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【偏愛というロマン:4】鍵井 靖章

独自の愛する被写体を持ち、撮り続けている4名の写真家の「撮りたい!」という衝動の裏にある想いとは?
長きにわたり追いかけ、真っ向から向き合うその情熱に迫ります。
第4回は、大胆かつグラフィカルな水中写真で人々を魅了する鍵井 靖章さんです。

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鍵井 靖章

水中写真家 1971年3月5日(珊瑚の日)生まれ、兵庫県出身。1993年よりオーストラリア、伊豆、モルディブに拠点を移し、水中撮影に励む。1998年に帰国、フリーランスフォトグラファーとして独立し、ダイビング雑誌などで活躍。3.11以降は、震災を経験した海に生きる生命を定期的に記録している。最新作『MELUSINA』(キヤノンマーケティングジャパン)の他、『unknown』(日経ナショナル ジオグラフィック)、『不思議の国の海』(PIE International)など写真集多数。2013年、2015年、日経ナショナル ジオグラフィック写真賞優秀賞受賞。TBS「情熱大陸」、TBS「クレイジージャーニー」などにも出演。
愛用カメラ:Canon EOS R5

この世界の輝きが誰かをほぐす水中写真。UNDER WATER WORLD

いつも見てくれる人たちのことを考えている。でも根底にあるのはやっぱり、"自分を表現する"ということ

国内外、美しいブルーの海もあれば、エメラルドグリーンの海も、暗くにごった海もある。誰が見てもドラマチックな光景を称える海もあれば、一見には薄暗く地味な海だってある。鍵井さんはところ選ばず、あらゆる海へと足を運び、撮影をしている。
「いま潜っている目の前の海とちゃんと向き合って、一生懸命撮影して、できるだけその海のあるがままの姿、魅力を届けたいと思いますね。だから基本的にレタッチってしていなくて、ほとんど撮って出し。海が青くなきゃいけないってことでもないし、どんな海にも魅力があって、そういうのを探し出すのが、もしかしたら僕は得意かもしれないです」。

人間と同じくらい、海の生き物たちにも話しかけてきた。海の中って、想像している以上に命があふれている

「海の中での撮影が成功するかどうか、よきシーンに会えるかどうかって、環境への敬意や配慮がやっぱり大切。これはいい写真を撮るメソッドでもあって、例えば珊瑚をバキバキ壊しながら撮っていたら、それはもう、すべての撮影がうまくいかないはずなんです。写真はほとんど感覚で撮っていて、むしろ魚への接近の仕方など、生き物や環境へストレスを与えないことに注意を払うようにしています」。

「国内でも外国でも、一人で撮影しているわけではなくて、その海を大切に思っているガイドさんがいるわけだから、やっぱり丁寧に撮影したいという気持ちがあるし、微力でも何か力になれたらなって思っています。海が好きな人って多いと思うんですけど、それが水中となると、途端に特別でニッチなものとなって、距離を置かれてしまうところがある。いろんな人に海をもうちょっと好きになってもらえるよう、努力したいですね」。

写真に"希望"をのせて届けていく

「20歳のとき、水中写真家である伊藤勝敏先生の展示を見て、大感動したのが始まりです。当時は海にも写真にもまったく興味がなかったのに、その瞬間『水中写真家になる!』と決めていました。それから31年、『海』という大きなテーマで撮り続けてきて思うのは、僕は自分の写真に”希望”をのせて、人に届けたいということ。なのでどんな写真が見てもらいやすく、より届きやすいのか、見る人のことをすごく考えています。そして海は、想像以上に輝く命であふれていて、希望を感じやすい場所です。僕のしたいことを叶えてくれるのが海なのだと思います」。
撮影のため年中国内外を飛び回り、写真集制作や展示にも精力的に取り組んでいる。非常に多忙である中、鍵井さんはメルマガ配信サイトを使って、毎朝7時に1枚の水中写真を配信するということを、3年以上続けている。通勤途中や夜勤明けの時間帯、誰かの疲れを癒したり心をほぐしたりすることができたら、との想いからだ。
「とはいっても、根本では写真家でありたくもあり、自分なりの海の見方を提示したいとも考えています。東日本大震災の後、海の中に沈んだ人間生活の傷痕を撮ってほしいとの話があり、岩手県宮古市の海に潜りました。もちろん海底に沈んだ家や人工物も撮ったけれど、僕はそこに生きる海の生き物たちにもカメラを向けた。人間生活は大切だけれど、あのとき誰か一人くらいは、海の中の世界を考えているバカがいてもいいんじゃないか、それは水中写真家である自分なんじゃないかって思ったんです。震災から3週間後の荒れた海の中で、ダンゴウオというかわいい小さな生き物の赤ちゃんを見つけたとき、本当に感動したのを覚えています。その感動もあって、以来東北の海も毎年撮り続けるようになりました。時代の流れも感じながら、自分を表現するツールとして、水中写真にずっと邁進してきました。その時間があったからこそ持てる広がりや新しい表現が、この先もまだまだあるのだろうと、いまは感じていますね」。

鍵井 靖章 Instagram
鍵井 靖章 Twitter

GENIC vol.66【偏愛というロマン】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.66

GENIC4月号のテーマは「撮らずにはいられない」。
撮らずにはいられないものがある。なぜ? 答えはきっと単純。それが好きで好きで好きだから。“好き”という気持ちは、あたたかくて、美しくて、力強い。だからその写真は、誰かのことも前向きにできるパワーを持っています。こぼれる愛を大切に、自分らしい表現を。

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