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愛すべき瞬間を探して tsukao

まだ見ぬ光景に出会うために、愛しき瞬間を集めるために。何を心掛け、どのように行動しているのか?
カメラとともに旅するフォトグラファーたちがこだわる旅先でのMyルールを通して、旅への想いや、その人流の「世界の歩き方」に迫ります。
フォトグラファー流 “旅のMyルール” 2人目は、日常を旅して美しい一瞬を集めるフォトグラファー、tsukaoさんです。

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愛すべき瞬間を探して

今この瞬間にも、世界のどこかで愛すべき瞬間が生まれている

「例えば、ビーチでペットの犬が老夫婦についてゆっくりと歩いている後ろ姿。木登りに夢中な子供たち。夕焼けに向かって歩く人。些細な日常だけれど、愛すべきだと思える瞬間を撮り集めています。世界のニュースはいつも悲しいことで溢れているけれど、人は暗い中だけでは生きていけない。世界を歩いてみると、日常の光の中で、奇跡的な愛すべき瞬間に出会えます。その瞬間を写真に撮って集めることで、この世界も悪くないなと思うことができます。以前はバックパッカースタイルの旅がメインでしたが、近年はスーツケースで少し良いホテルに泊まるのも好きです。歩き回る旅も好きだし、ホテルから出ずにのんびりする旅も好き。街の中で暮らすように、一ヶ所で一週間過ごす旅も好き。さまざまなバリエーションの旅を楽しんでいます。そして、世界中の日常や光をできるだけそのまま、触って壊してしまわないように写真を撮ります。今この瞬間にも、世界のどこかでこんな愛すべき瞬間が生まれているんだと感じながら、世界をそのまま写し出したいと思っています」。

【RULE:01】自分を無にして、存在を消す

2008年 クロアチア。「アドリア海に浮かぶ島々をアイランドホッピングしながら、港に住む猫たちを撮影。気配を消してそっとシャッターを切ると、猫たちも意識せず普段通りに動いてくれました。干された洗濯物、いつも漁師さんが座っているベンチ...西日が反射する海が眩しい、小さな港の日常の一瞬」。

「撮影の際には集中して余計な思考を無にして、浮遊する虫のようにその場に溶け込み、目の前の光景を壊さないようにそっとシャッターを切ります。その結果、写り込む人や動物がカメラや撮影者を気にすることがなく、映画のワンシーンのような一枚を撮ることができます」。

【RULE:02】惹かれる瞬間を逃さない

2008年 セルビア。「コバチッツァ村という、絵描きのおばあさんがいっぱいいる村があると聞いて行ってきた旅。庭での結婚パーティのテント裏で、風船を追いかけている少年がとても可愛かった。そういえば子供の時は、大人の冠婚葬祭なんてつまんなかったな。そんなことを思い出しながら撮った一枚」。

「0.1秒で写真は変わってしまう。あ!っと心が惹かれる瞬間に、素直にシャッターを切ります。その瞬間を逃さないように。そのためには、心を無にして集中しておく必要があります。上の写真は、結婚パーティに飽きちゃった少年が、風船を追いかけているところ。持っているカメラは連写などできない二眼レフのローライフレックス。1本のフィルムで12枚しか撮れない。動きが速い子供に対して、慎重に慎重に、わあっと心が動いた瞬間にシャッターを切りました」。

【RULE:03】旅撮影のカメラは2台(+α)まで

2011年 ベルギー・ブルージュ。「街角でキスする恋人たち。本当に軽く挨拶するような一瞬のキスなので、カメラなんて選んでいる暇はない。シャッターは1回のみ。ブルージュの可愛い街並みを入れて、普段の生活のワンシーンを撮影。カメラはホルガ 120」。

「最初の撮影旅ではあれもこれもと欲張って、5〜6台のカメラや予備を持参。でも、機材が重いと機動力が削がれて良い瞬間を逃してしまうことに。今では、メインカメラ2台とコンパクトカメラ程度に抑えるようにしています。カメラを厳選して荷物を軽くすることで、長時間歩きながらの撮影が可能になり、良い瞬間を逃さなくなります」。

