旅の荷物と "よぶん" なもの/ぽんずのみちくさ Vol.27
雑誌やネット記事で、「カバンの中身」や「ポーチの中身」のページをよく見かける。通勤カバンやメイクポーチの中身を見るのも楽しいけど、私が思わず食いついてしまうのは「キャリーバッグの中身」や「旅グッズの一覧」だ。一つひとつ、指差し確認でもするようにアイテムをチェックしてしまう。
一般的に、旅の荷物というのは必要最低限のもので構成されている。いくら荷物が多い人だって、海外旅行であれば飛行機に載せられるだけのものしか持っていけない。着替え、財布、スマホ、パスポート、そしてプラスアルファの小物たち。旅の持ち物について考えるとき、思い出すことがある。
キューバの田舎町で、同世代の日本人女子ふたりと同じ部屋になった。つるちゃんと、のんちゃん。幼なじみだというふたりは、社会人になってからも毎年どこかで休みを合わせ、一緒に海外旅行をしているという話だった。
いかにも今どきの女の子といった、おしゃれで華やかな雰囲気のふたりが、お湯の出ない冷たいシャワーを浴びたり、アリの沈んだオレンジジュースを「良質なタンパク質です」と平気な顔して飲み干したり(さすがにアリは取り出してたけど)、しつこくつきまとう蚊にブチ切れたりしている様子がなんだか意外でおもしろくて、彼女たちといると飽きなかった。
旅のあいだは女なんて捨ててますからね!と、ふたり揃ってけらけら笑う。
水シャワーを浴びたあと、つるちゃんがバックパックから取り出したのは、最近ネットや美容雑誌で「神アイテム」と話題になっているヘアブラシだった。500mlのペットボトルより少し大きいくらいのそのブラシは、お世辞にもコンパクトとは言い難い。
だけど彼女は、わざわざそれを選んだ。きっと彼女の中に、「わざわざ持ってきた」という感覚はないのだろう。胸元まである彼女の黒い髪が、つややかで美しい理由を垣間見た気がした。
ちょっと重い。少しかさばる。なくても死なない。だけどどうしても連れていきたい、そんなものが人にはきっとあって、外見は似たようなキャリーケースやバックパックでも、中にはちょっとずつ違うものが詰まっている。
その小さな違いにこそ、その人らしさが透けているような気がする。だからこそ、その “よぶん” が、たまらなく愛おしく思えてしまうのだ。
ぽんず(片渕ゆり)
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。