギーは確実に今の自分に生きていると感じていて、この微妙ともいえる時期を作品に固めたいという思いがありました。それは、彼女たちのポートレートというよりも、その年頃の記憶や、今に続く潜在意識を、彼女たちを通して撮るという感覚。また、テレパシーとかシンクロニシティとか、彼女たちは目には見えないつながりが不思議なくらい強かった。そういうものもまた、二人を通して撮りたいと思ったのです。
最後の撮影となった2017年、アイスランドに行くと二人はすっかり大人になっていて、この撮影は終わりました。写真集にまとめながら、強い自分もいれば弱い自分もいて、体の中にある感情とは別の意識とともに人は生きていて、私は双子ではないけれど、双子のように、見えないもう一人の自分と生きているのだと改めて認識しました。見えるものより見えないものを大切に生きる。そこに持続可能な意識や社会というものが存在し、人って生きていけるのだと思います。
そういう気持ちは、双子を撮っているときにも強く感じていました。私にとって写真は、自分を確認していくツールのようなもの。写真は見えるものを写すものだけれど、実際には潜在意識のような、見えないものが写し出されているんですよね」。

私自身も、見えないもう一人の自分と生きているのだと改めて認識した時間

Photo Story

「不思議なほどに強いつながりを持つ双子の撮影は、光やアングルなどで、”自分の中にあるもう一人の自分”を作り上げていく感覚でした。私はこういう人間だって人は思い込みがちだけれど、本当はもっと違う自分がいて、果てしない可能性に満ちていると、私はこの年頃の時に信じていたんです」と稲岡さん。また、テレパシック的な人と人とのつながりは、何も双子でなくてもあるとも話す。
「会いたいなと久しぶりに思っていたら電話がかかってくるとか、ありますよね。そういう見えない力みたいなものを、二人を通して撮っていました。それはつまり、彼女たちの成長や、彼女たち自身を撮りたいということではなかったということ。そのため、洋服はあまり年代や時代を感じさせないものを選んでいました。とはいえ完全な偶像ではなく、二人は楽団でバレエを習っていて、その衣装が求める内容に適していると感じ、着てもらうことが多かったのです」。

記憶や今に続く潜在意識を双子の少女を通して撮っていく

Photo Story

「撮影時間は、二人のリンクするエネルギーの中に入らせてもらっている感じでした。場所を決めて走ってもらうようなこともしたけれど、二人が偶然とった動きの面白さや、撮影場所に行く途中で見つけた風景など、自然の流れで撮ることも多かったです」。
そう話す稲岡さんは、双子の撮影期間に稼業を継ぐことを決意。
「京都で500年以上続く蕎麦屋で、これだけ長く続いているのは、先祖がつないできた力に守られているからこそ。今属している部分だけではない、見えないつながりこそが大事。双子の撮影で、改めて強くそう感じました。とはいえ、撮っているときは実はよくわからなくて、写真集にすることで、より客観的に自分が向き合ってきたものを見ることができました。石を撮っても空を撮っても、水でも人でも、対象によってテーマが変わることはありません。それは、生きていくうえで大事な”見えないもの”。同じ年頃だったときの私とは違って、この双子の少女はとても落ち着いていて、意識や壁を感じさせることもなく、まるで空気を撮るかのように自然に撮影することができました。作品となったのは彼女たちだったから。二人に出会えたことは本当にラッキーだったと思います」。

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GENIC vol.65【「記録と記憶」ドキュメンタリーポートレート】
Edit:Akiko Eguchi

GENIC vol.65

GENIC1月号のテーマは「だから、もっと人を撮る」。
なぜ人を撮るのか?それは、人に心を動かされるから。そばにいる大切な人に、ときどき顔を合わせる馴染みの人に、離れたところに暮らす大好きな人に、出会ったばかりのはじめましての人に。感情が動くから、カメラを向け、シャッターを切る。vol.59以来のポートレート特集、最新版です。

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