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日常の中の混沌 金作日菜子

構えずに、そこにある日常に焦点を当てシャッターを切ると、愛しい日々が溢れている。最も身近な存在ともいえる我が子を撮り続けることは、表現者にとってごく自然な行為なのかもしれません。撮り続けることで刻まれていく記憶と記録の断片を少しだけ見せてもらいました。
「愛しき記録と記憶。我が子を撮り続けるということ」1人目は、写真家の金作日菜子さんです。

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目次

日常の中の混沌

「休日の朝、じいじの席を半分横取りしてお人形たちと一緒にアニメを見る娘と、気にせず本を読むじいじ。お人形2体は私が小さい頃遊んでいたもので、今は娘のものになっています」。

「ファミレスで広い席を独占して自由な娘。テーブルから手だけ見えているのが可愛くて撮りました」。

散らかった部屋もパジャマ姿も客観的に見て酷い状態も私にとっては美しい

特別でもない、丁寧でもない日常の中の混沌を美しいと思う

「お気に入りのパジャマを着て、頭にも首にもヘアバンド、手には大好きな生の人参スティックを持っています。娘が生まれてからしばらくの間は引越しばかりで落ち着かない生活だったんですが、この頃実家に戻ってきて、娘も安心している様子が嬉しくて撮りました。雑多な家を撮り始めるきっかけとなった写真です」。

「ほとんど昼寝をしない娘が珍しく寝てしまい、何をしても起きませんでした」。

「お花見に行ってりんご飴を食べているところ。ピントを外したほうが面白そうだなと思ったので奥ピンにしました」。

「自分の暮らしを好きになれない時期がありました。その頃は月に一度生活感の無い背景を用意して、当時0歳の娘の月齢フォトを撮る以外、カメラを持つことはありませんでした。母となったことで自由に行動できる時間も範囲も狭くなり、かつての自分がどこかに消えてしまったように感じ、昔のように写真を撮れない状況を嘆いたこともあります。そんな中でも、自由奔放な娘の写真を撮り続けたことで、分断されているように感じていた、かつての自分と母としての自分が繋がっていくのを感じました。現在では写真の幅も広がり、軸を持てるようになり、外界とも繋がることができるようになったと感じています。今は、散らかった部屋もパジャマ姿も、客観的に見て酷いだろうなという状態でも、撮りたいと思えるのです。特別でもない、丁寧でもない日常の中の混沌を、美しいと思うようになりました。この先、時を経て生活が変わっても、今のこの時間を思い出せるように、安心して忘れられるように、写真を撮っています」。

「出産時も病院にカメラを持参したのですが、実際に生まれてみると新生児のディテールに感動してもっと寄りたくなり、中古のマクロレンズを買いました。それ以来、定期的にマクロレンズで成長記録を撮っています」。

Q.「自分らしさ」をどのように投影していますか?

A.構図を決めすぎず、ラフであること。ドラマティックにしないこと。娘には自由でいてもらうこと。色は見た印象のままにすること。

「精算機の順番待ち中、ばあばに対して変顔する娘です。顔や腕、脚の表情と、娘以外はみんな白い服を着ているところが気に入っています」。

Q.スナップ写真を撮るうえで気を付けていることは?

A.写真ばかり撮っていて娘に怒られることがよくあるので、撮らない時間も大切にしたいと思っています。

「コンパクトカメラでフラッシュを焚くとシャッターのタイミングがずれることがあります。予測できない要素が多い分、想像を超えたものが撮れるので楽しいです」。

Q.理想のシーンを切り取るために、その場で「待つ」ことはありますか?

A.「待つ」ことはあまりないのですが「今のもう一回やって」と娘にお願いすることはあります。ディレクションをしていることになるからスナップではないとおっしゃる方もいるかもしれませんが、うちの子は指示をしてもその通りには動いてくれないので、思い通りにはならないことを想定したうえで、実際に起こる別の出来事に期待しています。

「幼稚園の発表会の後、お土産でもらったパンをどうしても車の中で食べたいハイテンションな娘と、降りてこないので気になって覗く祖母」。

Q.ご自身にとってズバリ、写真とは?

A.外付けHDD。自分に足りない部分を補ってくれるもの。

3歳11カ月

「犬になって犬小屋に入り、エサという名目のグラノーラを食い散らかし、満足げな様子。視線の先にはタブレットがあり、アニメを見ています」。

5歳7カ月

「よく何者かになりきっている娘。猫になっている時は『シャー!』と言って威嚇したり家具で爪を研いだりもします。この日はボウルで水を飲んでみたけれどうまく飲めませんでした。ヒゲとお鼻はいつも自分で描いてます」。

Q.自分の作品を見る人に伝えたいことは?

A.世の中には目に見えない正解のようなものがあって、みんながそれを目指さなければいけない空気を感じています。子育てをしていると特に、それまでは気にしないでいられていた「常識」や「普通」といった概念にとらわれる瞬間が度々訪れます。その度に娘はそんな私に全力で抵抗してきて、それはもう大変なんですが、おかげで気づくこともたくさんあります。写真も生き方も家族の形も子育ても、もっと自由になったらいいなと思っています。

金作日菜子

写真家 京都工芸繊維大学造形工学課程意匠コース卒業後、株式会社スプーン(現アマナフォトグラフィ)にてアシスタントとして働く。退社後、渡米。現在は子育てをしながら写真を撮っている。カメラ歴は約17年。写真集「PRUNY FINGERS」が販売中。
愛用カメラ:FUJIFILM X-T5、Nikon COOLPIX W300
愛用レンズ:XF23mmF1.4R、XF35mmF2 R WR、XF60mmF2.4 R Macro

金作日菜子 Instagram(@knsk_hnk)
金作日菜子 Instagram(@hinakokanasaku)
金作日菜子 X

GENIC vol.69【愛しき記録と記憶。我が子を撮り続けるということ】
Edit:Megumi Toyosawa

GENIC vol.69

1月号の特集は「SNAP SNAP SNAP」。
スナップ写真の定義、それは「あるがままに」。
心が動いた瞬間を、心惹かれる人を。もっと自由に、もっと衝動的に、もっと自分らしく。あるがままに自分の感情を乗せて、自分の判断を信じてシャッターを切ろう。GENIC初の「スナップ写真特集」です。

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