玉村敬太
フォトグラファー 1988年生まれ、東京都出身。2007年東京電機大学工学部機械工学科入学、2011年日本大学芸術学部写真学科編入、2014年同大学卒業。2017年、所属していた鈴木陽介写真事務所・Erzを退社し「玉村敬太写真事務所」設立。広告や雑誌などで活躍する傍ら、日頃撮りためている玉村家の日常を「いのちがいちばんだいじ展」と題してweb上で展示。「きまぐれ写真館プンクトゥム」主宰。
愛用カメラ:makina67、Hassel blad 503cx、Canon 5Dシリーズ他
これは、一生をかけて見せていく“誠意”
自然のままに、家族の生活にこそストーリーがある
リビングに置いている、誰でも撮っていいコンパクトフィルムカメラ・CONTAX T2を使って、飾らない家族写真。
誰でも撮っていいコンパクトフィルムカメラをリビングに置いたことが、家族写真が深まるきっかけになったという玉村さん。
「そのカメラを買ったのは猫を飼うと決めたとき。家族写真のはじまりは”猫”だったんです。家族写真で大切にしているのは、よく撮ろうとかこう見せたいとかいうことはなるべく排除して、『かわいい!』『嬉しい!』といった、撮る側の感情が一番高まったタイミングでシャッターを切ること。最初からそう決めていたわけではなく、リビングにカメラを置いたことで、なるべく自然に撮れる仕組みができたからだと思います。写真の四隅に写り込んでしまった、畳んでいない洗濯物や破れたままになっている障子など、家族の生活にこそストーリーがあるんです」。
ただ幸せを感じた瞬間にシャッターを切っている
「“この夫に、この親父に、撮ってもらってよかった”と、自分が死んだ後にも思ってもらいたい。これからの自分の生き方によって過去の写真の見え方は変わってくるはずだから、たいせつな人を撮ることは、一生をかけて見せていく誠意なんだと思っています」。
長男の命名記念に撮った一枚。
「写真をはじめた頃は、写真を撮る時よりも、その先で写真がどう定着するかばかりを考えていました。未来へのプレゼント・投資のような感覚が大きかったのです。でも続けていくうちに、写真は目の前にあるものしか写らないという、ある種の諦めみたいな感覚に気づきました。以来、淡々と撮って、写ったものをどう解釈するかという楽しみ方になっていきました」。
自分の心を動かすのは、本当に些細なこと
「家族の撮影では、構図や距離感などテクニック的なことは考えず、体が反応するままに撮っています。何に反応してシャッターを切っているかは自分の中でも説明がついていません。振り返ってはじめて、よい光や表情、雰囲気、ときに悲しい時にも撮っていたのだと気づきます」。
家族写真のきっかけは大好きな猫。「きまぐれ写真館の名前も初代の愛猫『プンクトゥム』からつけました」。
「家族写真を見返すと、自分の心を動かすものは、本当に些細なことなのだと気がつきます。息子が蝶にふれた時、妻がなぜ泣いているのかわかった時、それに猫がすっと寄り添った時......。それは同時に、普段のクライアントワークにおいて気にしていることやこだわっていることが、写真の要素のほんの一部に過ぎないということの気づきでもありました。家族を撮っている時とあまり違わないまなざしや振る舞いで俳優さんや商品の撮影に臨めたら、嘘がなくていいなと思うようになりました。これだけ整わず、ボロボロの生活でも、私たちは幸せです。幸せは感じるものだと思っているので、もし私の写真が心に響いたという方がいれば、ご自身の周りに転がっている幸せを探して撮ってみてほしいと思います」。
撮っている時は気づかなかった普段見落としがちな親の表情も写し出されている
玉村さんが、家族を撮ることで喜びを感じるのは、写真を見返す時なのだそう。
「子どもの成長は早くて、ほんの1カ月でも前の写真を見るともう違って見えます。そして見落としがちなのは親の表情で、前の日は眠れなかったのかなとか、少し怒っているな......など、撮っている時には気づかないようなことも写真には写っているのが面白いと感じます。思いがけない写真に出会えるととても嬉しい気持ちになりますね」。
誇張せずに淡々と、息を吸うように撮り続けていく
「10年後、息子が中学生になった時には家族写真の意味や価値も今とは変わってくる気がしています。見る人も変われば時代も変わります。一枚の写真に普遍的な価値や役割はない。淡々と、想いを込めすぎずに撮り続けていきます」。
GENIC vol.65 たいせつな人、たいせつな時間
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.65
GENIC1月号のテーマは「だから、もっと人を撮る」。
なぜ人を撮るのか?それは、人に心を動かされるから。そばにいる大切な人に、ときどき顔を合わせる馴染みの人に、離れたところに暮らす大好きな人に、出会ったばかりのはじめましての人に。感情が動くから、カメラを向け、シャッターを切る。vol.59以来のポートレート特集、最新版です。