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バケーションと進化論/龍崎翔子のクリップボード Vol.30

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, OSAKA、
HOTEL SHE, KYOTOなど
25歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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バケーションと進化論/龍崎翔子のクリップボード Vol.30

クリエイティビティは移動距離に比例する、と巷ではよく言われているが、数年前からそれは絶対に違うと強く確信するようになった。

というのも、当時私はまだ大学に通っていて、毎週東京-京都間を往復する傍ら、暇を見つけては北海道に飛び、九州に出張し、はたまたフィンランドやアルゼンチンにと、1年間で地球を何周も回るほど移動していたのだが、手元に残ったのは新幹線の車内で熟睡する睡眠スキルと、慢性的な疲労感と目の下のクマ、そして多少のビジネスアイディアといったくらいで、クリエイティビティと移動距離が比例関係にあるとは到底思えなかったからだ。

当時の私が抱いていた仮説は別のところにある。つまり、クリエイティビティは体験した非日常に比例するのではないかと。毎週東京-京都間をひたすら往復することより、たとえ移動距離は少なくても、通ったことのない近所の道を歩き、知らない店に入り、今まであったことのないような人と話す体験を重ねることの方が未知の扉を開き人生を豊かにするような気がする。

そもそも、旅行は費用対効果が低い。10万円あればリッツ・カールトン東京のクラブフロアに宿泊し1日5回のケータリングを満喫する最高の24時間を過ごすことができるが、ハワイには行って帰ることしかできない。

よくよく考えてみると、旅行している間のほとんどはよくわからない時間を過ごしている。起きている時間の70%が移動で、それも飛行機からホテルまでの間の地下鉄とか、最寄りのバス停を探しているとか、Wi-Fiが入らなくなって彷徨っているとか、楽しいのかよくわからない時間が多い。

お金、時間、それぞれの面で考えて、あらゆるエンタメの中で単位あたりの幸福度でいうと旅行はぶっちぎりで低いだろう。にもかかわらず、なぜ人は旅行をしたいと願うのか。なぜ私は納期が立て込むとプールのある海外リゾートに行きたくなるのだろうか。

最近、面白い話を聞いた。本来特定の種が一箇所に定住することは絶滅リスクを高める行為であり、頻繁に移動をする個体が生き延びてきたのだと。つまり、移動を本能的に快楽に感じることが生物として最適な状態なのだと。現状の住処に甘んじることなく、常に新たな新天地を求め続けるという習性があるからこそ、東アフリカで生まれた我々人類は地球の隅々まで広がり続けてきたのだと。

なぜ人はわざわざ重いスーツケースを持ち、狭小空間における十数時間の軟禁に耐え、高い金を払って満足にコミュニケーションのとれない環境に行くのか。それは本能だから。仕方ないんです、生まれ持った本能なんだから。

ところで私は最近めちゃくちゃ温泉旅館に行きたいんですが、行ってもいいですよね?だって仕方なくない?バケーションは本能なんだから。

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。

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