女鹿成二
写真家 1990年生まれ、岩手県出身。2011年日本写真芸術専門学校卒業、studio23入社。2014年今城純氏に師事。2017年独立後、写真集や雑誌、CDジャケット、広告撮影など幅広く活動中。2020年クリエイティブユニット「東京讃歌」として写真展「somewhere」を開催。2021年「私が撮りたかった女優展Vol.3」参加。
愛用カメラ:Nikon F6、PENTAX 67II、FUJIFILM NATURA CLASSICA、FUJIFILM 写ルンです シンプルエース
愛用レンズ:AI AF Nikkor 50mm f/1.4D、SMC PENTAX 67 90mm F2.8
#landscape
自分にとっての#landscapeは”惹かれた”を捉えた瞬間と情景
夏の昼間、旅で訪れた石川県で店先に咲いていた花。「花の色味とフォルム、柔らかい光に惹かれました。繊細さを切り取りたいと思い、絞りも開放近くで抽象的に」。
「春、曇りの日の夕方、素朴な外壁の中に色が映える風船。誰がなぜここに花の風船を飾ったのか、何気ない街中の人の匂いを感じる景色に余韻を感じました」。
Instagramでは#landscapeのハッシュタグで、独自の「風景」写真を投稿している女鹿さん。
「個人的に#landscapeは、自分が”惹かれた”を捉えた瞬間や情景です。人物写真以外の作品は、写っているものは違えど、惹かれるものに統一性があるように思うので、一貫して同じタグにしています。ありふれた日常の中にある温かさや余韻、模様、影、季節。そのもの自体が写っていなくても、それを感じるものに惹かれるのかなと。社会的な雰囲気や自分の心理状態にも影響されますが、撮りたくなるのは、自分が無意識のうちに求めている景色で、それは今の自分に欠けているものを見つけた時ともいえるかもしれません。自分の中ではつい撮りたくて撮った写真が、#landscapeのタグにマッチするんだと思います。見る人によっては、これがlandscapeなのか?と思うかもしれませんが、自分の中に軸をひとつ持っておくことが大切なのかなと」。
視点や感じ方次第で、日常は心惹かれるもので溢れ出す
春の午後の住宅街で、三匹の猫、それぞれの性格が現れた瞬間。「光とブランケットの温もり。まさに日向ぼっこという言葉が似合う、優しい時でした。肩肘張らずに、力を抜いて過ごすことも大事だなと」。
「春の午後、植物とフェンスの影が伸びる様子に、自分の影も入れて日常感を。ごくありふれた風景の儚さを表現したいと思い、フィルムをあえて感光させて、色調でも物語を感じるように試みました」。
「#landscapeの作品で伝えたいのは、視点や感じ方次第で、日常には心惹かれるものが溢れているということ。たとえ人が写っていなくても、人の温もりや匂いが伝わるといいなと思います。作品を人に見てもらった時に、何かふわっとでも優しさや懐かしさが感じられるような景色を、写真に残していきたいです」。
人との出会いがあるように風景ともいろいろな出会いがある。出会ったものを1とすると自分が写真に収めることでOneや1aに変化するのが楽しい
「岩手の実家で冬の午後、雪だけど日差しが暖かで、犬小屋の屋根の角になぜか柿がある不思議さに惹かれました。人も犬も写っていないけれど、想像できる面白さがあり、この一枚の中にいろいろな情報が詰まっている、深みのある写真だなと」。
「人にはいろいろな出会いがありますが、風景も同様にいろいろな出会いがある。出会ったものを1とすると、自分が写真に収めることでoneとか1aとかに変化する感覚でしょうか」。
ある1つものが、写真を撮ることによって、1の変化形になるのが楽しいという女鹿さん。
「風景を撮る時は、自分が思うままに撮影できる。時間や天候、自分の心境によって、見え方がさまざまなことにも喜びを感じます。もう少し歩いて撮ろうといつもと違う道を選んだり、その日の気分でここに行ってみようと思い立ったり、さまざまなことが関係しあって、日常やどこか旅先で、心惹かれる状況に出会えるのも面白さ。はたまたフィルムを現像して上がった写真を見ることで、撮影した時の情景が思い浮かぶのも魅力です」。
目にした景色の余韻や移り変わりを自分の心情とともに写していけたら
岩手の陸前高田で春の午後に撮影。「震災の8年後に訪れた際の奇跡の一本松。全景は入れず、幹と枝と葉の力強さと快晴の青空を写しました。前向きな印象を出したかったので、太陽のハレーションも入れて。ある程度シルエットが出るような明るさに」。
冬の朝、実家の庭で。「雪の煌めきと日差しの陰影、寒さの中で咲く植物。よく見ると愛犬の足跡も写っています。雪の質感に気をつけつつ、ブルーも自然に被ってくるくらいでプリント。湿度と日常の模様を伝えたくて」。
「いろいろなところに視点を向けること、その時にしか撮れない瞬間そのものを丁寧にそっと自分の距離感で見ているような感覚など、大切にしていることを言葉にするとキリがないのですが、無意識に多くのことを考えながら撮っています。その時やモノ、コトには限りがある。良くも悪くも、幸せも苦しみもずっと続くことはありません。だからこそ、ひとつひとつを、その瞬間を大切に撮りたいと思っています。写真を撮る理由は、好きだからなのはもちろんですが、自分の想いを整理するため。風景写真を撮り続けているのは、自分の好きなものを再認識できるからです。やっぱり写真っていいなと、大好きな写真を嫌いにならないために」。
何かふわっとでも温もりや優しさ、懐かしさが感じられる景色に出会うとつい撮りたくなる
「春の午後、工事現場で影の模様とブルーの網、柵のジグザグに惹かれました。風に揺らぐ網の影が、何か生き物にも見えるような」。
夏の夕方、最寄り駅近くの工事現場で。「夕陽と人、ホースから出る水、丸く入ったハレーション。日常の何気ない景色と真面目に作業に取り組む人の姿。いろいろなところに学ぶべきことが潜んでいることを伝えたいと思った一枚です。車の窓のフレームを入れることで、何かのワンシーンのようにも見えて、それによって画が締まることも狙いました」。
冬の夕方、東京ドーム近くで高いところから俯瞰で撮影。「行き交う人々と夕陽のハレーション、橋と道路とドームの入り口が模様に見えたり、トラックが整然と並んでいたり、構図に何を入れて何を入れないかを意識しました」。
GENIC vol.66【気がつけば、追いかけて】
Edit:Yuka Eguchi
GENIC vol.66
GENIC4月号のテーマは「撮らずにはいられない」。
撮らずにはいられないものがある。なぜ? 答えはきっと単純。それが好きで好きで好きだから。“好き”という気持ちは、あたたかくて、美しくて、力強い。だからその写真は、誰かのことも前向きにできるパワーを持っています。こぼれる愛を大切に、自分らしい表現を。