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【#写真家が撮る日常:6 】女鹿成二(SEIJI MEGA)

光がきれいだから、今が楽しいから、撮る理由はいたってシンプル。なにげない日々のなかで、大切な時間や場所を記憶にとどめ、未来に残してくれる日常写真。写真家6名が捉えた日常、それぞれの切り取り方をご紹介します。
今回は、素朴な日常にある情緒をフィルムでやわらかく写し出す写真家、女鹿成二さんです。

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女鹿成二

写真家 1990年生まれ、岩手県出身。カメラ歴12年。2011年、日本写真芸術専門学校卒業後、studio23入社。2014年、今城純氏に師事。2017年独立後、写真集や雑誌、CDジャケット、広告撮影など幅広く活動中。2020年クリエイティブユニット「東京讃歌」として写真展「somewhere」を開催。
2021年「私が撮りたかった女優展Vol.3」参加。
愛用カメラ:Nikon F6、PENTAX 67Ⅱ、FUJIFILM NATURA CLASSICA、写ルンです シンプルエース
愛用レンズ:AI Nikkor 50mm f/1.4D、SMC PENTAX 67 90mm F2.8

小さな幸せ

「同郷の俳優さんと地元ロケ中、喫茶店で頼んだパフェのスイカとメロン。絞りを浅めにして一番見せたいものを真ん中におき、絵が締まるバランスで黒いテーブルを。パフェだとわかるくらいのレベルで画角に入れたレトロな器、赤と緑の色合いと季節感、喫茶店の余韻を写しました」。

実家の椅子に無造作に置かれた編み物。
「母が編んだひざ掛けを窓から漏れる夕方の光で。やわらかさと温もり、人のにおいが感じられるように、少しアンバーにプリント」。

何事も当たり前ではないこと、その瞬間の大切さを伝えたい

「実家のお風呂場で水を飲み終わった猫がどこかへ行こうとしたのか、人に気づいて逃げたのかという瞬間」。

トーンや色味もやわらかい感じが好きだという女鹿さんの日常写真は、「素朴だけれど、写真の中に物語や余韻があり、情緒が写っているもの」。
撮ることが好きで、それは仕事でもあり、頭や視覚で写真のことを考えているのが“日常”だという女鹿さん。
「自然な仕草や風景を切り取るのが好きなので、それを逃さないよう常にアンテナは張っています。カメラを向けたくなるのは、やわらかな逆光が人や建物、植物に当たっているとき。淡い色のもの。空。動物。子供が公園で遊んでいる様子や高校生の登下校、社会人の仕事風景やお年寄りのお散歩といった、誰かの日常。楽しそうに話している人や気持ちがほっこりするシーンに出会ったとき、懐かしさや優しさ、余韻、感動、その瞬間の大切さが写真を見た人に伝わるかどうかを考えながら撮っています」。

「実家を出る前は毎日必ず見ていた犬の日向ぼっこシーン。気づかれないようドア越しに犬の眼差しと佇まい、朝のきれいな光と影を撮影。季節がわかるよう左に少し雪を残して」。

素直に自分が良いと思った瞬間を撮った写真が誰かにとっての大切な思い出に

撮った写真を女鹿さんが見返すのは、「誰かが結婚したり、遠くに引っ越してしまったりしたとき。人が生まれたり、亡くなったり、節目で何かを思い出したいときですね」。
「写真は思い出であり、大切な何かを気づかせてくれるもの。甥っ子の成長、両親や実家の猫の老い…生きている限り、日々何かしら変化していることに感慨深さを覚えます。だから日常の小さな幸せを写真に残していきたいです」。

「夏休みに帰省した際、甥っ子と近所をサイクリング。疾走感と頑張って僕を追う何ともいえない表情、楽しさが伝わる瞬間を」。

実家裏の畑で夕焼け空を背景に。
「少し丘になったところでジャンプする甥っ子を、写ルンですのフラッシュ撮影で人が少し浮き出るように」。

「家族で初詣に出かける前の様子。見慣れた車と両親の性格がにじみ出るような表情と空気感を、なるべくカメラを意識されないよう瞬間的に撮りました」。

街中で惹かれるのは誰かの日常。余韻や物語を感じるシーン

「日が落ちる間際まで自由に遊んでいるシーンは、過去の自分の日常を思い出す情景。子供たちの性格がわかるような動きの瞬間を撮影。全景は入れずとも、タコとわかる色味や吸盤のモチーフで説明的になりすぎないように」。

「普段よく通る道にある広場で、子供たちが遊ぶ様子は友達、兄弟、たまたま通りかかった子…それぞれの関係性が見えてくるようなシーン。ハレーションが入るように、右上に少し太陽を写りこませました」。

フィルムの優しいトーンと“不鮮明さ”が見る人の想像を膨らませる

撮るときは自分の存在感を消して、被写体を邪魔しないような距離感も常に気にしているという女鹿さん。
女鹿さんが写真を撮るときに欠かせないのが、いつも愛用しているFUJIFILMカラーネガフィルム フジカラー PRO400H。
「オーバーめに撮影して、明るめに仕上げてもシャドウのトーンが残るように。カメラやレンズもコントラストがやわらかく、シャープ感が出過ぎないものを使用しています」。

春の夕暮れ前、気になっていた写真展を見た帰り、散歩がてら通った道に咲いていたお花。
「花の繊細さとピンクと緑の色味がきれいで、実際に間近で見ているように前ボケで奥行きを出し、色味がきつくならないように、暗室作業のカラーフィルターのバランスを調整。花が咲き始めであることを連想してもらえるように、つぼみも写し込んでいます」。

駅からの帰り道、光によるドラマティックな景色を撮ったもの。「なにげない道路沿いに佇む花が、後ろの白いフェンスの光の反射で柄のように見えました。状況がわかるように下に自転車レーン、上に色味を足すために木の緑と空の青をさりげなく入れて」。

フィルムで撮るようになったのは、師匠・今城純氏のもとで一から学んだことがきっかけ。
「デジタルに比べて不鮮明ですが、写っているものの風情やその場の湿度まで写る感覚が好き。不鮮明だからこその余韻や懐かしさなど、見る人の想像を掻き立てるのも魅力です。色味の出方やラティテュードが広く、やわらかいトーンで表現できるところも好きですね。現像が上がってくるまでの緊張と期待、想像以上の仕上がりになっていたときの喜び、そして予定調和にいかないのも面白さ。撮っているもの自体は基本シンプルですが、1枚1枚丁寧に撮影するというスタンスやひとつひとつの行程を経て作品になることで厚みが生まれるのかなと。そこにフィルムで撮る意味を感じています」。

近所のバッティングセンターで目にした、物語性のある休日のひとこま。
「大人たちに混ざってひとり、ユニフォーム姿で順番待ちしている少年。秋の夕暮れどき、少年に当たる光、照らされる背番号に未来を感じました」。

川沿いで工事途中の重機は、幼い頃の乗り物への憧れが感じられる1枚に。
「重機をおもちゃっぽく見せるため、手前ボケを入れつつ、引いて抽象的に撮影。優しい印象にしたかったので、アンバーめにプリントしました」。

女鹿成二 Instagram
女鹿成二 Twitter

GENIC VOL.60 【写真家が撮る日常】

GENIC VOL.60

特集は「とある私の日常写真」。
当たり前のようでかけがえがなく、同じ瞬間は二度とないからこそ留めておきたい日常を、表現者たちはどう切り取るのか。フォトグラファーが、クリエイターが、私たちが、それぞれの視点で捉えた日常写真と表現、そしてその想いに迫ります。

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