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「Q.10 同じ人を長く撮り続けること、撮り続けられることで得たものは?」松井綾音×坂東龍汰|Portrait Q&A 10/45

写真家や俳優、モデルなど41名が答えた、全45問のPortrait Q&A特集。人にカメラを向けるからこそ、迷いはなくしたい。自分の写真をちゃんと好きでいたい。そのためにどうするか?「ポートレートの答え」はここにあります。
今回の回答者は、8年間、坂東龍汰を追い続けたフォトグラファーの松井綾音さんと、写真家としての顔も持つ感性豊かな表現者、俳優の坂東龍汰さんです。対談形式でたっぷり語っていただきました。

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目次

プロフィール

松井綾音

フォトグラファー 兵庫県出身。都内スタジオ、アシスタントを経て2020年独立。ポートレートを中心に、雑誌、web、アパレル、アーティスト写真などを主に撮影。映画やドラマのスチール撮影など幅広く活動を行う。

坂東龍汰

俳優 1997年ニューヨーク生まれ、北海道育ち。2023年、第32回日本映画評論家大賞 新人男優賞(南俊子賞)受賞。近年の主な出演作は、映画『若武者』(二ノ宮隆太郎監督)、『ふれる。』(長井龍雪監督)、ドラマ『RoOT / ルート』(TX)、『366日』(CX)、金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS)など。25年1月17日に主演映画『君の忘れ方』(作道雄監督)が公開。

Q.10 同じ人を長く撮り続けること、撮り続けられることで得たものは?

2023年

A. 続けられたという自信と、これからも写真をやっていく理由をもらった(撮る人:松井綾音)

この人は本当に面白くて、飽きない。飽き性だった私が、8年間、撮り続けることができたのは、坂東龍汰だったから(松井綾音)

A. 「本当の僕」が生きてきた過程を残せた。それはとても意味のあること(撮られる人:坂東龍汰)

何も演じていない、本当の素の僕の顔は、ここにしかない(坂東龍汰)

2022年

2018年

2017年。出会った日の1枚。

松井綾音×坂東龍汰 対談

二人の出会い

初めて会ったとき「新人類」だと思った

坂東:写真を撮らせてほしい、って連絡をもらったのが出会い。僕は役者を目指してて、事務所に送る写真を誰かに撮ってもらいたかったタイミングだった。もう8年も前か。

松井:私もまだ、スタジオに入ったばっかりの頃。小さいときから家族の中で写真係的な存在で、ずっと記録のように家族を撮ったり、友達を撮ったりしてた。だから東京に出てきても撮る相手が欲しいなと思っていたんだよね。

坂東:何者でもない僕によく声かけてきたよね?松井のアカウントにほとんど写真があがってなかったのに、OKした僕も僕だけど。

松井:「被写体募集」ってよく書いてる人がいたけど、私はただ被写体を探してるんじゃない。その人が大物になっていくのを追いたいとかでもない。あえて大きな意味を持たせない、ただ記録として誰かを撮り続けたいという想いがあった。それには、やっぱりなんか興味があるというか、今後をずっと見ていきたいと思える人じゃないとできないな、って。

坂東:初めて会ったときどう思ったの?

松井:自分がそれまでの人生で出会ってきた人とは違う距離感を持っている新人類みたいな感じ。だからこそ、ずっと観察していきたいって思った。

坂東:僕はそんなに深く考えてなくて、誘われたから行くって感じだった。2回目以降は、友達感覚っていうのが強かったかな。「写真を撮られる」って構えていくんじゃなくて、なんか暇つぶしみたいな。というか、当時は暇だったから、行くしかないって感じだった。

松井:私は、会うたびに面白くて、本当に飽きない人だなって思ってた。だからカメラを向け続けられた。フィルムとデジタル1個ずつ、50㎜か40㎜のレンズをつけて。途中でレンズを変えたことも1回もない。ご飯を食べてても、真っ暗でも、撮りたいと思ったときにカメラを向ける。ずっとそんな感じだったね。

撮影を避けていた時期

環境の変化、背伸び、比較

坂東:そして、途中で反抗期が来た。撮られたくない!って。

松井:2020年から2年間くらいね。カメラを向けると、そっぽ向いたり絶対に使えない顔をしたりするようになって。連絡しても全然返事も来なくなり…。

坂東:それでも、ほんと「撮ろうよ」としつこくて(笑)。僕はその頃、ドラマとか映画とか、作品を1つ作るのにものすごい人の時間と労力が使われているのを目の当たりにするようになってて。「明日ひま?じゃ撮りにいこうよ」みたいなところから、いいものって生まれるのかな?って、考え出した。

松井:撮るならコンセプト決めようよ、と言うようになって。

坂東:量産した写真に、何の意味があるんだろう?と。でも、それもものすごく意味があるんだよね、こういうセッションって。その瞬間に意味がある。でもその頃の僕は、そんな安売りしたくない、みたいな(笑)。仕事で出会うカメラマンさんは、その1回の撮影にすごくたくさんの準備をしたり、ストーリーを持ってきてくれたりするのに、と。それで返事しなくなって…。

