Nagi/みなぎ
保育士。2000年生まれ、京都府出身。伊根町で生まれ育ち、海の暮らしをSNSで発信している。高2のときに初めて購入したミラーレス一眼を愛用していたが、SNSをきっかけにフィルムに興味を持ち、ハーフカメラ、コンパクトフィルムカメラ、フィルム一眼の魅力にはまる。
愛用カメラ:ASAHI PENTAX SP、Canon Autoboy S II
愛用レンズ:SMC TAKUMAR 50mm F1.8
京都・伊根
心穏やかな気持ちになれる美しい伊根の写真を残していきたい
「ゆっくりと伊根湾を観光できる海上タクシーは、やさしいおっちゃんが操縦しています。伊根の舟屋についてわかりやすく丁寧に教えてくれます」。
当たり前だと思っていた光景が実はそうではないと知り、この町で暮らしていることが誇りになった
京都の伊根町に住むNagiさん。保育の勉強をするために、2年間だけ離れて生活したことで、逆に故郷を見直すことができたんだそう。
「朝、出航していく舟のエンジン音で目覚めたり、外からカモメの鳴き声が聞こえたり、父が獲ってきた魚を祖母たちが調理して、家族みんなで食べるという生活を送ってきました。地元を離れて、その生活が当たり前ではないことを知りました。私がSNSに写真を投稿するのは、見る度に変化する海の面白さや穏やかな伊根の姿を、この場にいない人にも感じてほしい気持ちが根本にあるからだと思います」。
「潮の香り、しんとした空気、静かな時が流れるなかでシャッターを切りました。夕方、西日が差すころ、舟屋に住む祖母がイカを料理している様子を内側から撮影。水が滴っているイカが好きなポイント。我が家は母屋に両親と私、舟屋に祖母と2軒に分かれて生活しています」。
「舟屋の内部見学ができる幸洋丸から撮影しました。しゃがみ込んで低い体勢で撮ることで、伊根湾の入り口にある“青島”を額縁に入れたかのように写すことができました。“青島”は伊根湾を守る防波堤の役目をしてくいれている島なんです」。
伊根での生活はどこもかしこも撮りたいもので溢れている
「400年の歴史がある眺望のよい海福寺から、雪が静かに降り続く冬景色の舟屋群を撮影。京都府北部は1日の中で天気が変わりやすく、晴れていると思えば急に雨や雪が降ったり、またすぐに止んだり。この天気を“うらにし”と呼んでいます」。
「伊根の冬はとても寒く、凪の日もあれば荒れの日もあります。雪が降ると向こう岸の舟屋群が見えなくなり、真っ白な世界に1人ポツンといる感覚になったり、雲が晴れると透き通るような澄んだ空が広がったりします。同じように見える写真でも、波の様子や海の色、透明度、船の種類もタイミングも全部違います。伊根での生活は、どこもかしこも撮りたいもので溢れているんです。私にとって伊根町は、穏やかな気持ちになれる場所。海風と陸風が入れ替わる時、風が止み“凪”という状態になります。波一つないその光景を見ると、疲れたことがあっても吹き飛ぶほど心が穏やかになるんです。明日からまたがんばろうと、励みになります。私の名前、美凪(みなぎ)は、“伊根の海の美しい凪のように穏やかに”という願いを込めてつけてもらいました。私が撮りたいのは、心が穏やかになる写真。疲れた人も、ホッとできる光景を届けていきたいです」。
「祖母の背中が温かく感じられる大好きな写真。祖母は誰かに喜んでもらうことが本当に好きで、“もっていきなれ〜(持って行きなさいな)”と干したイカを友人や親戚に渡したりしています。尊敬している祖母のような人に、少しでも近づけるようになりたいです」。
「縄と竹、手作りの魚を干す道具。脂ののったイワシ。昼間は真上から太陽の光が降り注ぎ、海の透明度が上がります」。
「日中、降り続いた雪も止み、ほのかに青空が広がり渡る伊根湾。澄んだ空気が肌に触れ、ひんやりと感じられました」。
GENIC VOL.61 【フォトグラファーが伝える地元の冬景色】
Edit:Izumi Hashimoto
GENIC VOL.61
特集は「伝わる写真」。
私たちは写真を見て、何かを感じたり受け取ったりします。撮り手が伝えたいと思ったことだけでなく、時には、撮り手が意図していないことに感情が揺さぶられることも。それは、撮る側と見る側の感性が交じり合って起きる化学反応。写真を通して行われる、静かなコミュニケーションです。