【RULE:04】旅の荷物はグラムの戦い

2014年 ブラジル。「白い砂漠、レンソイス。広大な砂漠を歩くので、荷物は最低限に。カメラは首から掛けて、予備カメラやフィルムはリュックに入れ、両手を空けた状態で。砂丘を登り切った時に見えた光景が、青空と真っ白い砂丘、そして砂丘の上に立つ後ろ姿の女性。見たことがない、美しいシーンでした」。

「移動中に、シャッターチャンスが訪れることも。どんな時も機動力を高めておきたいため、ルール3と似ているけれど、全荷物を軽さで選びます。軽いテロテロのワンピースや、80g台の傘を探すなど。エコバッグひとつとっても、5gでも軽いものに。すべての荷物でグラムの戦いをすることが、良い写真を撮ることにつながります」。

【RULE:05】晴れた日は毎日歩く。でも、無理はしない

2014年 モロッコ。「モロッコは街によってテーマカラーがあり、海辺の街エッサウィラのテーマカラーはブルー。扉のブルー、タクシーのブルー、窓のブルーが空の青さとよく似合い、歩く人とのバランスも良くて気に入っている一枚。暑い国で炎天下を歩き回るのは危険なので、日陰での休憩を挟みながら撮影します」。

「天気の良い日はやはり良い瞬間に出会うことが多いので、なるべく街を歩きます。天気はいつ急変するかわからないし、今の光は今しか撮れない。とはいえ、旅の後半は疲れも溜まってくるので、雨の日は休むなどメリハリも大事。体調を崩すとせっかくの撮影機会を逃すので、無理をしないことも重要。体力も含めて、今の自分が撮る写真を大切にします。おばあちゃんになって死ぬ時は、目のまばたきで最後の写真を(心の中で)撮るのかもしれない」。

【RULE:06】人の温もりを感じられる風景を探す

2012年 エストニア。「森の中の古い一軒家。なんでもないけれど、温かい家に優しい木漏れ日が降り注ぐ愛すべき一瞬。生活用品などが見え、人は住んでいる様子。なんて美しい場所に住んでいるのだろうと思いました」。

「写真は私にとって、世界の美しさや可愛さを確認できる宝物。風景を撮る際も、単なる景色や絶景ではなく、人が使った後のものや人が住んでいる形跡があるものなど、人や生き物の温もりが感じられる光景に惹かれます。

人間は光に引き寄せられる生き物。
暗闇の中、光が見えると人はそこに吸い寄せられる。
トンネルで一筋の光が見えたら、人はそこに向かう。
なんで人は、キラキラしたものや光に惹かれるんだろう。
キラキラしたものや光を追いかけて、とっても良いものに出会って、何万年も命を繋いできたのかもしれない。
そんな光の下での他愛のない日常は、かけがえのない奇跡的な瞬間。
大丈夫、この世界は光と愛すべき瞬間に溢れているよ。
だから大丈夫、と伝えたい」。

tsukao

フォトグラファー 兵庫県出身。神戸大学卒業後、菅原一剛氏に師事。広告、カタログ、ムービーなどの分野で活躍中。2020年、APA広告賞入賞。8年をかけ16か国の愛すべき瞬間を集めた写真集『ALL L/Right』が発売中。 https://tsukao.net
2022年、aL/Right STUDIO.をオープン。プロフィール写真撮影会などを随時開催中。
愛用カメラ:Rolleiflex、FUJIFILM GFX 50S II、Sony α 7 IV
愛用レンズ:Helios 44-2 58mm F2、Super Takumar 55mm F1.8、フジノンレンズ GF110mmF2 R LM WR

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GENIC vol.68【フォトグラファー流「旅のMyルール」】
Edit:Satoko Takeda

GENIC vol.68

10月号の特集は「旅と写真と」。 まだ見ぬ光景を求めて、新しい出逢いに期待して、私たちは旅に出ます。どんな時も旅することを諦めず、その想いを持ち続けてきました。ふたたび動き出した時計を止めずに、「いつか」という言葉を捨てて。写真は旅する原動力。今すぐカメラを持って、日本へ、世界へ。約2年ぶりの旅写真特集。写真家、表現者たちそれぞれの「旅のフレーム」をたっぷりとお届けします。

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