松井:私はまったく諦めずに、連絡を続けて。坂東のことは一生撮るって決めてるから、そんな目の前の今の何かとかどうでもよくて。コンセプトとか必要ない。本質は、ただ記録することだから。意味を持たせすぎたら、意味がなくなっちゃう、っていう気持ち。何もないことに意味がある。あまりちゃんと伝えてはいなかったけど。

坂東:多分言ってたんだろうけど、伝わってなかった(笑)。「ひとりを撮り続けたい」と言っていた中で、日々新しい人との写真がどんどん増えていって、最初言ってたのと違うぞ?みたいな(笑)。その中に僕の写真が混ざるのが嫌になったっていうのもあったかな。

松井:なるほどね(笑)。でもそれが職業なんだけどね。

坂東:そう、写真を撮る職業だから当たり前なんだけど。でも、なんか自分が撮られる理由が薄まっている気がして。

松井:坂東を撮ることはライフワークで、撮るのが当たり前というか、それぐらいのレベルにしていった方が、積み上げたときに面白いものが出てくるなっていう感じがしてたから、私の中では差別化はしてたんだけどね。

坂東:当時は違う世界を見てみたいってちょっと背伸びしてた。でも、結局帰ってきた。多分、ふと気づいたんだよね。昔のままの距離感でつきあい続けられるってすごいな、って。

松井:私は、我が子が立ったときの瞬間とか見逃したくない!って気持ち。初めてこんな役をやるとか、初めて坊主になったとか、絶対撮りたいって思うし。それをいつか見返して、ずっと自分を見失わないでほしいな、と思ってる。

撮り続け、撮られ続け

本当の素の顔は『日常日和』にしかない

坂東:収録する写真を選びながら、本当に思ったよ。振り返ってみて初めて気づくことが多かった。松井が変わんないならもう撮られたくない!とか言ってた時期も、今になって見直すと全部良かったなって思えた。

松井:今回、その反抗期の写真も入ってるね。年別に並んでいるから、ここは極端に少ないな、なんて思って見て感じてもらえたら。そうそう、私は、写真をセレクトしてるとき、坂東って今までちゃんと写真を見てくれてたんだと思って、ちょっと感動した。

坂東:8年間分、この日にこういうのを撮ったとか全部覚えてる。だからラフを見ながら、この日のセレクトはこの写真の方が良いんじゃない?みたいに頭の中に出てくる。それで、選びなおした写真もあるよね、かなりバチバチしながら。

松井:私はこれは譲れない!みたいな。

坂東:僕もこれ、譲れないんですけど?、みたいな(笑)。本音をぶつけあったおかげで、最高にいい写真集ができた、って自信を持って言える。

松井:愛のある戦いだったね。

坂東:僕をずっと撮り続けてきて、松井が得たものは?

松井:基本的に自己肯定感がすごく低いので、ここまで撮り続けられた、撮らせてもらい続けられた、ってことは、大きな自信になっているし、これからもずっと写真を続けていく理由をもらったとも思ってる。

坂東:すごいな、大きいな。10代から撮られてるんだもんな。ま、もう撮られたくないけどね。

松井:またそれか(笑)。これからも、大きな意味を持たせず、ただ撮り続けたい。お互い何してるかわかんないけど、50歳の坂東龍汰を撮ってたら面白いなって。想像するだけで楽しい。

坂東:親父が写真好きで、子供の頃からのアルバムがたくさんあるけど、今回の写真集は、それを見ている感覚に近い。今までずっとデータでは見てきたけど、やっぱりそこにあるようでないようなものだったというか。今回、紙にして本にしていく過程で、写真集が作れてよかったって心から思った。

松井:『日常日和』っていうタイトルが、すごく内容を表してくれているよね。

坂東:今まで僕を応援してきてくれた人にもだし、これから僕を知ってくれる人にも、みんなに、僕の生きてきた過程が伝わる写真集になった。表に出る顔の僕はお見せできても、素の僕をお見せできることってほとんどない。本当の素の顔っていうのは、今回の写真集にしかないなって思う。ちょっと恥ずかしい気持ちもあるけど、僕からしたら。でもぜひ、坂東龍汰という人間の記録を見てほしいです。

2024年。坂東龍汰撮影の松井綾音。

坂東龍汰 ファースト写真集「日常日和」情報

役者を目指していた19歳の坂東龍汰と出会った松井綾音が、8年間撮り続けた記録が一冊に。
2024年12月4日発売。

坂東龍汰 ファースト写真集「日常日和」詳細

GENIC vol.73【Portrait Q&A】Q. 同じ人を長く撮り続けること、撮り続けられることで得たものは?

GENIC vol.73

2025年1月号の特集は「Portrait Q&A」。ポートレートの答えはここにある

人にカメラを向けるからこそ、迷いはなくしたい。自分の写真をちゃんと好きでいたい。そのためにどうするか?「答え」はここにあります。写真家や俳優、モデルなど41名が答えた、全45問のQ&A特集です。

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